Aiobahnインタビュー|謎多きヒットメーカーのバックグラウンドに迫る

今話題の音楽プロデューサーAiobahnを知っているだろうか? 日本の特撮作品やギャルゲー音楽に影響を受け、欧米のダンスミュージックシーンでも高い評価を得るなど、幅広いジャンルで活躍している“エレクトロニック・ミュージック・プロデューサー”だ。ゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」の音楽を担当したのを機に一躍注目を浴び、テーマ曲「INTERNET OVERDOSE」はYouTubeで1800万回再生、関連楽曲「INTERNET YAMERO」は4000万回再生を突破している。

そんなAiobahnが新曲「non-reflection feat. 牧野由依」をリリースした。昨年4月のメジャーデビュー以降、やなぎなぎやナナヲアカリといったアーティストとのコラボ曲を立て続けにリリースしてきたAiobahnだが、新たなコラボ相手として牧野由依を選んだのにはどのような経緯があったのだろうか? いまだ謎の多いAiobahnのルーツやバックグラウンドを紐解きながら、楽曲制作の裏側を聞いた。

取材・文 / 森朋之

入り口はダンスミュージック

──Aiobahnさんはさまざまなジャンルの音楽を発表していますが、一番大きなルーツはやはりダンスミュージックですか?

そうですね。Swedish House Mafiaだったりアヴィーチーだったり。リスナーとしてはヨーロッパのダンスミュージックから音楽に触れ始めました。最初はハウスを中心に作っていたんですが、最近はジャンルを絞ることはせず、“自分にできるものであればいろいろとやってみる”という感じになってます。

──曲を作り始めたきっかけは?

趣味で曲を作っていた知り合いがいて、その人に機材のことなどを教えてもらったのがきっかけですね。最初は僕も趣味としてやっていて、音楽を生業にしようという意識は特になかったんですけど、かなりハマってしまって。個人で曲を発表していくうちに少しずつ広まって、自然と仕事につながりました。こちらからアピールしたことはほとんどないので、こうして活動できているのは運がよかったんだと思います。

──カナダのバンクーバーに拠点を置くエレクトロ音楽系レーベル・Monstercatからもリリースしていますね。

はい。インターネットで音楽をやっている人たちとつながっていく中で、海外にも知り合いができて。その中にMonstercatからリリースしている人がいたので、自分もちょくちょくレーベルに音源を送っていたんですよ。最初は断られていたんですけど、数年後にやっと出せるようになりました。

──なるほど。Aiobahnさんはゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」の音楽やテーマ曲「INTERNET OVERDOSE」、関連楽曲「INTERNET YAMERO」を手がけたことで知名度を大きく上げました。このプロジェクトに関わった経緯は?

ゲームの原作を作ったにゃるらがもともと知り合いで……経緯は本当にそれしかないです(笑)。当時は音楽の仕事がそこまで多いわけでもなかったし、ゲーム音楽は作ったことがなかったから、いい経験になるなと思って。「こういう音楽で」というオーダーもあるにはあったんですが、かなり自由に作りました。テーマ曲についても特に注文はなくて、自分が作りたいように作らせてもらいました。

──「INTERNET OVERDOSE」はユーロビート系のトラックですが、Aiobahnさんにとってユーロビートはどんな音楽ですか?

一番イメージが強いのは「頭文字D」のサントラですね。自分が小学生の頃からすごく有名だったので、ネットで聴いたりする機会もあって。主題歌はm.o.v.eさんでしたけど、サントラはデイヴ・ロジャースさんだったり、海外のアーティストが作っている曲が多かったんですよ。ユーロビートのブームはリアルタイムで体験できていないんですけど、時代に左右されない音楽だと思うし、洒落てる音として受け止めていました。以前から作ってみたいと思っていて、それを形にしたのが「INTERNET OVERDOSE」です。

──「INTERNET YAMERO」は80年代のテクノをはじめとしたいろいろな要素が混ざっている印象です。

こちらに関しても特にオーダーはなかったんですけど、どうして自分がこの方向性を選んだのかちょっと思い出せないです(笑)。確かにいろんな要素が入ってますよね。

──「INTERNET OVERDOSE」のミュージックビデオの再生回数は1800万以上、「INTERNET YAMERO」は3200万を超えています。この反響をどのように捉えていますか?

どちらもゲームの楽曲なので、自分の意図とは関係なく伸びたと言いますか。反響を一番実感できたのは、YouTubeにマナーのないコメントが増えたこと(笑)。前は僕のオリジナル曲を聴いてくれるリスナーしかいなかったけど、今はそうではなくて。いろんなリスナーにリーチできるようになったのはうれしくないとは言いませんが、この2曲は僕が普段作っているような曲とは違いますからね。ゲームのサントラのイメージばかりになってほしくないという気持ちもけっこうあるんですよ。新しい曲を作って、今はそれを広めることに集中しているのも、そういう理由があるんです。

──冷静ですね。ゲームやアニメの楽曲自体はこれまでも接してきてたんですよね?

そうですね。というか、邦楽にはそういうカルチャーが当たり前のように含まれているので。拒否感とかはまったくないです。

ただただ自分の作りたいものを作ってる

──昨年4月からはavex traxから楽曲をリリースしていますが、Aiobahnさんはメジャーレーベルから楽曲を出すことの利点をどのように感じていますか?

一番大きいのはコラボの制限が減ったことですね。自分1人でやっていたときは、限られた予算の中でやりくりしていたので、かなり制限があったんですよ。今はそうではなくて、ある程度やりたいことをやれるし、作りたいものに集中できる。そういう環境で制作できるのは大きな利点だと思っています。

──なるほど。メジャーリリース第1弾の「Re: searchlight」は、やなぎなぎさんをフィーチャリングアーティストに迎えた楽曲でしたね。このコラボはどのような経緯で決まったんですか?

やなぎなぎさんは以前から「一緒に曲を作ってみたい」と思っていた方で。この曲はやなぎなぎさんのボーカルに合わせて作った感覚が強いです。普段はまず曲を作ってから「どういう声が合うだろう?」と考えるんですが、「Re: searchlight」は逆で。自分が作りたいものを作ることができたと思います。

──Pile in the skyの植草航さんが手がけたMVは、スペーシーな世界観の映像ですね。

はい。クリエイターの方も自分で選ばせてもらいました。こちらの方向性というか、最低限の情報を共有したうえで、その先はお任せして。自由にやってもらいたいという気持ちがあったし、あまり干渉したくなかったんですよね。アニメーションのMVも自分1人で活動していたら作れなかったので、実現できてうれしかったです。まだ現実感がありません(笑)。

──第2弾楽曲「しあわせになんかならないでfeat. ナナヲアカリ」はかなりポップな方向に振り切った楽曲だなと。

どういう方向性にするか事前にかなり考えたんですけど、わかりやすくポップな曲を作ろうと思ったことがなかったので、あえてやってみようと。ナナヲさんの普段の楽曲もポップな曲が多いので、自分が合わせてみようという気持ちもありました。歌詞については完全にナナヲさんにお任せで。こちらからは何も提示していません。自分は音回りだけに集中してました。

──コライトに近いのかもしれないですね。

そうですね。もし自分に「こういう方向性の歌詞がいい」という考えがあれば意見を出したかもしれないけど、ナナヲさんはご自分で作れる方なので、任せたほうがいいものができるだろうなと。作業自体はすごく面白かったし、自分の普段の楽曲とはかなり違う雰囲気が出せたと思います。リスナーにとってもけっこう新鮮だったんじゃないかなと。

──作品を出すにつれて、ジャンルの幅もどんどん広がっていますね。あくまでも自分の音楽的興味に従っていて、トレンドを強く意識したり、「こうすれば聴かれる」という発想で作ったりしていないというか……。

より多くの人に聴かれることを計算して作るかどうか?という話ですよね。どちらかと言うと自分は作りたいものに集中するタイプなんだと思います。例えばニディガ(「NEEDY GIRL OVERDOSE」)の曲に関しても、制作しているときはただただ自分の作りたいものを作っている感覚なんですよ。リスナーを意識して曲を作ったことはないと思います。より多くの人に聴かれることを意識して作っても、実際にいろんな人に聴かれるかどうかはわからないし、結局は賭けみたいなものなので。