向井太一「CANVAS」インタビュー|塗り重ねた“キャンバス”から見えた核となる音楽性

向井太一の新作EP「CANVAS」がリリースされた。

「CANVAS」は向井が自身を取り巻く環境と改めて向き合いながら完成させた作品。新曲「Young & Free」「TRUE YOU」「Shut It Down」、テレビアニメ「遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!」2年目のエンディングテーマ「Cosmos」、アニメ「TIGER & BUNNY 2」パート2のエンディングテーマ「Pilot」の全5曲で構成されている。

MANATO(BE:FIRST)をはじめ若手アーティストからも支持される向井だが、一時は「音楽活動を辞めたい」と落ち込むこともあったそう。そんな時期を乗り越えた向井が、新たな挑戦を経て作り上げた「CANVAS」はどんな作品に仕上がっているのか。

取材・文 / 小松香里撮影 / 梁瀬玉実

「CANVAS」収録曲

  1. Young & Free
    [作詞:NOIZEWAVE、CLASSIC LAB / 作曲:NOIZEWAVE、KISSY、Little Island / 編曲:KISSY、Little Island]
  2. TRUE YOU
    [作詞:michico、Kole / 作曲:T.Kura、michico、Kole / 編曲:T.Kura]
  3. Shut It Down
    [作詞:向井太一、NOIZEWAVE / 作曲:NOIZEWAVE、Jung Jin Woo、Long Drive / 編曲:Long Drive]
  4. Cosmos
    [作詞:向井太一、NOIZEWAVE / 作曲:Konquest、NEUL、WHO$、U1、NOIZEWA VE / 編曲:Konquest]
  5. Pilot
    [作詞:向井太一 / 作曲:CELSIOR COUPE、向井太一 / 編曲:CELSIOR COUPE]

忘れかけていた“Young & Free”な感覚

──「CANVAS」はどんなイメージで制作されたのでしょう?

今まではアルバムのコンセプトを決めてから制作に入ることが多かったんですが、今回は曲単体で作っていって、最後にコンセプトを決めました。今作を制作していた時期、自分の気持ちがすごく揺れ動いていて。これまで、アートワークも含めて毎回違うコンセプトで何枚もリリースしてきたのに、急に「これで大丈夫なのかな?」と自信がなくなったんです。制作以外の自分を取り巻く環境の変化についても悩んでいて、「変わることってネガティブなことではないし、それこそが向井太一のアーティストとしてのスタイルなんじゃないか」と思うことで乗り越えることができました。キャンバスにいろいろな色を塗り重ねると最初のベースとなる部分は消えてしまいますが、僕がこれまで作ってきた音楽のように、さまざまな音楽を重ねてもベースはしっかり存在しているという姿勢を表したくて、「CANVAS」というタイトルをつけました。

向井太一

──新曲「Young & Free」「TRUE YOU」「Shut It Down」と、アニメのタイアップ曲「Cosmos」「Pilot」が収録されていますが、新曲3曲はとても鮮やかで奔放な印象がありました。ご自身の心境の変化も反映されているのでしょうか?

最近僕は韓国のヒップホップやR&Bをよく聴くんですが、跳ねた感じやかわいい感じのトラックにラップやメロディを乗せる楽曲が多くて、自分もそういうアプローチをやってみたいなと思ったんです。それで、「ANTIDOTE」(2022年5月発売の5thアルバム)にも参加いただいた韓国のNOIZEWAVEやT.Kuraさん、michicoさんたちと再度ご一緒して、当時自分が聴いていたものをナチュラルにアウトプットしたのがこの新曲なんです。

──1曲目のNOISEWAVEが手がけた新曲「Young & Free」はメロウだけど、サウンドはとてもカラフルで新鮮な印象を受けました。

NOISEWAVEは韓国のプロデューサーチームですが、日本にいるメンバーが完成したデモを送ってくれて、その後NOISEWAVEチームが一体となって作っていった曲ですね。

向井太一

──サビの「いつまでもYoung & Free」というラインは向井さんの信念にも思えました。

そうですね。先ほどお話したように、EPの制作を始めた頃は悩みに悩んで心が凝り固まっている状態だったこともあり、この歌詞の解放を促すようなメッセージは自分にいい影響を与えてくれそうだなと思いました。“Young & Free”な感覚は忘れかけていた気がします。数年前から自分で書かない曲が増えてきたんですが、それまでは自分が曲作りに関わりたいという思いが強くあったんです。でも、今作の「TRUE YOU」でご一緒したmichicoさんとT.Kuraさんに作っていただいた「BABY CAKES」をレコーディングしたときに、ほかの人の歌詞でも意外と自分の曲としてスムーズに歌えるんだなという発見がありました。そこから「絶対に自分が作らなきゃいけない」という意識がなくなって、より自由になれたんです。デビューから5年が経って、新人アーティストがどんどん増えて自分が中堅に近付いていく中で「同じことをしていてはダメだと思う」とチームにも言いましたね。でもそう言えば言うほど、手癖が目立つようになっちゃって。だからもっと音楽的に自分を解放して新しい要素を入れていこうと、作品全体を通して意識しました。

──こちらとしては向井さんのブランドはすでに確立されているような印象がありますし、若手ミュージシャンの中には向井さんをロールモデルに挙げる声もあります。ご本人としては刷新していきたいという気持ちが強いのでしょうか?

そうですね。目標としている場所にはまったく届いている感覚がありませんし。ただ新しいことに挑戦できたり、まだ自分が変われると思えたりしているうちは音楽を続けられると思っています。そういう気持ちがなくなったときが辞めどきなのかなって。実際に作品ごとに変化していけたことは自信にもつながりました。どんなことをやっていても、僕というアーティストのフィルターを通せばそんなにちぐはぐには見えない。ほかのアーティストから「影響を受けた」と言ってもらえると、今までやってきたことがしっかり粒立って見えてるのかなという手応えは感じます。

向井太一
向井太一

音楽家は人間臭いほうが魅力的

──michicoさんとT.Kuraさんが手がけた2曲目の「TRUE YOU」もビートの効いたファンキーなR&Bというアプローチで新しさを感じました。

この曲はmichicoさんから「最近どんな感じ?」と連絡をいただいて、リリースとかは考えずに制作を進めていった曲です。michicoさんチームとご一緒するのは3曲目でしたし、前作の「ANTIDOTE」はエッジが効いたパワフルなものが多かったので、少し力の抜いたものをやってみたかった。だから、これまでの僕の楽曲と比べてキーの設定が低いですし、新鮮に聞こえると思います。

──「TRUE YOU」のmichicoさんとKoleさんの歌詞はSNS社会のフェイクを揶揄しているように聞こえましたが、それについてはいかがでしょう?

この曲を作っていた時期はより本質的なものを作りたいと思っていて。SNSのおかげで曲が広がったり、海外の情報が入りやすくなったりしたというメリットは大きいですが、見え方を気にして人に合わせてしまったり自分を無理に変えたりする傾向もあって。ただ、最近は個人個人の考えや行動が尊重されるようになったというか、それはいい変化だと思う。一方で、SNSからはやっぱりネガティブな感情も生まれやすいのでカオスだなとは思いますね。この曲が、聴く人にとって自分自身の本質を見つめ直すきっかけになることを願います。

向井太一

──最後の「裸で勝負しろ」という歌詞を一番伝えたいのではないかと感じました。

僕は表に立って仕事をしているので、SNSできれいに見せることに対する安心感もよくわかりますが、音楽家は人間臭いほうが魅力的に思える。だから、「裸で勝負しろ」という歌詞を読んだときは、共感する部分が大きかったです。