音楽ナタリーでは台湾音楽の魅力を伝えるべく現地のメディアプロジェクト・Taiwan Beatsとタッグを組んだ特集「今、台湾音楽が面白い!」を3回にわたり展開中。第1弾では菅原慎一とKaede(Negicco)の対談を掲載した(参照:【台湾音楽特集】第1回|菅原慎一が台湾音楽の多彩な魅力をKaede(Negicco)にレクチャー)。第2弾となる今回は台湾のR&Bをテーマにした特集をお届けする。
台湾というと近年は落日飛車(Sunset Rollercoaster)やDSPSなどのインディーバンドがたびたび来日し、日本でもその存在を知られるようになっているが、R&B色の強いシンガーたちもじわじわと注目度が高まっている。ネオソウルとシティポップの香りを振りまく9m88(ジョウエムバーバー)、「台湾のアンダーソン・パーク」とも称される雷擎(L8ching / レイチン)などはすでに来日公演も行っており、ご存知の方も少なくないはずだ。
そうした中で台湾のR&Bシンガーと交流を深め、コラボレーションを果たしている日本人アーティストがいる。1人は今春にリリースされた最新作「COLORLESS」で新境地を切り開いた向井太一、もう1組はR&B色濃いポップサウンドで話題を集めるTHREE1989だ。向井はかつてオーストラリア生まれで現在台湾を拠点に活動するジュリア・ウーと共演。THREE1989は9m88のバックメンバーも務めるLINION(リニオン)と楽曲を制作している。両者とも台湾でのライブ経験もあり、同地への思いは強い。
台湾音楽特集第2弾となる今回は、向井とTHREE1989の2組に台湾でのライブのこと、共演時のエピソード、さらには両者のお気に入りアーティストまで、台湾R&Bの魅力について語ってもらった。また特集の後半には、音楽ライター・大石始が台湾R&Bの広がりについてつづったコラムに加え、大石とTaiwan Beats編集長BRIENの選曲によるプレイリストを掲載。ヘッダーのイラストは台湾のイラストレーター・Miyabi Shuuに描き下ろしてもらった。
取材・文 / 大石始 撮影 / 須田卓馬 ヘッダーイラスト / Miyabi Shuu
台湾リスナーの熱量
──向井さんは2019年に初のアジアツアーを行っていますよね。このとき台北や高雄の「台湾メガポートフェスティバル」でもライブをしていますが、そのときの反応はいかがでしたか?
向井太一 どちらもめちゃくちゃやりやすかったです。お客さんもウェルカムな感じだし、反応がすごくよくて。日本の僕のファンはもともとライブにあまり行かないような人も多いんですけど、台湾は「全力で楽しむぞ」という姿勢を感じました。自由に楽しんでいるというか。
──向井さんが向こうに行く前から曲が浸透していたんでしょうか。
向井 そうみたいですね。一緒に歌ってくれている人もいたし、曲を知ってくれている人もいて。どうやって広まったのかはわからないんですけどね。
──THREE1989も2019年に台北でライブをやっていますね。
Shohey(Vo / THREE1989) そうですね。JOURNAL STANDARDの台北店がオープンするということで、その記念にフリーライブをやったんです。フリーだったこともあって、お客さんの数もすごくて。
Shimo(Key / THREE1989) 店の外まで人があふれてましたね。
Datch(DJ / THREE1989) 向井さんがおっしゃっていたように、皆さんウェルカムで愛を感じました。
Shohey そうそう、愛を感じたよね。アイドルのコンサートみたいなうちわを作ってきてくれた人もいたんですよ(笑)。
向井 あ、僕のときもあった(笑)。弾幕を作ってきた人もいました。すごくうれしかった。
──THREE1989の楽曲もライブ前から台湾で聴かれていた?
Shohey サブスクだとどこの地域の人が聴いているのかわかるじゃないですか。それを見ていたら台湾でもけっこう聴いてくれていたみたいで。僕が「テラスハウス」に出ていたので、番組を通してTHREE1989のことを知ってくれた人も多かったんですよ。
──YouTubeに上がっているTHREE1989の動画を見ると、スペイン語のコメントも多いですよね。
Datch そうですね。スペインでも一度ライブをやったことがあるので、それ以来追いかけてくれている人たちがいるんです。
──向井さんの動画はタイやマレーシアからのコメントも多くて、本当に世界中の人たちがチェックしてるんだなと。
向井 タイは最近一気に増えましたね。一度アニメのエンディングテーマを担当したことがあって、それ以降SNSで海外のフォロワーが増えました。昔の動画にもコメントをくれるのは海外の方が多いですし。
Shohey 海外のリスナーのほうが愛を表現することに躊躇ないんですかね。日本だとちょっと戸惑うところがあるじゃないですか、恥ずかしがる人が多いというか。
向井 確かに自分たちがアメリカのアーティストに対してコメントを書くことを考えると、なかなかできないですよね。アジアツアーで握手会をやったことがあるんですけど、そのときも日本語で一生懸命話してくれたり、日本語で手紙をくれたり、熱心な方が多かった。
Shohey 台北でライブをやるときにがんばって台湾語でMCをやったんですよ。でも、僕の発音が悪すぎて全然伝わらなくて(笑)。こりゃダメだと思って日本語で盛り上げたら、すごく響いたみたいで。
──以前は海外で活動しようと考えると英語で歌うことが前提になってましたけど、最近ではどの国のアーティストも母国語で歌うケースが増えてきてますよね。
向井 うん、それはあるかもしれないですね。
Shimo 変わってきましたよね。
Datch 僕らが洋楽を聴くように、台湾や韓国の人たちも僕らの音楽を聴いているのかもしれないですよね。歌詞じゃなくてサウンドのほうを聴いてくれている。
向井 以前、イギリスのアーティストと一緒にやったことがあるんですけど、僕の日本語のフロウが特殊らしくて。もしかしたら日本語の響きに何か新鮮なものを感じているのかも。僕自身、最近ポルトガルのアーティストをよく聴くんですけど、ポルトガル語の響きってコロコロして楽しいなと感じるし。
向井太一が語るジュリア・ウー
──向井さんは2018年にジュリア・ウーと「FLY(Remix)」「Rendezvous」という2曲でコラボレーションしていますよね。どのような経緯で共演に至ったのでしょうか。
向井 アジア圏での活動を本格的に始めようということで、台湾のチームに相談したんですよ。その中でジュリアを紹介してもらって、「FLY」のリミックスをやってもらうことになりました。それが台湾でも話題になったみたいで、向こうのヒップホップのイベントに出演することになって。ジュリアともそこで初めて会って、すぐに新曲の相談をしました。
──展開が早いですね。
向井 海外アーティストとやるときって展開が早いんですよね。ニューアルバムでもロスのアーティストと作ったんですけど「今、来日してるらしい」という噂を聞きつけて、すぐに会いに行って、その場でトラックを選んで。それぐらいのスピード感なんですよ、いつも。
──アーティストとしてのジュリア・ウーについてはどう捉えてますか?
向井 一緒にやる前からジュリアの存在は知っていて、曲も聴いたことがあったんですよ。ゴリゴリのR&Bというよりは歌謡的なテイストもあって、そのバランスがすごくいいなと思いました。あと、ジュリアの発声って少し空気多めで、低音が響く感じなんですよね。声質としてすごく好きなタイプなんです。だから、ユニゾンで歌うとお互いの声が混ざり合うような感覚があるんですよね。
──ジュリアは現地でもかなり人気があるようですね。
向井 そうですね。ジュリアを含めてR&Bやヒップホップのアーティストがファッション界で影響力を持っていたり、ハイファッションのタイアップが付いていたりと、音楽とファッションの距離が近い感じはしました。
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THREE1989とLINIONの出会い
2021年8月13日更新