◯◯を作りたいといつも思ってます
──「産声」は偶発的に生まれた曲でもあるんですね。「こういう曲を作ろう」と狙ったのではなく。
本当にそうだと思います。もし狙い通りのものができたとしても、自分では感動できないから。意図して作るのではなく、何かが生まれるのをずっと待ってるというか。そうやって曲ができたときって、やっぱりうれしいので。歌詞もそうなんですよ。「産声」の2拍3連のメロディがループしていく感じが輪廻のイメージにつながって。
──「君がここにいるってこと それだけで奇跡なんだよ」というフレーズは本当に印象的でした。この歌詞もメロディによって引き出されたんでしょうか?
これも田原との会話がきっかけだったかな。「空也上人」という曲もあって、最初に書いた歌詞に対して「今の世の中だったら、炎上するかもしれない。書き換えたほうがいいんじゃない?」と言われて。僕自身は作品や芸術に対して、たとえ世間の価値観とズレていたとしても「作品の中では、そういうこともあり得るんじゃないか」と思っている節があるけど、田原にそう言われて、いろいろ考えました。「空也上人」で僕が表現したかったのは、「苦しんだり迷ったり、迷いの中に入り込んでしまうくらいなら、思い通りにいかないのが人生と捉えたらどうだろう?」ということだったんです。考え方をちょっとシフトすることで急に前向きになれたり、視界が開けることがあって。いつも自分はその瞬間を狙っている……ということを話したんですよ。その帰り際に、田原から「この時代の中で、今の僕らがメッセージを伝えるとしたら、どういうことなんだろうね?」と投げかけてもらったんです。その言葉もちょっと引っかかっていたと思うし、そういうやりとりが「産声」の歌詞につながっているのかもしれない。今日を生きて、そこにいるだけでいいというか。よくも悪くも、何かと関わり合って存在してることに意味があるんじゃないかなと。
──歌を作ること自体、社会や世間の影響を受けると思います。田原さんがおっしゃったように今は“炎上”のリスクもありますが、桜井さんにとってこの社会に向けて歌を作ることのやりがいとはどんなことでしょう?
やりがいというか、音楽が実質的に物事を成功させたり、経済を動かしたりはできないと思ってるんですよ。ただ、発想や捉え方を変えることはできるんじゃないかなって。曲を聴いたことで、その人の発想が変化して、何かが動き出す。そういう作品を作りたいといつも思ってます。
慣れないし、ずっと緊張してる
──そのほかの収録曲についても聞かせてください。アルバムの1曲目「キングスネークの憂鬱」は、打ち込みのビートが聞こえてきた瞬間、ここからアルバムが始まる!という高揚感がありました。
ライブのイメージもありましたね。今回のアルバムは大規模の会場で演奏することを思い描きながら作っていたところもあって。
──2曲目の「Again」は先行配信された楽曲です。ひさしぶりに地上波の音楽番組でも披露されましたが、手応えはどうでしたか?
音楽番組は全然慣れないし、ずっと緊張してます(笑)。しかもSNSですぐに評価されるじゃないですか。あれも怖いです。
──新曲の評価が気になるということですか?
それもあるし、音楽をやっているといつまでも若いつもりだったりするけど、Mr.Childrenも年齢を重ねてますからね。僕らが作る曲がビジュアルや声、仕草みたいなものと合っているのか、リアルに聞こえるかどうかは大事なことで。自分たちよりもテレビを観てくれた人のほうがそれを正しく評価できる気がするんですよね。
手癖ではないコードを使った「Saturday」、物足りない男を描く「Glastonbury」
──「Saturday」も先行配信されていますが、素晴らしいポップソングだなと思いました。アルバムリリース後のアリーナツアーのタイトル「Saturday in the park」にもつながっていますが、同じ題名の有名な曲がありますね。
はい(笑)。Chicago、好きなんですよ。リアルタイムではほぼ聴いてなかったけど、大人になってからすごく好きになった。
──「Saturday」のコード進行はすごく凝っていますが、これもChicagoの影響ですか?
自分ではそんなに凝ってるとは思ってないんですけどね。ChicagoやThe Alan Parsons Projectをけっこう聴いてた時期があって。あの人たち、ヘンなことばっかりやってるんですよ(笑)。自分の頭がそういう回路のときに作っていたので、いつもとはちょっと違う感じになったのかもしれない。その最中は「変わったことをやろう」とは思ってないので、コード進行をメモしたときに「なんだこれ?」という(笑)。自分の手癖ではないコードを使っているので、解析するのに時間がかかりましたね。
──「Glastonbury」は「2002年のグラストンベリー YouTubeでチラ見 クリスは絶好調」という歌詞で始まります。僕も2002年の「グラストンベリー・フェスティバル」のColdplayを観てみましたが、確かにクリスは絶好調ですね。
すごいですよね。この歌詞を書こうとしたときに、「冒頭で“グラストンベリー”と歌うのがふさわしい」と思って。日本ではなく、もっと遠くにイメージを飛ばしたくて、グラストンベリーという言葉を使おうと決めました。そこからグラストンベリーのことを調べ始めたんだけど、2002年のColdplayがすごくよかったんです。歌詞の内容としては、“何かが物足りない。世界のどこかに自分を満たす何かがあるはずだ”と思っている男の歌ですね。
──そういう欠乏感は桜井さんの中にもあるんですか?
いっぱいあります。ただ、僕の場合は「世界のどこかに物足りなさを満たすものがある」という方向には向かなくて。自分の内側を探ろうとするタイプではあります。
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桜井のサックスに気付かない




