5人組“オルタナティブファンクバンド”BREIMENが待望のメジャー1stアルバム「AVEANTIN」をリリースした。
「アバンチン」と読むアルバムタイトル。意味も由来もまったくないその奇妙な名前は、ロックやジャズ、ファンク、ヒップホップ、歌謡曲などありとあらゆる音楽ジャンルを無尽蔵に取り込み、ネーミングもカテゴライズも不能なサウンドを奏でている彼らを象徴しているかのようだ。前作「FICTION」で加えていた制作上のさまざまな“縛り”を解き放ち、“なんでもあり”の状態で作り上げた「AVEANTIN」。その制作エピソードを5人にたっぷり語ってもらった。
また特集の後半では、新井和輝(King Gnu)や槇原敬之、ガリガリガリクソンなど、BREIMENとゆかりのある著名人10組によるコメントも掲載する。
取材・文 / 黒田隆憲撮影 / 佐々木康太
バンドというフォーマットでやり続けるうえでのターニングポイント
──まずは、メジャーデビュー作となる「AVEANTIN」が完成した今の心境から聞かせてください。
サトウカツシロ(G) 完成したのが1週間前なんですよ。なので、まだ客観的に聴けていないのかもしれないけど、よくまあこれだけバラエティ豊かな曲たちを1つのアルバムに収めることができたな、とシンプルに思います。しかも1曲の中に詰め込まれている情報量が、これまで以上にすごくて。いい意味で「アルバムらしくない」とも感じるし、「いい曲、いっぱいだな」とも思いますね。
So Kanno(Dr) 前作「FICTION」のときはアレンジの面ですごくプログレッシブというか、はちゃめちゃで奇抜な域にまで到達していたと思うんですけど、そこから一転してすごくシンプルになったと思います。僕はヒップホップやゴスペルなどブラックミュージックの影響を強く受けているのでテクニカルなドラムスタイルが好きなんですけど、このところ歌モノのサポートをいろいろ経験したこともあり、「歌に対するドラムのアプローチ」を意識するようになって。それを最大限詰め込むことのできたアルバムでもありますね。
いけだゆうた(Key) 前作のときはいろいろと縛りを設けていたんですけど、それを取り払ったことによって、できることの選択肢がめちゃめちゃ増えました。例えばポストプロダクションの仕方とか、「ここまでやっていいんだ」と。資料には「型破り」とかいろいろ書いてあるけど、いい意味での“違和感”がちりばめられた作品になったと思います。
ジョージ林(Sax) そうちゃん(So Kanno)も言ってたけど、これまでの3作はリリースするごとにプログレッシブな方向へシフトしていってたというか。音楽的に、意識せずとも難解になっていたところがあったと思うんです。それが今回、いい意味でポップに回帰できたのではないかと。とはいえ今作でも変なことはいろいろしてるので(笑)、だーいけが言ったような心地いいくらいの“違和感”がどの曲にもあるし、僕らなりのバランス感覚をちゃんと感じられるアルバムに仕上がってると思います。
高木祥太(Vo, B) もちろんミュージシャンによって差はあると思うけど、アルバムをコンスタントにリリースしていると、4枚目くらいで一度スランプみたいなものを感じると思うんですよ。たまたま俺らにとっての4枚目はメジャーデビューアルバムになったわけだけど、そうじゃなくても、バンドというフォーマットでやり続けるうえでのターニングポイントにはなっていたと思うんです。そういう意味で今作は難産というか(笑)。特にリード曲「ブレイクスルー」ができるまでは時間がかかりました。
“メジャー”という大きな社会にどう対峙するか
──「TITY」「Play time isn't over」「FICTION」には、それぞれ制作に向かううえでの明確なモチベーションが高木さんにあったわけじゃないですか。「TITY」は「これまでお付き合いしたり、お付き合いしなかったりした女性について歌った」と以前のインタビューで明かしていましたし、「Play time isn't over」は映像ディレクターの2025と遊びで作った同名のスパイアクション映画をモチーフに、コロナ禍でメンバーとの共通意識を確認し合いながら制作したと。
高木 うん、そうですね。
──「FICTION」は、高木さんが「どうしても歌にしなければ」と思う経験を経て、それを作品として昇華するときに「フィクション」というフォーマットにたどり着いたとおっしゃっていました。そういう意味では今回、制作に向かうモチベーションはどこから来ましたか?
高木 まず、自分自身の環境がここ1年くらいで大きく変わったんです。それは曲作りにも影響したし、「ラブコメディ」や「yonaki」はその中で生まれました。それと、これまでは今の自分に起きている出来事をモチーフにした曲作りしかしてこなくて。例えば幼少期を振り返ってそこから何かインスパイアされるみたいなことはめったになかったし、一度取り上げたテーマをもう一度引っ張り出すこともなかった。でも今回アルバムを作っていく中で、「すでに取り上げたテーマであっても、別の角度から見ればまた違う印象になる」と気付いたんです。例えば「乱痴気」は、根幹となるテーマは「ナイトクルージング」(「Play time isn't over」の収録曲)と一緒で。自分の状況や伝え方の角度が変わることで、その根幹のテーマをより深く豊かに伝えられると思えるようになったんです。
──そう思えるようになったのは、何かきっかけがあったんでしょうか。
高木 実家に帰ったときに忌野清志郎の本を見つけてひさしぶりに読んでいたら、「キヨシロー、マジで言いたいこと2、3個しかないんだ。でもそれでいいじゃん!」と思ったんです(笑)。むしろ1つのテーマについてさまざまな角度から書けることのほうがすごいことなんじゃないかと。それに気付いたことで、制作に対する自分の中のハードルが少し下がったのはよかったですね。これまでのように、曲ごとに違うテーマを探す制作スタイルを続けていたら、修羅の道を行くことになっていたと思うので。
──それで言うと、高木さんがこれからもさまざまな角度で歌っていきたいことはなんですか?
高木 今作のプレスリリースに「革命や反乱を起こすわけでもなく、世の中と別の道を生きること(=オルタナティブ)を奏でていく」と書いてあるんですけど、それこそまさに「ブレイクスルー」や「乱痴気」「ナイトクルージング」で歌ってることだし、俺が歌いたいことの1つかなと。BREIMENは、音楽のスタイルとしての「オルタナティブ」ではないけど、そこをあえて「オルタナティブファンク」と言っているのは、アティチュードとしての「オルタナティブ」を標榜したかったからで。これまでずっと社会と乖離した場所で音楽を奏でてきて、これから“メジャー”という大きな社会にどう対峙するか。そこを突き詰めて考えたときに、これからはより「オルタナティブ」でありたいと思ったんです。
林 前に祥太が言ってましたけど、BREIMENは社会からドロップアウトした人たちの集まりなんですよ。僕も一度は歯車として社会に組み込まれたけど、いろんな縁やタイミングがあってそこから外れた。そういう人たちが集まって、BREIMENという新たな楽園を築き上げているというか(笑)。
高木 俺はいわゆる“社会”からずっと距離を置いてきた人間だったけど、周りに自然とそういう人たちが集まってきたし、そこから音楽を介して社会とどうつながっていくのかを考え続けてる。「ブレイクスルー」では「変わりたい訳じゃない / 殻破りたいだけ」と歌っているけど、まさにそれに尽きる気がします。
オーディエンスが唯一想像できる“他者”
──前回のナタリーのインタビュー(参照:BREIMENインタビュー|5人だけの音で鳴らすフィクション、新アルバムに詰め込まれた高木祥太の葛藤と“制約の美学”)で、1stアルバム「TITY」は“ボクとキミ”のアルバム、2ndアルバム「Play time isn't over」は“ボクとみんな”のアルバム、そして前作「FICTION」はまた“ボクとキミ”に戻ったようで、突き詰めると“ボク”のアルバムだとおっしゃっていました。それで言うと今作は、“ボクと社会”のアルバムと言えるかもしれないですね。
高木 確かに。“ボクと社会”だし、“BREIMENと社会”でもあるのかなと。どの曲も究極のところは“ボク”が主語だけど、今作は“BREIMEN”が主語になっている曲も多い。今こうやって話しながら、そのことに気付きました。「ブレイクスルー」や「乱痴気」の主語は、“ボク”でもあるし“BREIMEN”でもある。主語が微妙に大きくなっている曲があるからこそ冒頭曲「a veantin」にメンバー5人の声を入れようと思ったのかもしれない。ジャケ写も5人の顔がグッと寄り集まっていますし(笑)。
林 確かに、今回の曲のデモを聴いたときに、わりとスッと自分の中に入ってきたんですよね。今までもそんなに違和感はなかったけど、今回はより当事者感がある気がします。
──“ボクと社会”、“BREIMENと社会”と言い表した際の“社会”は、何か具体的なイメージがありますか?
高木 それで言うと去年、ライブをものすごくやって、フェスにたくさん出たことで、オーディエンスという新たな指標ができた気がします。メンバーにはまだ話していないことだけど、例えば「ラブコメディ」は、「ここでブレイクしたらライブでどんな反応になるだろう?」という感じで、ステージで演奏している画を思い浮かべながらアレンジしたんです。オーディエンスが俺たちにとっての1つの指標になっているということだと思います。これも今、話しながら初めて気付きましたけど。“社会”とか“マス=大衆”と言ってしまうとデカすぎて実態が見えないじゃないですか。でもオーディエンスは、BREIMENとして唯一想像できる“他者”だし、そこから“社会”や“マス”につながっていく感覚がある。そういう実感が曲作りの段階からあったのかもしれないですね。
──ちなみに「ブレイクスルー」はいつ頃できたのですか?
高木 レコーディングの後半でしたね。最初から「リード曲を作ろう」と思って制作に取りかかったのは初めてだったし、「ブレイクスルー」ができたことでアルバムの中心が定まった。その後、アルバムを締めくくる「L・G・O」という曲ができて、最後に「LUCKY STRIKE」を、酒を飲みながノリで作りました(笑)。気分的には打ち上げみたいな感じでした。
サトウ 酒が抜けたあとに神経質なくらい細かくアレンジを考えることは最初からわかっていたので、飲み始めたときはちょっとゾッとしましたけどね。すべてのアイデアに「うおお、いいねえ!」とか言ってたし。
高木 確かに、一夜明けて冷静になってから細かく手直ししたよね。
サトウ まあでも、酔っ払って出てきたアイデアがけっこう面白くて採用されたりもしたので、結果的によかったと思います。
次のページ »
ほぼ“大喜利”と化したレコーディング