ナタリー PowerPush - 宮川弾
宮川弾の2ndアルバム「ニューロマンサー」完成 シンセサイザー&セルフボーカルで描く新世界に迫る
プロデューサー、アレンジャー、ソングライターとして活躍する宮川弾が、1月28日にソロアルバム第2弾「ニューロマンサー」をリリースする。
架空の楽団「宮川弾アンサンブル」として、曲ごとに多彩なボーカルを招き、管弦楽器を中心とした流麗なアレンジのポップスを奏でた1stアルバム「pied-piper」から一転。新作「ニューロマンサー」ではシンセサイザーを多用したエレクトリックなサウンドにあわせ、宮川弾自身が歌を歌っている。
今回のインタビューでは、前作から大きく変化したその音楽性や“ボーカリスト・宮川弾”について、そして「ニューロマンサー」に込めた真意についてたっぷりと語ってもらった。
取材・文/臼杵成晃
ボーカリスト・宮川弾の誕生「自分でもまさかの選択」
——約2年3カ月ぶりのソロアルバムということになりますが、今作の構想はいつ頃から練り始めたんですか?
いつぐらいからだったかな。前作を作ってすぐ考え始めていた気もするけど……答えが見えたのは1年ぐらい前ですね。デモ音源の制作を始めたのがそのぐらいの時期。
——1stアルバム「pied-piper」は「宮川弾アンサンブル」名義ということもあり、どこか「作・編曲家の作ったリーダーアルバム」という趣がありましたが、今作では宮川さん自身がボーカルをとられていますし、「シンガーソングライターのソロアルバム」として楽しめる内容になっていますよね。宮川さん自身はこの違いをどのように考えていましたか?
曲を作り始めたころは、ボーカルの候補として自分の名前を挙げていたわけではないんですよ。仮歌はいつも自分で歌うんですが、最初に作った「サタデーナイト」の仮歌を入れたとき「アレ? なんとなくこの感じもいいかな」と。
——あの曲も当初は別のボーカルを立てようと考えていたんですか?
作る段階では誰々に歌ってほしい、と明確に考えてたわけではなかったんですけどね。曲に合うボーカルを探しているときに……自分でもまさかの選択で(笑)。
——宮川さんのボーカル曲がレコーディング作品として発表されるのは、今作が初ですよね。
メインボーカルとしては初めてかな。仮歌はいつも自分で歌ってるし、コーラス録りなんかは、クレジットはしないまでも自分で歌ったりしていたので、歌うこと自体にそんなに抵抗はなかったんですけど。
——これまでに自身のボーカル楽曲を作ろうとは思わなかったんですか?
うん。まったく考えたことなかったです。
スタッフ:前作を作ったときに、ゲスト参加してくれた安藤裕子さんがけっこう強力に薦めてましたね。安藤さんは宮川の歌うデモテープを聴いて練習したうえでレコーディングしたんですけど、「これで全然いいよ、こっちの方がよくない?」って。
——私もかなり良い歌声だなと思いました。低い声と高い声がユニゾンで混ざっている感じが、今の音楽シーンにはあまりない個性的な響きを持ってますし。
よかった。それを聞いて安心しました(笑)。
——今回は最初から、シンガーソングライターモードで作り始めたのかなと予想していたのですが、そうではなかったんですね。
ええ。結果的に自分のボーカルで行こうと決めてからは「こういう声の男がいたとして、そいつをプロデュースするつもりでやろう」と思いながら作業しました。こういう声があったとして、何をやろうかなっていう。
——かなり客観的なスタンスですね。
いやー、それでも自分の歌に関しては、完全に客観視することはできないですね。
——すべて録り終えた今、ボーカルに対する気持ちに変化はありますか?
うーん……。いつもそうなんですけど、自分で作ったものを自分で聴けるようになるまでに、僕は結構時間がかかるんです。なんというか、自分の中でのバランスを取るのがすごく難しくて。もちろん、自分の作る音楽についてはいつも「自分で聴きたい」と思えるものを目指しているんだけど、よくできた部分さえ「あ、ダメだったかな」って思い始めちゃったりすると、まったく聴けなくなってしまう。だから「ニューロマンサー」に関しても、冷静に聴けるようになるのはたぶん1年後ぐらいじゃないかなと思います。自分の歌について考えるのはそのころかなあ。
宮川弾(みやかわだん)
バンド「ラヴ・タンバリンズ」のキーボーディストとして1993年にインディーズレーベル「Crue-L Records」よりデビュー。当時の日本の音楽シーンにはほとんど前例のなかった本格的なソウル・ミュージックを演奏するバンドとして人気を博し、のちに「渋谷系」と呼ばれるシーンの礎を築いた。
ラブ・タンバリンズ解散後はプロデューサー、アレンジャー、ソングライター、サポートミュージシャンとして活躍。特にストリングスアレンジには定評があり、Fantastic Plastic Machine、Cymbals、安藤裕子ほか数多くのアーティストの楽曲に華麗な彩りを与えている。
2006年10月25日に「宮川弾アンサンブル」名義による初のソロアルバム「pied-piper」をリリース。「電気音楽を使わない」というコンセプトのもと、安藤裕子、太田裕美、土岐麻子、直枝政広(カーネーション)、畠山美由紀といった多彩なボーカリストをゲストに招き、美しいポップスを作り上げた。
2009年1月28日に2ndソロアルバム「ニューロマンサー」を発表。個人名義となった今作では、宮川自身が初めてボーカルを披露するなど、新たな試みにも挑戦している。