Mr.Children桜井和寿ソロインタビュー|「30周年は単なる入り口でしかない」ミスチルが見据える未来への道のり

Mr.Childrenがデビュー30周年を記念したベストアルバム「Mr.Children 2011 - 2015」「Mr.Children 2015 - 2021 & NOW」をリリースする。

「Mr.Children 2011-2015」には「hypnosis」「足音 ~Be Strong」など2011年から2015年までにリリースされた楽曲が収められている。そして「Mr.Children 2015 - 2021 & NOW」には「ヒカリノアトリエ」「Documentary film」など2015年から2021年までに発表された楽曲に加え、Netflixで配信中の映画「桜のような僕の恋人」の主題歌「永遠」、映画「キングダム2 遥かなる大地へ」の主題歌「生きろ」といった新曲を収録。各ベストには過去の公演より厳選されたライブ音源入りのCDが付き、Mr.Childrenのライブバンドとしての魅力を堪能できる。

現在、約3年ぶりとなる全国ツアー「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」を開催中のMr.Children。音楽ナタリーでは桜井和寿(Vo, G)に単独インタビューを行い、2作のベストアルバム、新曲「永遠」「生きろ」の制作、「こんなにも強く『このツアーを成功させたい』と思ったことはない」という30周年ツアーへの思いなどについて語ってもらった。

取材・文 / 森朋之

「ここからまた始めるんだ」という決意

──桜井さんへのインタビューは2020年12月発売の「SOUNDTRACKS」以来となります(参照:Mr.Children「SOUNDTRACKS」インタビュー)。まずはこれ以降の活動について聞かせてください。アルバムを引っさげたツアーは実施されなかったわけですが、「この先、どうなるんだろう」という不安はなかったですか?

不安はそんなになかったですね。悶々とすることはありましたけど、不安に思ったところで、やること、やれることは変わらないので。“今できること”を考えて行動に移すというのを繰り返してきました。ただ、30周年の年、2022年に大きいツアーをやることは決まっていたので、「そこまでにはなんとかコロナが収束していてくれ」と願っていましたね。

──昨年もバンドリハーサルを続けていたそうですね。

自分たちがミュージシャンであることを忘れそうな感じがあったんですよね。リハはそれを思い出すためでもあったし、ただバンドで音を鳴らしたかったんですよ。

──メンバー同士で過ごす時間を作ることで、今後のビジョンについても話し合えたのでは?

そうですね。いろいろな方々の力を借りてMr.Childrenというプロジェクトは動いているんだけど、中心にいる4人の意思やモチベーションを確認し合えました。3人(田原健一、中川敬輔、鈴木英哉)の30周年に向かう気持ちを知ることで、自分自身のモチベーションもさらに高くなって。そういうコミュニケーションは深められたと思います。

──現在行われているツアーのタイトルは「Mr.Children 30th Anniversary Tour 半世紀へのエントランス」。30周年を超え、50周年への旅が始まるという意思を強く感じました。

そうありたいな、ということですね。あとはなんだろう、1つ区切りができることで、そこで満了するような感じになるのがイヤだったんです。自分が50歳になったとき、ちょっとそういう気持ちになったんですよ。50歳から51歳の1年間は自分の中でなかなかエンジンがかからなかったんですけど、51歳になったときに、なぜか「ここからまた始めるんだ」という気持ちになって。数字の暗示にかかってしまったというか……そんな経験もあったので、「30周年は単なる入り口でしかない」と思いたかったんです。そういう言霊を掲げて、さらに先に進んでいけたらいいなと。

「これぞMr.Children」というアレンジを探して

──5月11日にデビュー30周年を記念した2作のベストアルバム「Mr.Children 2011 - 2015」「Mr.Children 2015 - 2021 & NOW」がリリースされます。「2015 - 2021 & NOW」に収録されている新曲のことから聞かせてもらえますか?

はい。

──まずは「永遠」。Netflix映画「桜のような僕の恋人」の主題歌ですが、桜井さんは「これでもかってくらい感情移入し、物語にシンクロさせてこの曲を制作しました」とコメントしてますね(参照:Mr.Children新曲は中島健人主演の映画主題歌「これでもかってくらい感情移入して制作しました」)。

そうですね。初々しい恋愛を題材にした物語なんですよ。その中に病気や死というテーマもあるんだけど、原作を読んだときに「この物語に入り込んで映画を観るのは、今、リアルに恋愛に対するモチベーションが高い年代の方々なんだろうな」と思って。自分たちとはずいぶん年齢が離れているし、決して自分たちからは出てこないストーリーなんですけど、だからこそ映画の力を借りて、恥ずかしげもなく、キラキラと初々しい恋愛を歌ういい機会をもらえたなと。なので、できるだけ物語にシンクロして曲を書いてみようと思いました。

──今現在のMr.Childrenの表現に落とし込むという意識はあまりなかった?

「永遠」に関しては、物語に没入して作ってましたね。コロナ禍の制作だったので、自分たちがステージに立って歌う姿が全然想像できなかったんですよ。

Mr.Children「永遠」配信ジャケット

Mr.Children「永遠」配信ジャケット

──「永遠」のアレンジには小林武史さんが参加しています。小林さんとの制作は2015年発売の「REFLECTION」以来7年ぶりですが、どうでした?

素晴らしかったですね。イントロとアウトロを小林さんが作ってくれたんですけど、それだけで涙が出るような感じがあって。「すごいな」と思ったし、マネしようとしてもできない、小林さんじゃないとできない仕事だと思います。Mr.Childrenの生かし方をよく知ってるというか。

──Mr.Childrenの生かし方というと?

それがわかったら小林武史になれるんですけどね(笑)。その質問はいつか小林さんに聞いてみてください。

──(笑)。そもそも小林さんにアレンジを依頼したのはどうしてなんですか?

最初は自分でアレンジしてたんですよ。「これぞMr.Children」という切なさ、キュンとした部分を探してたんですが、なかなかうまくいかなくて。1カ月くらい費やしたんですが、やっぱり納得できず。アレンジがよくないのか、そもそも曲がよくないんじゃないかと思い始めて、よくわからなくなってしまったんです。それで「これは小林さんにお願いしたい」と。

──なるほど。桜井さんの中で「これぞMr.Children」という音のイメージとは、どんなものなんですか?

いろいろあるんですよね。音楽的なことでは、例えば「このコードに対して、カウンターのメロディを9thやメジャー7thのテンションでぶつけていく」みたいなことだったり。あとは曲全体のコード感だったり、僕の声質もあるんでしょうけど、いくら解読しても、しきれないところがあると思っていて。以前、奥田民生くんが僕らの曲をラジオで聴いて、イントロだけで「ミスチルだ」ってわかったらしいんですね。そのときはドラムのちょっとした跳ね方でわかったみたいなんですが、そういうたくさんの要素が重なっているんだと思います。

新人バンドのように接してくれる

──「生きろ」はMr.Childrenの新しいアンセム、代表曲になりうる楽曲だと思います。映画「キングダム2 遥かなる大地へ」の主題歌としても話題ですが、制作はいつ頃行われたんですか?

確かアルバム「SOUNDTRACKS」の制作が終わって、ちょっと経った頃に主題歌の話をいただいたのかな。デモ音源の段階から壮大で勇ましい、大陸を感じるような音像をイメージしていたから、「こういう曲だったら、『SOUNDTRACKS』を一緒に作ったサイモンとスティーヴがいいんじゃないかな」と。

──編曲を手がけたサイモン・ヘイル氏、エンジニアのスティーヴ・フィッツモーリス氏ですね。

はい。まず東京でバンドの音を録って、それを向こうに送って、オーケストラの音をダビングして。こちらからは「ロマンティックで勇ましく」というリクエストをしていました。

──「SOUNDTRACKS」と同様、「生きろ」も本当に豊かなサウンドですよね。桜井さんにとって、スティーヴ氏が手がける音の魅力とは?

Mr.Childrenは日本では30年やってるバンドなんだけど、スティーヴはそういうことを知らないわけじゃないですか。僕らの今までの歴史をさらに積み上げていくのではなく、それこそ新人バンドに接するように、「この音をベストな状態にするにはどうしたらいいか?」を考えてくれるエンジニアなんですよね。なので、遠慮なく音を変えてくれるんです。例えばドラムを録るとしますよね。その音もすごくいいんだけど、次の日にスタジオに行くと、昨日の音と全然違ってたりするんですよ。編集して、音像を変えてるんだけど、それが本当によくて。イヤな気持ちは一切なく、「すごい!」ってみんなで興奮して、喜んで。そうやって自分たちの可能性や、それまで見えてなかった音の世界を見せてくれるんですよね。

──キャリアやネームバリューとは関係なく、純粋にクリエイティブに向き合えるエンジニアやアレンジャーを求めていた?

ロンドンに行ってスティーヴとやりたいというのは、田原の提案だったんです。僕自身は外に何かを求めることがあまり好きじゃないんですよ。ロンドンに行って何かを見つけようとするよりも、自分の内側にロンドンを見つけたいと考えてしまいがちなんだけど、実際に行ってみたら素晴らしくて。行かなくちゃわからないことってあるなと思いましたね。しかも、その後の制作にも生きてるんですよ。「生きろ」のサウンドは間違いなく、ロンドンの経験があったから生まれたんだと思います。