“なんかわかる”槇原敬之の歌詞
──あと僕、「槇原さんはやっぱりすごいな!」と改めて驚かされた歌詞というのがいくつかありまして……。
え、どれですか?
──例えば「In the Snowy Site」の「子供の頃のような気分だ」「たぶん君を好きになる」。
そこ、僕も好きなんですよ。
──真っ白な雪道を1人で歩きながら、子供の頃のような素直な気持ちになって、気になっている人のことを思い出して「たぶん好きになるな」とひとりごちる、みたいな。サラッと聴き流せるように仕上げてあるけど、すさまじく本質的なことを言ってるなと思いました。
よく言ってくださいました(拍手)。ありがとうございます。めっちゃくちゃうれしいです。本当にそれなんですよ。
──人を好きになるという感情ってこれぐらい素直なものなんだなと。
「ここがこうだから、ああだから」って御託並べた感じじゃなくて、これでいいんですよね。人を好きになることってね。
──あと「軒下のモンスター」の「恋しい人の名前を 遠慮がちに叫ぶと その声に風が起こり ススキが隠すようにざわめきだす」。「遠慮がちに叫ぶ」って、どんな声量でどんな言い方なんだろうと想像をかき立てられるんですよ。
寂しい歌詞ですよね。合わせるわけじゃないけど、僕もこの曲はここが一番好きです。
──このくだりをはじめ、「なんだろう?」と疑問を抱かせながら、「わかる」と共感もできるポイントが槇原さんの歌詞にはたくさんありますね。
のちのち思うようになったんですけど、僕の歌詞はちょっと俳句っぽいんだと思います。「何言ってるかわかんないけど、なんかわかるな」みたいなことは、わりと言われることが多いので。
──芸術はワンダー(驚異)とシンパシー(共感)のバランスが大事、という話を聞いたことがあります。ワンダーが強すぎると誰も理解できないし、シンパシーに寄りすぎるとベタになっちゃう、みたいな。
なるほど。僕、現代アートが最近好きで、いろんなもの見るんですけど、その言葉に膝を打ちました。やっぱりそこのバランスがいい人に惹かれますよね。
──どれくらい意識されてるかはわかりませんが、きっと槇原さんもそこのバランスが絶妙な気がするんですよね。
うれしいです。今日はいい日だ。明日のリハがんばれます(笑)。
実は誰かのインスピレーションになってる
──ベストアルバムには唯一の新曲として「You Are the Inspiration」が収録されています。FM COCOLO「槇原敬之・Sweet Inspiration」のエンディング曲に歌詞とメロディを付けられたものだそうですが、リスナーさんと一緒に作ったような感触はありますか?
はい。もう、その通りです。僕、本当にラジオが好きで。別にテレビが嫌いなわけではなくて、ラジオが好きすぎるんですね。楽曲そのものを伝えることが僕たちの切なる願いだったりするんですけれど、テレビだとどうしてもビジュアルイメージがついてくる。うまくいけば相乗効果を生むわけですけど、個人的にそこが昔から苦手で、純粋に音だけを伝えるラジオが大好きなんですよね。あと、ラジオのリスナーとパーソナリティの間には、絶対に特別な間柄としての感情があるんですよ。いわゆる“つながり”よりもっと深い気がします。
──うんうん。あのコミュニティはラジオならではですよね。
今、自分にとって「Sweet Inspiration」という番組は本当に大事なんですね。生きがいでもあるし、なおかつ、聴いてくれるリスナーの方たちに助けられてる感じもある。それはなぜかと考えたら、まさにインスピレーションをもらってるからなんです。メディアやSNSを見てると、すごく輝いてたりとか、何か特別に素敵なことをやっていることが正義みたいな風潮がありますけど、どこで何をしていようと、あなたが生きているだけで、例えば口をポカーンと開けて歩いてるだけでも、巡り巡って誰かのインスピレーションになってるんだ、それを忘れないでね……ということを伝えたかった。だから「You Are the Inspiration」の歌詞には自分のことは入れずに、みんなへの思いを詰め込みました。ラジオを聴いていない人にも伝えたいですね。簡単に言っちゃうと、それが今後音楽を作っていくうえでのテーマで、「私が生きてるってすごい価値がある」と思ってもらうお手伝いみたいなことです。
──Buppu Label16年目、デビュー36年目へのスタートを飾る1曲なんですね。
そうです!
──槇原さん自身、リスナーの皆さんからインスピレーションをもらっているという。
特に何かしようとしなくても、あなたがそこにいるだけで、変な話、曲を作る仕事の人のインスピレーションにもなってますよ。この時代特有の、皆さんが抱えている虚無感を取り払いたいんですよね。「はあ、今日、電車に乗り遅れちゃった」と言ってる自分が、実は誰かのインスピレーションになってるっていう。そのことを信じてもらえるまで歌おうと(笑)。
──私事ですが、実はさっきお茶したカフェにマフラーを忘れたんですよ。お店に戻ってレジの人に聞いたら「届いてない」というので、自分で探させてもらって見つけたんです。レジの前を通るときにマフラーを見せて「ありました!」と言ったら、めちゃくちゃ素敵な笑顔で「よかったですね!」と言ってくれて、「今日はいい日だ! きっと取材もうまくいくぞ」という気分になりました(笑)。まさに「She Is the Inspiration」だったなと。
そういうことなんです。本人が特別何かしてあげたと思ってないことが、こんなに僕のことを救ってくれるの!みたいなことを、皆さんそれぞれが意識せずともやってるんですよ。前に「TED」(国際的な講演イベント)の動画で面白いことを言ってらした方がいて、「職場や学校がクリエイティブな人と実務的な人に分かれていませんか? 実はクリエイティビティは一部の選ばれた人だけのものではなくて、誰もが持ってるものなんですよ」って。生きていることそのものがクリエイティブなんだと。それをわかってほしい。
──素敵ですね。最後に、3月にスタートするツアーのお話も少し聞かせてください。タイトルが「Makihara Noriyuki Concert 2025 Buppu Label 15th Anniversary "Showcase the Live!"」ですから、ここ15年の曲を中心に披露されるんだと思いますが……。
はい。勇気を持って選曲しております(笑)。年末の「マキハラボ」がずっと着席して観られる落ち着いた雰囲気のコンサートで、その前は「TIME TRAVELING TOUR」という90年代をテーマにしたライブでしたけど(参照:槇原敬之×WOWOW特集|“90年代縛り”のライブを経て、デビュー34年目の槇原が今思うこと)、今回はすべてにおいて真逆です。この間、選曲したんですけど、なんて言えばいいのかな。なんか、すさまじいです。
──すさまじい?
すさまじいけど優しいムードのコンサートなんじゃないかな。というのは、絶対にそのアルバムのライブじゃないとやらないようなレアな曲が目白押しなので、1曲1曲がクライマックスみたいな、重たい感じになるんですよ(笑)。そこを楽しみにしていただきたいですね。毛利(泰士 / Synthesizer Programmer)氏の今回のテーマは「槇原より皆様に元気をお届け」というものでして、元気になれるような曲が多いので、楽しみにしててください!
公演情報
Makihara Noriyuki Concert 2025 Buppu Label 15th Anniversary "Showcase the Live!"
- 2025年3月15日(土)東京都 立川ステージガーデン
- 2025年3月20日(木・祝)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール
- 2025年3月24日(月)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
- 2025年3月30日(日)広島県 上野学園ホール
- 2025年4月1日(火)高知県 高知県立県民文化ホール
- 2025年4月5日(土)茨城県 水戸市民会館 グロービスホール 大ホール
- 2025年4月6日(日)栃木県 宇都宮市文化会館 大ホール
- 2025年4月10日(木)大阪府 フェニーチェ堺 大ホール
- 2025年4月12日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2025年4月13日(日)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
- 2025年4月19日(土)大分県 iichikoグランシアタ
- 2025年4月20日(日)宮崎県 宮崎市民文化ホール 大ホール
- 2025年4月25日(金)鳥取県 米子コンベンションセンター BiG SHiP
- 2025年4月27日(日)岡山県 岡山芸術創造劇場ハレノワ 大劇場
- 2025年4月30日(水)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2025年5月2日(金)大阪府 フェスティバルホール
- 2025年5月3日(土・祝)大阪府 フェスティバルホール
- 2025年5月9日(金)秋田県 あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
- 2025年5月11日(日)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
- 2025年5月13日(火)愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール
- 2025年5月17日(土)福岡県 福岡サンパレス
- 2025年5月18日(日)福岡県 福岡サンパレス
- 2025年5月23日(金)宮城県 仙台銀行ホール イズミティ21 大ホール
- 2025年5月24日(土)福島県 けんしん郡山文化センター 大ホール
- 2025年5月30日(金)三重県 三重県文化会館 大ホール
- 2025年6月1日(日)奈良県 なら100年会館 大ホール
- 2025年6月5日(木)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2025年6月6日(金)東京都 東京国際フォーラム ホールA
- 2025年6月8日(日)新潟県 新潟県民会館
- 2025年6月14日(土)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
- 2025年6月15日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
- 2025年6月20日(金)長野県 ホクト文化ホール 大ホール
- 2025年6月22日(日)石川県 本多の森 北電ホール
- 2025年6月28日(土)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2025年6月29日(日)京都府 ロームシアター京都 メインホール
- 2025年7月3日(木)群馬県 高崎芸術劇場 大劇場
- 2025年7月8日(火) 東京都 東京ガーデンシアター
- 2025年7月9日(水)東京都 東京ガーデンシアター
- 2025年7月14日(月)大阪府 フェスティバルホール
- 2025年7月15日(火)大阪府 フェスティバルホール
プロフィール
槇原敬之(マキハラノリユキ)
1969年大阪府生まれのシンガーソングライター。1990年にデビューし、1991年の3rdシングル「どんなときも。」がミリオンセラーを記録。その後も「冬がはじまるよ」「もう恋なんてしない」「僕が一番欲しかったもの」などヒット曲を連発し、2004年にはアルバム総売上枚数が1000万枚突破の快挙を遂げる。2010年11月には自主レーベルのBuppu Labelを設立。楽曲のリリースやライブ活動を重ね、2025年2月には自身のデビュー35周年イヤー企画の一環として、Buppu Labelの設立15周年を記念したベストアルバム「Buppu Label 15th Anniversary "Showcase!"」をリリース。また他アーティストへの楽曲提供も多数あり、代表作はSMAPの「世界に一つだけの花」など。
槇原敬之公式サイト|MAKIHARANORIYUKI.COM
槇原敬之スタッフ(オフィシャル) (@buppulabel) | X
槇原敬之スタッフ(オフィシャル) (@buppulabel) | Instagram