Maison book girl|長い夜が明けた先に、広がっていた“闇色の朝”

「あ、私の可動域ここまであったんだ」という、灯台下暗し的な発見

──そういう周りの反応のよさもあって、皆さんは今、これまで以上にMaison book girlの活動に対してのモチベーションが高まってるんじゃないかなという気がしますが、いかがですか?

和田 そうですね。周りの反応がよくてというのもあるんですけど、やるべきことが明確になって、今目の前にたくさんある状態なので、やっていて楽しいです。例えば「長い夜が明けて」を歌ったときに、こんなに感情を込めて歌える曲は今までなかったので、そういうふうに自分たちが手を付けていなかったところを開拓していこうという直近の目標ができて。

井上 「Maison book girlがこれをやってもアリなんだ」みたいなことが最近増えている気はします。

和田 昔だったらもっと練習をしないと届かなかったところに、「あ、私の可動域ここまであったんだ」って感じで手が届くというか、灯台下暗し的な発見がけっこうできているんです。今はそうやってワッと世界が広がっているところなのかなと思ってます。

──前回の工藤遥さんとの対談で(参照:Maison book girl×工藤遥 対談)、和田さんが工藤さんに「定期的に『頭打ちだ』って感じる時期がある」という相談をしていましたが、同じようなことを、皆さんは最近になっても感じることはありますか?

井上 アドバイスをくれる人が増えたからというのもあるんですけど、最近はあんまりないかな。ちょっと前までは、まず個々の技量を上げないと話にならないから「1人で黙々とやるしかない」みたいに思ってたんですけど、自分のことだけを見ていると、いくら続けても「これ以上どうすればいいかわかんない」ってなっちゃうんですよ。「本当にこれでいいんだろうか」と思いながら、でもやるしか選択肢はないなって(笑)。

矢川 私は、何度も何度も同じことを練習しないとできないタイプだから、以前までは1人で「はー、私はいつまでたってもうまくならないな」と思ってばかりだったんです。でも最近はボイトレの先生とかも「ここが難しくて」って相談した部分を一緒に練習してくれて。「絶対ちゃんといつかできるようになるから大丈夫」って励ましてもらってるから、1人で「できないな」と思ってたときと比べて全然気が楽だし、「がんばるぞ!」って気になってます。

コショージ 私の場合、CDを出すたびにポエトリーを書くのに行き詰まりを感じて「もう無理だ!」と思ってたんですけど、今回のシングルではそうでもなかったんですよ。

井上 めっちゃ苦しんでたことあったもんね。「もう出ない! 無理だ!」って(笑)。

コショージ たぶん最初の頃は、もともと自分の中に持っていたものを1個ずつ取り出してポエトリーにしていたから、何個も出していくうちに空っぽになっちゃって「もうないよ!」ってなっていたけど、「無理だと思ったときはたぶん無理。でも次は無理じゃないかもしれない。そのときによる」と考えるようにしたら、打破されたというか、行き詰まってた時期はたぶん終わったかもしれないです。

人間にとって雨は“濡れるもの”であって“降らすもの”ではない

──今回のシングルのリード曲「闇色の朝」について聞かせてください。前作「SOUP」のリード曲「鯨工場」についてはサクライさんが「Maison book girl自身をテーマにした曲」と説明していたそうですが、「闇色の朝」についてサクライさんから何か説明はありましたか?

和田 今回は歌詞については特になくて、「リズム命の曲だから」とだけ言われていました。

コショージ でも「鯨工場」と「長い夜が明けて」のストーリーがつながっていたように、「闇色の朝」はその2曲の続きなんだろうなという気はします。長い夜が明けてMaison book girlがたどり着いた、次の土地っていうイメージ。だから今までの曲では出てきたことがないワードがけっこう使われているんですよ。“蟲”とか。

和田 “砂漠”とかも。

コショージ そうそう。そういうのは、私たちが着地した新しい土地のキーワードみたいなものなのかなって。

──確かに前作は、「鯨工場」で「僕らの朝は次の唄で明けてゆくの」と歌った次の曲が「長い夜が明けて」でしたが、そこからさらに「闇色の朝」につながっているとすると、“夜が明けて朝になったのに、やっぱり闇のまま”ということなんですかね。

コショージ 雨が降ってるから空は曇ってて暗いんですよね(笑)。

矢川 なかなか晴天にはしてくれないねー。

コショージ 晴天になるのかなあ?(笑)

──この曲のレコーディングで大変だったことは何かありましたか?

コショージ リズムが難しいし、低い音程から入って一気に高くなるメロディだから、そういうところに気を取られすぎて歌詞を間違えちゃうんですよ。例えば、「雨を降らした」っていう歌詞を「雨を濡らした」って歌っちゃうとか。それで「ここ間違えたから、もう1回ね」って歌い直すんですけど、リズムを意識してると歌ってる間に間違えてたことを忘れて、同じ場所で10テイクくらい間違えての繰り返しで(笑)。

和田 なんか、自分で歌詞を作っちゃうときあるよね。

コショージ 人間にとって雨は“濡れるもの”であって“降らすもの”ではないじゃないですか。降らすのは上から見た、人間とは別の視点だから。なのでどうしても濡らしちゃうんです(笑)。

井上 練習するときに「とりあえずリズムと音程を覚えないと」と思って歌詞を間違えて覚えちゃうと、その歌詞が抜けなくなっちゃうよね(笑)。

Maison book girl

矢川 いつものことながら、この曲はリズムがすごく難しいので、レコーディングに向けていっぱいメモしてたんです。でも当日にサビの部分をスタッカートで歌ってと急に言われて。その日に急に思い付いたのかわからないんですけど、「ここは『タッターッ』っていうリズムを気にして歌って」って、明らかにサクライさんの仮歌と違うことを言われたので、「また難しいことが増えた」と思いながら歌ってました(笑)。

──仮歌はどんな感じだったんですか?

矢川 ちょっと違ったよね?

井上 なんかサクライさんの仮歌わかりづらい(笑)。

コショージ マジでわかんない(笑)。

和田 まあ、キーも私たちとは違うしね。

井上 「リズムを大事に」って言うくせに、サクライさんはけっこうなあなあな感じで歌ってるから、聴いてもあんまり参考にならないんですよ。

──なんだかサクライさんがかわいそうな感じになってきたので、話を変えましょうか(笑)。「闇色の朝」の間奏はかなりインパクトがありました。あまりに予想外の展開で。

コショージ 急に闇落ちしますよね(笑)。

──「この部分はライブでどうやって表現するんだろう」と思いながら聴いていました。

井上 間奏の振り付けが難しいんですよ。“タン、タ、タ、タン”みたいな音が鳴ってて、その“タン”に合わせて動いてと言われたので、家でノートに「タン、タン、タ、タン、タン」って書いて覚えるしかなくて(笑)。

コショージ あの音って拍に合ってないんだっけ?

和田 一応、合ってはいるらしいんですけど、リズムがわかる音がほかにないから、タイミングはもう勘で当てるしかないっていう感じなんですよ。