20歳までの森七菜が詰まった1stアルバム完成、新曲のひと言解説で紐解く「アルバム」の全貌 (2/2)

誰かの「無人島レコード」になってほしい

──ここからは「アルバム」全体のお話を伺っていきたいと思います。以前のインタビューで「サブスク世代なのでアルバムを買ったことはないんですけど、収録曲に一貫するテーマがあったりするアルバムならではの表現は素敵だなと思います」とおっしゃっていました(参照:森七菜インタビュー|新海誠監督に作詞を直談判、「背伸び」で見せたさらなる音楽活動への意欲)。かなり幅広い楽曲が収録されたアルバムになりましたが、本作のテーマはなんでしょう?

「挑戦する」というテーマがあって、自分のいろいろな面を出していきたいと思ってました。ちょっと大袈裟かもしれないですけど、そうやって作ったアルバムが、聴いた人にとって人生の1枚というか、無人島に持っていくようなものになるといいなって。本当にたくさんの方々に協力してもらったおかげで、私の願いが最大限実現できてすごく満足してます。

──まさにおっしゃる通りのアルバムだと思います。タイトルも「アルバム」ですし、21歳の誕生日に発売ということもあって、「20歳までの森七菜が歌っている」ということ自体がコンセプトになっているようにも思いました。

それもすごく意識しましたね。「今しかできないこと」というか。

森七菜
森七菜

──楽曲を提供した皆さんも「現在の森七菜」を思い浮かべながら制作されたと思うんです。この先、森さんが年齢を重ねて状況も変化していく中で歌い続けていくことで、曲の意味合いも変わってきますよね。ドキュメンタリー性が高い作品だからこそ、そういった未来に向かう面白さも強く感じました。

年上の方々からしたら「まだまだ若いよ」と感じると思うんですけど、自分としてはこの数年間で大きな変化もあって。例えば、2020年にリリースした「スマイル」は「もうあのときみたいには歌えない」と思うこともありますし(笑)。でも、その変化がすごく自分自身でも面白いんですね。お芝居だと、年齢や人間性も演じる役柄に近付けていくというか、1つのキャラクターに自分が向かっていく感覚が強いんですけど、歌は曲自体を自分の方に引き寄せる感じなんです。その違いも面白いですね。

──何年にもわたって同じ役をやり続けるということは稀ですが、音楽は歌い続けるものですもんね。「『スマイル』のときは親戚の女の子がカラオケしてるように歌いました」ともおっしゃってましたが(参照:森七菜インタビュー|歌手デビューから1年半、新曲「深海」でAyaseに託した思い)、現在では地に足がしっかりついていて、“姪っ子感”はかなり薄くなりました。

そうですね。成長したのかも。「あの姪っ子、しばらく見ないうちに大きくなったな」と思ってもらえたらうれしいです(笑)。

森七菜

大分で交わした約束がついに

──このアルバムを作るにあたって、参考にした作品はありますか?

特に具体的なものはなかったですね。スタッフさんと話し合いながら進めていきました。でも完成してからは、ほかの音楽を聴くときに“アルバム”というものをすごく意識するようになったんです。この前、あいみょんさんのアルバム(「瞳へ落ちるよレコード」)がリリースされたんですね。今までは1曲単位で聴くことが多かったんですけど、アルバム全体で聴きたいと思って。サブスクが解禁される瞬間を待って、1曲目からアルバムの流れを意識しながら聴くという体験をしてすごく楽しかったです。「あいみょんさんも曲順で悩んだりしたのかな」とか、勝手に親近感を持ったりして(笑)。

──作ったことで、アルバムというものの価値を実感したんですね。

作っても楽しいし、聴いても楽しいし、「私ばっかり好きなことをやらせてもらっていいのかな」という気持ちになりました(笑)。早くみんなにも聴いてもらいたいですね。

──初回限定盤には56ページにおよぶフォトブックも付いています。こういったビジュアルで表現できるのもフィジカルリリースならではですね。

私の歌の活動を応援してくれている人もいるし、女優としての活動を応援してくれている人もいるので、何かこの機会に恩返しできないかなと思って。

森七菜
森七菜

──多方面で活躍する森さんならではですね。

「アルバム」をみんなに手にとってもらえるように、いろんなところを工夫しました。……気に入ってもらえたらうれしいですね(笑)。

──記念すべき1stアルバムですもんね。

そうですよ! 自分でもまさかアルバムを発表できるとは思ってなかったので、すごくうれしいです。

──東京と地元大分でワンマンライブ「㐂~よろこび~」も決まっています。

「ラストレター」(2020年公開の岩井俊二監督作)が公開されたときに大分でフリーライブをやったんです。そこで「また戻って来ます!」とお客さんに約束したんですけど、コロナ禍になってしまってなかなか実現できなくて。絶対いつか果たそうと思ってがんばってきたんで、今回大分でもライブできることが決まって安心しました。「あの子、約束守んないじゃん」と思われてるんじゃないかと心配だったので(笑)。

──悪評が立つ前に実現できてひと安心ですね(笑)。どんなライブになりそうですか?

まだ決まってない部分も多いんですけど、待っていてくれた人たちがいると信じて、喜びをみんなで分かち合えるようなライブにしたいです。

──「今後はこういうライブをしたい」という野望はありますか?

なんだろう? 野外フェスには出てみたいです。まだ行ったことはないんですけど、すごく自由なイメージがあって。みんなで芝生の上で歌って踊って……原始的というか。

──確かにそうかもしれない(笑)。

私も大勢の人と一緒に歌って踊りたい(笑)。今はがんばりすぎて凝り固まってる人が多いと思うから、「みんな1回力を抜こうぜ」という雰囲気で、リラックスした時間を過ごしたいですね。

森七菜

ちゃんと苦しめよ、自分!

──1stアルバムが無事リリースされたあとも、アーティスト・森七菜の活動は続いていきます。大きな壁にぶち当たることもあるかと思いますが、森さんはどうやって壁を乗り越えますか?

もうすでに曲ごとに壁にぶち当たってます(笑)。まあ、でも楽しんでやれてるのかなと思いますね。あとから思い返して「あのときはヤバかったね。大変だったよね」とスタッフさんと笑い合えてることのほうが多いです。そういう笑い話が増えるのが毎日の活力になるし、誰かにその話をしてるときが一番楽しいです。

──笑いながら壁も越えられると。

いえ、越えているときはめちゃくちゃつらいです。楽しんで乗り越える方法は見つかっていないというか、楽しんでしまうとその経験が自分にとって軽いものになってしまうような気がして。「もっとちゃんと苦しめよ、自分!」と。そういう苦悩があるから、乗り越えたあとは楽しい気持ちになれるんだと思います。

森七菜
森七菜

──もう十分いろいろなことに挑戦されてますが、ほかにもやってみたいことはありますか?

応援してくれている人たちと、コミュニケーションがとれる場所がもう少し作れればなと思います。お芝居や音楽では届けられない喜びもあると思うので、いつか実現させたいです。

──具体的にはどういうことになりそうですか?

自分がデザインしたものを持ってもらえるようにする、とかですかね。でも、なんというか、例えばお芝居するときに自分自身をあんまり見られたくないっていう気持ちも正直あるんですよね。

──役を見てほしいということですか?

そうです。自分の本質を知られたくないという気持ちが実はあるんですよ。複雑な気持ちなんですけど、どこか神秘的な存在でいたいというか。私がいじめられる役をやったときに、「でもこの人って『スマイル』を歌ってるんだよな」と観ている人の頭の片隅に浮かんだりすることもあると思うんですよね。

──なるほど、ノイズになってしまうというか(笑)。

そうそう(笑)。これからそのバランスが難しくなることもあるのかなと思いつつ、応援してくれてる人たちにちゃんと恩返しをしながらやっていきたいですね。

森七菜

ライブ情報

もりなな LIVE 2022「㐂~よろこび~」

  • 2022年9月24日(土)大分県 T.O.P.S Bitts HALL
  • 2022年9月27日(火)東京都 harevutai

プロフィール

森七菜(モリナナ)

2001年8月31日生まれ、大分県出身。2019年7月に公開された劇場アニメ「天気の子」でヒロイン・天野陽菜役に抜擢され一躍脚光を浴びる。その後、数多くの映画やドラマに出演し、2021年3月に「第44回日本アカデミー賞」新人俳優賞を受賞した。2020年1月公開の映画「ラストレター」では岸辺野颯香、遠野裕里(高校時代)役を務め、主題歌も担当。その主題歌「カエルノウタ」で歌手デビューを果たした。同年7月に大塚製薬「オロナミンC」のCMソングとしてホフディラン「スマイル」をカバーし、配信リリース。2021年8月にYOASOBIのコンポーザーとしても活躍するAyaseが提供した「深海」、10月に「天気の子」の新海誠監督が作詞した「背伸び」を配信リリース。2022年6月には森山直太朗が作詞作曲した「bye-bye myself」を配信し、8月に1stアルバム「アルバム」を発表。9月に東京と地元の大分でワンマンライブ「もりなな LIVE 2022『㐂~よろこび~』」を行う。

着用衣装:トップス:NONTOKYO、パンツ:F/CE.
スタイリスト:甲斐修平
ヘアメイク:池田ユリ