向井太一|人々の支えになる音楽

向井太一がニューアルバム「COLORLESS」をリリースした。

前回のアルバム「SAVAGE」(2019年9月発売)以降、他アーティストへの楽曲提供やYouTubeチャンネル「むかチャン」の開設、MVでの初演技など多方面で活躍している向井。果敢にチャレンジする姿勢を崩さず、じっくりと自身と向き合った末に完成させた「COLORLESS」には、百田留衣やCELSIOR COUPE、T.Kura、grooveman Spot、mabanua、SONPUB、ZUKIEなどのプロデューサー陣と生み出した多彩なサウンドと、ピュアな歌詞が融合した全13曲が収録されている。

音楽ナタリーでは向井に「COLORLESS」の制作秘話や、アーティスト活動に刺激をもたらしているというあらゆる取り組みについて話を聞いた。

取材・文 / 松永尚久 撮影 / 山崎玲士

進み続けるパワー

──「SAVAGE」をリリースしたあと、ご自身のキャリアにおいて最大規模となるツアーを大成功させるなど、この1年半は充実していたように思います。振り返ってみて「SAVAGE」は向井さんの活動に何か変化をもたらすきっかけとなったのでしょうか。

「SAVAGE」はダウナーな気持ちの入った楽曲が多かったというか。隠しておきたいと思っていた自分の内面を表現して、それを多くの人が受け入れてくださった手応えがあり、自信につながりました。これからもさらに前進し続けていこうという力になりましたね。

向井太一

──また、ご自身の音楽活動だけでなく、香取慎吾さんやNEWSなどへの楽曲提供、m-floの作品に参加されるなど、幅広い活躍も話題を呼びました。

楽曲提供はとても新鮮な体験で、好きだなと思いましたね。自分で歌う楽曲は、どうしても私的な感情、今置かれている状況を描くことが多く、完成までの間に疲労することもあるんです。でもほかのアーティストさんに向けて曲を作ることは、「この人がこれを歌ったら面白そう」とか、違うベクトルで音楽と向き合うことができるので、楽しくて。また、香取さんをはじめ、ずっと存じ上げている方と実際に会うことは、落ち込みがちだった当時の自分にいい刺激を与えてくれました。面白いことが表現できたのかなという。

──さらに、昨年4月にはテレビ朝日系「関ジャム 完全燃SHOW」にも出演。R&Bについてとてもわかりやすく解説されていましたね(参照:鈴木雅之、向井太一、松尾潔がR&Bの魅力を紐解く「関ジャム」)。

テレビでの解説は緊張しましたね(笑)。

──ご自身の音楽について語る機会は多いと思いますが、別のミュージシャンや特定のジャンルについて見解を語ることは珍しかったのでは?

確かに。今まではとても感覚的に楽曲制作することが多かったというか。ルーツとして好きだった音楽ジャンルはあるけれど、いろんなタイプの音をミックスして制作していたので、自分のやってる音楽はジャンルレスかなと思っていました。強いて言うなら、J-POPではあるけれどR&Bではないとか。漠然と考えていましたね。でも、改めて自分の音楽をカテゴライズして考える、聴く機会を与えていただき、勉強になったと同時に刺激にもなりました。

──ジャンルと言えば、最近シティポップが国内外で注目されるようになっています。向井さんもその枠で語られることが多い気がしますが。

今改めて聴くと1970〜80年代のシティポップってすごいと思う。音の作り方に刺激を受けますが、自分の音楽が現代におけるそれにはあてはまらないのかなと。

──シティポップとジャンル分けされることに違和感がありますか?

自分の音楽は、変化球的な存在なのかなと思います。R&Bやヒップホップをベースにしている方が多い中で、僕の音楽はよりJ-POPに寄り添っている気がするし、そういう音楽にしたいと意識しながら作ってます。

ピュアな言葉に変化

──確かに、最新アルバム「COLORLESS」もジャンルにとらわれない音になっていますよね。これまでの作品との違いはありますか?

今までやってきたこととスタイルは基本的に変わっていません。その瞬間に自分が表現したい、伝えたいことをナチュラルに音にしているだけで。本作においても今、自分が作りたいサウンドとか、歌詞の世界をよりドラマチックに響かせたくて、そういうモードが表現されていると思います。ただデビュー当時は、歌詞の世界とあえて真逆の雰囲気のサウンドをミックスさせるのが好きでしたね。

──制作開始当初から、アルバムの全体像のイメージはありましたか?

ありました。僕は制作に取りかかるにあたり、次はどういうコンセプトで何を伝えたいかを考えてから取り組むタイプなので。

──そのコンセプトはいつ頃見えたのでしょう?

昨年リリースしたEP「Supplement」にも収録されている「僕のままで」が完成した頃からです。この曲のミュージックビデオでは色彩を強く感じさせるものを表現したかった。それが大きなきっかけになったと思います。

──アルバムは、ブラックミュージックの要素をベースにしながらも、楽曲ごとに異なる発色を楽しめる内容になっていますね。

僕は欲張りなタイプなので、マニアックな方もライトなリスナーも聴きたくなるようなアルバムにしたいと思いました。自分だけが楽しめたらいいというような、独りよがりの作品にだけはしたくなかった。たくさんの方々に支えられて今の自分があるのだから、その人たちが喜んでいただける音楽を作りたいという思いが念頭に強くあるので。活動を重ねていくことによって、その思いはますます強くなっている気がします。ゆえに歌詞もだいぶ変わってきたところはありますね。より多くの人に届きやすいもの、普遍的でピュアな言葉を使うようになったのかなって。

いつもより長い制作期間

向井太一

──本作は、国内外さまざまなプロデューサーとタッグを組んで完成させたものですよね。そこも、幅広いリスナーに届けることを意識して選んだのでしょうか?

基本的には個人的に一緒に制作したいと思った人にお声がけした感じです。1曲目「僕のままで」とタイトル曲「Colorless」はメッセージ性のある歌詞がより伝わりやすい曲に仕上げたくて、百田さんにお力添えいただきました。8曲目の「Don't Lie」はアザド・ナフィシーさん、ウィリアム・レオンさんにプロデュースしていただいて。純粋に彼らの音楽が好きで、新たな音楽のアンテナも張り巡らせておきたいという気持ちもあったのでお願いしてみました。アルバム全体のバランスを考えつつ、やりたいことが実現できたのかなって。

──多彩なプロデューサーと、カラフルなサウンドで構成された作品ですが、不思議な統一感がありますよね。そこは向井さんがコントロールして、調整されたのでしょうか?

振り返ってみると今回は制作期間が通常より長く、レコーディングをスタートさせたあとにゼロから作ったものも多かったですね。なので全体を見て、「こういうタイプのサウンドを収録したい」というイメージが心のどこかにあった気がします。また、完成した楽曲はどれも素晴らしかったので、組み合わさったときに自然と流れができた部分もあるのかなって。