Mrs. GREEN APPLEはなぜ愛情と希望を歌い続けるのか?「ラーゲリより愛を込めて」主題歌「Soranji」に見える、バンドの真髄に迫る (2/3)

表裏一体の強さと弱さを描いた「私が最強」

──シングルには「ONE PIECE FILM RED」に提供してAdoさんが歌った「私は最強」のセルフカバーが収録されますが、原曲はすでにストリーミング累計1億再生回数を突破しているとのことで(取材は10月中旬に実施)。

大森 すごいですよね。速い!

──「私は最強」は劇中キャラクター・ウタのパワーを一番感じるようなシーンで使われていて、エネルギーに満ちた曲だとは思うのですが、同時に「さぁ、怖くはない 不安はない」「大丈夫よ 私は最強」と自分に言い聞かせて奮い立たせているようにも感じました。どういうふうに作っていった曲なんでしょうか?

大森 「私は最強」は去年の夏くらいから制作に取り掛かったのかな。「ONE PIECE」の映画の劇中歌の1つで、ボーカルはAdoさんで、作中のウタちゃんという子が歌う楽曲だということでお話をいただいて。僕らはそのとき活動休止中で、いつ復帰するのか目処がまだ立ってなかったんですけど、それより前に休止してすぐメンバーに「『ONE PIECE』読んでおいて」と言っていたんですよね(笑)。

──偶然にも。

大森 「ONE PIECE」も作中でルフィたちが2年間それぞれ鍛錬する期間があって。当時僕らは2年とは決めてなかったんですけど、すごく学べるものがあるんじゃないかなと思っていたんです。「ONE PIECE」はミセスのバイブルの1つとして掲げていた作品なので、オファーをいただいて、「これはぜひやりたいです」という話をしました。尾田先生から資料をいただいて、ウタちゃんが決して悪役ではないことや、楽曲が流れるシーンは明確にわかっている状態で曲を作り始めて。台本ではそのシーンに「私が最強」という仮タイトルを尾田さんのほうで付けてくださっていたんですが、「このタイトルは僕だったら絶対付けないな」と思ったので、「私“は”最強」というふうにさせてもらいました。おっしゃってもらった通り、自分の強さと弱さが表裏一体になっているウタちゃんの心情を書いているんですが、それは誰しもが抱く感情だと思ったので、そこに落とし込んで書いていけたらいいなと考えて。バンドのメンバー編成が変わって、レコーディングすらどういうふうにやっていいかわからない中で、1つの楽曲が明確に立つというのは、僕らも背中を押されたというか、フェーズ2の旗を揚げるために必要な楽曲だったよね。

若井 そうだね。初めて聴いたときは、ともかくミセスらしさが詰まった曲だなって。元貴自身、「ミセスを意識して作れた」と言っていたので。

大森 そう。“ミセスがミセスを意識して作ってる”ので、ミセスに決まってるんですよ、この楽曲は(笑)。

──そこを意識して作ることはけっこうあることなんですか?

大森 いや、同じような性質の楽曲を作るというのはなるべく避けたいと思っていますね。でも、今回は映画に携わるアーティストの方々が全部で7組いらっしゃって、すべてAdoちゃんが歌ってる中で、誰が楽曲提供したかが露骨にわかるようなフックが欲しいなと。それにはやっぱりミセスがミセスらしさを爆発させるしかないなと思ったので。普段あんまり考えてないことですけど、あえて「ミセスっぽいね」というところを考えていきました。

──サウンドもミセスらしいんですが、ウタの心情を書いた曲だとは理解しつつ、この曲から浮かび上がってくる人物像が個人的にはすごくミセスに近いと感じて。強さと弱さが織り交ざった感じが、聴けば聴くほどフェーズ2に向かっていくミセスの姿に重なったのですが、自分たちの気持ちはどれくらい意識的に重ねていたんでしょうか?

大森 僕はそんなに意図して自分らのことを書こうとは思っていなかったんですよ。ただ僕のポリシーとして、嘘はなるべくつきたくない、ノンフィクションでありたいという思いがあって。そうすると、僕と相反するものができるわけがないんですよね。今振り返ってみると確かに当時の自分たちの姿を歌っている曲でもあるとは思います。どう? 「自分らの曲だな」って思った?(若井と藤澤のほうを見ながら)

藤澤 自分らの曲でもあるし、個人的には“自分の曲”だなって(笑)。

大森 ははははは。

藤澤 やっぱド頭で「さぁ、怖くはない 不安はない」って自分に言い聞かせるところが……僕自身、すごく元気にステージに立っているんですけど、根本的には不器用で不安に思ってしまうことが多いタイプの人間なんです。この曲に向き合っていく中で元気をもらいましたし、最後のほうで出てくる「いつかの夢が 私の心臓」という歌詞が本当にその通りだなって。自分を突き動かしているものはなんなのかと考えたときに、自分が昔描いた夢だったり、「こういうふうにやりたい」と思った気持ちだなと休止期間の中で感じていたので、すごく好きなフレーズですね。

大森 今読んだらいい歌詞だね。

藤澤 気付いた?(笑)

大森 ウタちゃんと自分の弱さと強さの共通項を見つける作業から始めたので、僕が投影されるのは至極当然なことだと思うんですが、今歌詞を読み直して、「あー、なるほどな」と思えることがありますね。ミセスは瞬発力みたいなものを楽曲に求めたりするので、いざ作ってみてリリースまでして、ふとした瞬間に聴いたときに「なんかすごい曲だな」って自分で思ったりします。「私は最強」のポテンシャルに一番遅く気付くのが作者の僕であると言っても過言ではないくらい時差がある(笑)。

それぞれのエネルギーをナチュラルに投影したかった

──自分たちの気持ちが反映された曲だからこそ、セルフカバーすることにも意味があるように感じました。

大森 それは思います。でも原曲をレコーディングする際に、セルフカバーのリリースを見越して同じ日にオケをレコーディングしてるんですよ。

──曲の入りや間奏など、要所でウタバージョンから各楽器のフレーズが変わっていますが、全部その日に。

大森 そうです。初めから「私は最強」は僕らでもリリースしたいという話を先にしていたので、提供しているようで自分らの持ち曲という2つの感情が織り交ざった感覚ですね。

──ミセスの楽曲は基本的には各パートのフレーズも含めて大森さんがデモの段階で考えていると思うのですが、ウタバージョンもミセスバージョンも編曲クレジットが“Mrs. GREEN APPLE”表記になっていて。ということは、若井さんと藤澤さんが各々フレーズを考えているということですよね?

大森 そうですね。なんとなく僕がガイドを作ったものはあれど、どうぞお好きにという感じでした。「私は最強」は活動再開に向けて最初にレコーディングした楽曲だったので、それぞれのスキルや溜まっているエネルギーみたいなものをナチュラルに投影したかったんです。だから僕が「ここはこうして、ああして」って言うんじゃなくて、それぞれの持ち場を任せようと。

藤澤 ミセスのほうにはバンドらしい息遣いが入るように、ウタちゃんのほうは歌モノっぽくボーカルが映えるようなアレンジに、ということを意識しながら、ひさしぶりのレコーディングで「こういうふうにしたい、ああいうふうにしたい」とイメージがいっぱい湧いてきました。純粋に「フレーズを詰めることができるんだ」といううれしさが大きかったですね。レコーディングも楽しみながらスムーズにやれて。

大森 今までこんなレコーディングなかったでしょ?(笑)

若井 はははは。

藤澤 それまでは緊張や不安と戦いながらずっとレコーディングしてたので(笑)。

大森 りょうちゃんは生真面目なので、その場のノリでどうこうというよりも、性格的にちゃんと事前に準備してレコーディングに臨みたい人なんですよね。それがよさなんですけど、それによって自分の首を絞めてる瞬間が今まではあって。フェーズ1では、りょうちゃんの中でしたいことやビジョンが明確だったからこそ、そこに対してできてる、できてないという正解、不正解が絶対存在しちゃうようなレコーディングになってたんです。でも「私は最強」はまったく異なるというか。この人楽しんで弾いているなと感じたし、活動休止に意味があったんだなと強く思いましたね。若井もポンポンポンポン弾いてたので。

若井 (笑)。ひさしぶりにみんなで音を出せる喜びというか、ワクワク感はありました。ギターを弾くこと自体もひさしぶりなのに、元貴に「ここのギター考えてみて」って任せられて、最初ちょっと戸惑ったんですけど。いざどうしようかなというときに、けっこうするするとフレーズが出てきて。元貴も「いいじゃん」みたいな感じだったよね。

大森 「こういうのどう?」という案がたくさん送られてきて。選択肢がある柔軟な感覚でレコーディングに臨めましたね。まあ、若井はそのあとの「ニュー・マイ・ノーマル」のレコーディングで苦しんでましたけど(笑)。

若井 (苦笑)。