Mr.Childrenが未来につなぐ命のリレー、桜井和寿がニューアルバム「産声」に託した願いは

Mr.Childrenのニューアルバム「産声」がリリースされた。

2022年5月にデビュー30周年という大きな節目を迎えたMr.Children。同年にベストアルバム「Mr.Children 2011 - 2015」「Mr.Children 2015 - 2021 & NOW」を同時リリースして以降も、2023年10月にオリジナルアルバム「miss you」を発表するなど、ロックバンドとして進化の歩みを止めることなく突き進んでいる。そんな彼らにとって2年5カ月ぶりとなるオリジナルアルバム「産声」には、1音1音に生命を宿すように制作された全13曲が収められている。

音楽ナタリーでは桜井和寿(Vo, G)に約4年ぶりにインタビュー。完成したアルバムを車の中で聴き、このインタビューに臨んだ桜井は、「産声」の制作過程とともに、楽曲を作り続ける意義や作り手としてのあり方について語ってくれた。

取材・文 / 森朋之

妥協なきレコーディングを実現するため

──ニューアルバム「産声」、じっくり聴かせていただきました。現在のMr.Childrenのサウンド、メッセージが生々しく込められた作品だなと。

ありがとうございます。

──制作が始まったのは「miss you」(2023年10月発売のアルバム)を引っさげたアリーナツアーの直後だったそうですね。

レコーディングはそうですね。デモの制作はツアーの途中くらいから始まってました。ツアーが終わる頃には半分くらいそろってたかな。それ以降にできた曲もけっこうあります。

──アレンジ、レコーディングはどんなスタイルだったんですか?

まずドラムを全曲録ったんですよ。デモの段階でアレンジの全体像は見えていたので、骨格となるドラムを最初に録って。ギターとベースに関しては、メンバーそれぞれがやりやすい環境でフレーズを考えて、録音しました。みんなで立ち会うのではなく、データでやりとりして。お互いのプレイを聴いたら、「ここはもうちょっとこうしたほうがいいんじゃない?」みたいな話をメールや電話でして、またやり直したり。僕もボーカルは自分のスタジオで録ったし、あとはコーラスパートを考えたり、コンピューターの中で別の音を加えたりしてましたね。

──1人ひとりがじっくり時間をかけてアレンジを練っていったと。

そうですね。みんなでスタジオに入ると、僕がフレーズを考えたり、何回もトライしたりしているときにほかのメンバーやスタッフを立ち会わせることになるじゃないですか。それが申し訳なくて、「もっと追求したいけど、これでOKにしておきますか」みたいに落としどころを見つけてしまうんです。今回はそうじゃなくて、納得いくまで妥協なくやれたんじゃないかなと。メンバーに対してもそうなんですよね。一緒に立ち会ってると「どんな苦労をして、どれだけ時間をかけてそのプレイにたどり着いたか」が見えてしまう。「大変だったんだな。じゃあ、これでよしとするか」とつい思ってしまうので。

──リモートでの制作だと、フレーズを客観的に判断できるのかも。ボーカルのレコーディングはどうでしたか? 良し悪しをジャッジするのは難しそうですが。

確かに難しさもあるけど、自分の中で「こういうふうに声を響かせたい」というイメージがあるので、そこにできるだけ近付けていって。歌い手としては「このテイクのほうがきれいに響いてるな」と満足してても、みんなに「デモのほうがいい」「粗さがあるからいいんだよ」と言われて、デモのまんまにした曲もありますね。7曲目の「平熱」とか。

──そういう場合は、メンバーの判断を尊重するんですね。

そうですね。自分が満足したテイクもファイルに残して持ってますけど(笑)。

いい曲なのか、わからなくなった

──アルバムの全体像についてはどうでしょう? 最初からイメージがあったのか、制作しながら固まってきたのか。

ギターの田原(健一)が曲順を決めたんですけど、「こんなのはどう?」と提案があったときに「なるほど、こういうパッケージの仕方か」と。そのとき初めて、アルバムの全体像が見えてきたんです。特に、最後に「家族」を持ってくるというところですね。

──フォークロック的な手触りの楽曲ですね。桜井さん自身のリアルな思いが反映されている印象がありました。

この曲は前作の「miss you」が完成するかしないかくらいの時期からあって。そのときも「miss you」に収録するか迷ったし、今回のアルバムに「家族」が合っているかどうかも悩んでいたんです。ちょっと死の匂いがするというのかな。この曲には、自分が死んでいなくなったあとのことや、どうやって死んでいくかを考えながら生きてるイメージがあるんですよね。僕の実年齢にふさわしい物事の考え方だとは思っていて、それがそのまま歌詞にも反映されています。自分にとってはとても大事な歌ではあるんですけど、ポップミュージックとして、Mr.Childrenの曲として世の中に出ていっていいものかどうか迷ってたんですよ、個人的に。でも、この曲が最後にあることで、アルバムが輪廻転生していくことを表現できて。「なるほど、そういうくくり方なんだな」と思いました。

──命がつながっていく大きな時間の中で、今の自分たちが存在している。そういうイメージは確かに、このアルバムの根底に流れていると思います。そのことを象徴しているのがタイトルトラック「産声」でしょうか。この曲を書いたのはいつ頃ですか?

アルバム制作のわりと後半ですね。「アルバムを総括するような大きい曲があるといいよね」と田原に言われて。そのときは「そうかなあ? そういう曲がなくても成立してるような気がするけど」なんて思ったんですよ。でも、田原に言われたことがどこかに引っかかったまま、しばらく生活していて。「産声」を作るきっかけになったのが、アルバムに入っている「ウスバカゲロウ」なんです。メロディ、アレンジを含めて「これは果たしていい曲なのかな?」とわかんなくなっちゃって。ときどきそういうことがあるんです。

──制作しながら何度も聴いてるうちに、曲に対する判断ができなくなる。

そうですね。そのときに「ひょっとしたらAメロを作り換えたほうがいいかもしれない」と思って。そしたらAメロだけじゃなくて、次のパートやサビも浮かんできて、「これはまったく別の曲になり得るな」と。それが「産声」なんです。