「Naked Soldier」は“ボクっ娘”です

──それでは、ここからは具体的にアルバム楽曲についてお訊きします。冒頭3曲の流れは、まるでライブのオープニングのような畳み掛けっぷりですよね。2曲目「Naked Soldier」の作詞・作曲を手がけているKOUTAPAIさんは、過去の楽曲だと……。

「Stay Gold」（2011年8月発売の25thシングル「純潔パラドックス」カップリング）以来ですね。実は「Naked Soldier」も「Stay Gold」と同タイミングでいただいたデモの中にあった曲で、ものすごく心を打ち抜かれたんです。ずっと「ここぞ！」というときに形にしたいなと思っていたのですが、まさに今だ！と。今回の新曲の中で最初にアルバム収録が決まったのがこの曲ですね。

──冒頭からアルバム全体の流れを決定付けるような、すごく勢いのある楽曲ですね。

この曲は歌のレンジがすごく広くて。アレンジャーの中山（真斗 / Elements Garden）さんがスタジオで作業をしていたら、それをたまたま聴いたエンジニアさんに「誰の曲？」って訊かれて「水樹奈々さん」って答えたら「えっ？ 男の人じゃないの!?」って驚かれたらしくて（笑）。男性キーくらい高いメロディが出てくる曲なんです。

──各曲ごとのボーカルスタイルは迷いなく決められるものですか？ 例えば5曲目の「ダーリンプラスティック」などは、最近のシングル曲で聴くことができるような力強く勇ましいボーカルスタイルとも、バラードソングでのやさしい歌声とも違う印象を受けたのですが。

「ダーリンプラスティック」は歌入れに一番時間がかかりました。歌詞の内容と曲の雰囲気から「ベッドに腰掛けて、何気なく鼻歌を歌ったらこの曲になった」みたいなイメージだったんですよ。ちょっと落ち込むようなことがあって、過去の恋愛を思い出して、「あの人は今頃何してるんだろう」みたいな。でもそれは決して悪い別れ方をしたわけじゃなく、すごくいい思い出になってる恋で、それを回想しながら歌っているような。だからこの曲は、力強く声を張るんじゃなく、逆にルーズに歌うほうがハマるんじゃないかなと思ったんです。録っては聴き、録っては聴きっていう作業を何度も繰り返して、一番いいバランスで歌が乗るところを探りながらレコーディングしました。

──さわやかな8ビートで、新たな一面が垣間見える曲だなと。

私としてもすごくチャレンジできて良かったなって思う曲ですね。すっぴんで歌えた曲（笑）。ライブで歌うときのような勝負服ではなく、お化粧も落として普段着を着て、ありのままでリラックスして歌っているっていうような感じが出せたかなって。

──ほかにボーカルスタイル、歌による表現の部分で苦労した曲はありますか？

ちょっとした表現で曲のカラーが変わってしまうという意味では「Naked Soldier」も難しかったです。強い言葉も多いし、歌い上げるような曲調ですけど、ただ力を込めて歌っても暑苦しくなってしまうんです。そんなときKOUTAPAIさんがくれたアドバイスは「ボクっ娘」です（笑）。女の子だけど自分のことを「僕」と呼ぶ、中性的な女の子。

──あー、なるほど！ それは非常に的確なアドバイスですね。

熱く攻めていくというよりは、風のように爽快に駆け抜けてみんなをいざなうような。思い切りドーン！と押すんじゃなくて、サーッと風のように包み込んで、いつの間にか走り去って行くようなイメージで歌えたらなあって。歌の表現ひとつで曲調が大きく変わるものは今回とても多かったですね。

ポストちゅるぱや！「Lovely Fruit」

──4曲目の「Lovely Fruit」はフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマとして秋からオンエアされていますが、この曲は今作の目玉のひとつですね。水樹さんの人気曲「DISCOTHEQUE」の続編、ポスト“ちゅるぱや”と言える楽曲で。

そうなんですっ！ まさに！ この曲はまず最初に「トリコ」のエンディングテーマの話をいただいていて。戦闘シーンがあってカッコいいけど、テンポが良くってコミカルな作品だし、串田アキラさんがオープニングテーマの「ガツガツ!!」で男らしい部分を激アツに表現されているので、エンディングは思いっきりキュートに振り切った曲にしたくて。「トリコ」は大人の方はもちろん、小学生の男の子に支持されている作品なので、子供たちが思わずマネして一緒に歌いたくなるような、インパクトのあるダンスミュージックがいいなって。子供も大人も聴いてカッコいいと思えるダンサブルな曲にしたいと上松（範康 / Elements Garden）さんにお願いしました。

──確かに小学生男子がノリノリで楽しめる楽曲なんですが、ファンクやジャズの要素がハイレベルな形で練り込まれてますよね。チビッ子はもちろん、音楽にうるさい大人をも同時に魅了する音楽なんじゃないかと。

ブラスの音色やジャズ的な要素は絶対に入れたくて。あとは「トリコ」の世界に出てくる「いただきます」って言葉だったり、食に関する印象的なフレーズを入れることを意識しました。さらに「サビは畳み掛けるような感じがいいです」と上松さんにお伝えして、生まれてきたのがこの曲で……「まさにこれです！」という感じでした（笑）。

──この曲はビデオクリップも作られているんですよね。どのような映像になりましたか？

食べ物に関するフレーズがたくさん出てくる曲なので、ちょっとレトロなアメリカンダイナーが舞台になりました。私はローラースケートを履いたウエイトレスという設定なんですけど、ちょっとドジで店長にいつもこっぴどく叱られてるみたいな。そういうちょっとしたドラマ仕立てのシーンもありつつ、いつもライブで踊ってくれてるダンサー、チームヨーダと一緒にダンスしてるシーンがあったり、すごく盛りだくさんです。ポップでコミカルな、アメリカンテイストの仕上がりになりました。

──最近のクリップでは“カッコいい水樹奈々”が多かったので、ちょっと新鮮ですね。

去年の「POP MASTER」（2011年4月発売の24thシングル）のクリップは武道館でガンガン弾けて撮影したものでしたけど、作り込んだ映像作品で笑顔が出てくるのは「COSMIC LOVE」（2008年発売の17thシングル「STARCAMP EP」収録曲）以来なんです。監督さんも「やっと笑顔の奈々ちゃんが撮れるからうれしい」って（笑）。だから映像チームの皆さんも思いっきり楽しみながら撮影してましたね。いつもだとシリアスなシーンを撮ることが多いから、なんとなく現場もピリッとしてるんですけど、今回は朝方まで続く長い撮影だったのにずっと和やかムードで。いつもとは全然違った雰囲気で楽しかったです。