Bank Band「沿志奏逢 4」特集第1回|小林武史が語る集大成ベストに込めたメッセージと今後のビジョン

Bank Bandが2枚組ベストアルバム「沿志奏逢 4」を9月29日にリリースする。

非営利組織「ap bank」の可能性を広げるため、音楽プロデューサーの小林武史、Mr.Childrenの櫻井和寿を中心に2004年に結成されたBank Band。「沿志奏逢 4」のDISC 1には、宮本浩次(エレファントカシマシ)がボーカルで参加した新曲「東京協奏曲」をはじめとするオリジナル楽曲に、フジファブリック「若者のすべて」、岡村靖幸「カルアミルク」、KAN「何の変哲もないLove Song」、HEATWAVE「トーキョーシティーヒエラルキー」などのカバーを加えた13曲が、DISC 2には野外イベント「ap bank fes」での貴重なライブ音源12曲が収められ、18年におよぶ活動の集大成と称すべき作品となっている。

音楽ナタリーでは2回にわたって「沿志奏逢 4」の特集を展開。第1回では小林武史にインタビューを行い、「沿志奏逢 4」の制作エピソードを軸に、Bank Bandの意義と今後のビジョンについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 堀内彩香

どんな状況であっても、やるしかない

──「沿志奏逢 4」はBank Bandの18年間を総括するようなベストアルバムです。Bank Bandの始まりをよく知らない読者もいらっしゃるかと思いますので、このタイミングで改めて、バンドの成り立ちについて教えてもらえますか?

小林武史

Bank Bandはもともと、ap bankの活動の一環として結成されたバンドなんです。ap bankの立ち上げは、2001年の“9・11”(アメリカ同時多発テロ事件)が1つのきっかけだったんですが、10年後の2011年に東日本大震災があり、それ以降は被災地の復興支援が活動の中心になって。さらにその10年後にコロナ禍になり、ap bankとしても、新しい展開をしなくちゃいけないと思っていました。櫻井(和寿)くんとも電話でいろいろな話をしましたが、人間も自然の一部であることに謙虚に向き合い、継続可能な未来に向けた活動にシフトする必要があるなと。もちろん、そんなに簡単な話ではないし、いろいろな課題もあるんですけどね。コロナ禍のカルチャー、エンタテインメントに関しては、「全体のことを考えると、活動を止めるべきだ」という動きになったわけだし。

──ライブやフェスなどが軒並み中止になり、音楽シーンも甚大な影響を受けましたからね。

ええ。今年になって「感染が収まるのではないか」という気配があったので、次に向かって準備を始めていたこともあり、この夏の状況は大変で。本当は誰も対立したいと思っているわけではないし、利他が利己につながることもわかっているはずなんだけど、なかなか難しい場面もありましたからね。ただ、我々表現者は「どんな状況であっても、やるしかない」という覚悟を持って制作に身を投じていて。今回のBank Bandのベストアルバム(「沿志奏逢 4」)も、「今、何ができるか?」ということから始まっているんです。

──コロナ以降の状況を踏まえたap bankの新しい動きとリンクしている、と。

はい。ベストアルバムに関するコメントにも書かせてもらったんですけど、Bank Bandは自分たちの営利目的ではなく、ボランティア活動として存在しているバンドで。音楽を楽しむよりも、多くの人にap bankの活動を伝えたり、環境やエネルギーなど、いろいろな問題について考えてもらうことがその役割なんです。それは今も変わっていないのですが、これまで生み出してきた楽曲をまとめてみることで、「Bank Bandを通して、自分たちもたくさんの喜びを受け取ってきたんだな」と確認できた。レコード会社のスタッフ、ap bankに関わってくれている人たちともいろいろな話をしたし、ベストアルバムという形に着地できたことで、改めて気付かされることも多かったですね。

MISIAが巫女のように表現してくれた

──ではベストアルバムの収録曲について聞かせてください。まずDISC 1の1曲目「forgive」は、震災から10年目の節目に作られた楽曲で、作詞は櫻井さん、作編曲は小林さんです。

小林武史

きっかけとしては、今年の3月11日に放送された「音楽の日」(TBS)が大きいですね(参照:「音楽の日」の全歌唱曲とタイムテーブル発表、初披露のBank Band×MISIA新曲タイトル決定)。「今年の『音楽の日』にBank Bandとして関わってもらえないか」という話があったのは去年の秋くらいなんですが、僕としては数年前から「震災から10年目の年に何かできないだろうか」と考えていて。コロナ禍になり、東北に人を集めるのが難しい状況だったので、「音楽の日」からのオファーは渡りに船だったんです。テレビの生放送であれば、たとえ一方通行だったとしても、離れている人たちにも何かを伝えられるんじゃないか、と。

──実際、Bank Bandと「音楽の日」のコラボレーションは、大きな話題を集めました。

とても多くの人から共感の声をいただき、音楽には触媒の役割があるんだなと改めて感じました。僕らはいろんな問題意識を持ちながら、表現に身を投じて。「音楽と日」とのコラボは、自分たちの音楽を受け取ってくれた人たちと響き合い、分かり合えるきっかけになったと思うし、それをまとめる曲として「forgive」という曲があったんじゃないかなと。「forgive」はかなり複雑な構成の曲なんですが、まず僕がメロディを作って、櫻井くんがすぐに「いいと思います」と賛同してくれました。「forgive」というタイトルは櫻井くんが付けてくれたんですが、“らしいな”と思いましたね。“forgive”(許す)という言葉はこの夏、皆さんに配って回りたいほど(笑)、大事な意味を持っていたじゃないですか。

──いろいろな価値観、考え方、意見がぶつかり合い、分断が進んでいる印象もありますからね。

楽曲のモチーフをものの見事に表した言葉だと思うし、それをMISIAさんがホーリーな歌で、まるで巫女のように表現してくれて。僕やバンドのメンバーも演奏していて楽しかったです。

宮本浩次と櫻井和寿を天使に見立てて

──新曲「東京協奏曲」では、宮本浩次さん、櫻井さんの共演が実現しました。

「東京協奏曲」は僕が作詞・作曲した、東京という都市のこれからの未来、格差の広がり、これまでよしとされていたシステムの変化などを自分なりに表現した曲です。

──「東京は 夢も 恋も 痛みも 愛も ポジもネガも 歌に変える」という歌詞もあって。

はい。最初は宮本くんにこの曲を歌ってもらえたらと思ったのですが、Bank Bandのリリースもあり、「櫻井くんと一緒に歌うのはどうだろう?」と提案したら、2人とも「もし実現したら面白そうですね」と賛同してくれたんです。このタイミングでリリースするには、かなり繊細な楽曲だし、どういう形で着地できるか考えていたんですが、ミュージックビデオ撮影のときに、この楽曲の役割みたいなものが見えてきたんです。ディレクターは児玉裕一くんなんですが、彼から「銀座の和光の屋上で撮りたい」という話があって。最初は「ん?」と思ったんだけれども、ヴィム・ヴェンダースの「ベルリン・天使の詩」にインスパイアを受けた演出なんですという話を聞いて、「それはいいな」と思ったんです。

──「ベルリン・天使の詩」は、人間の生活に寄り添う2人の守護天使が主人公ですね。

そうなんです。エゴとの戦いの中で活動を続けてきた櫻井くんと、どこか不器用で、七転八倒しながら歌ってきた宮本くんを、人間にメッセージを伝える触媒というか、まさに天使のように見立てて。その演出は素敵だったし、映像を観たときに、この曲の役割がはっきりしたんですよね。


2021年9月29日更新