音楽ナタリー Power Push - 前田敦子

激動の5年の“真ん中”にあった音楽

「サヨナラ、理性。」

──アルバムには過去4枚のシングル表題曲と新曲、さらにシングルのカップリングから厳選された楽曲が収録されています。この選曲はどのように?

基本は秋元さんが考えてくれて、私もいくつかリクエストしました。私はバラードが好きなのでたくさん入れたいけど、偏りすぎちゃうといけないので、基本的には秋元さんにお任せして。

──ではここから書き下ろしの新曲について詳しく聞かせてください。アルバムタイトルにもなった「Selfish」は、前田さんが主演を務めるテレビドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」の主題歌です。“深夜の昼ドラ”という謳い文句もぴったりな濃いドラマによく合う、ディープな内容ですが。

ぜひドラマとセットで楽しんでほしい1曲です。これはドラマのプロデューサーと監督が、いくつか候補曲がある中から選んでくれたんですよ。それに対して秋元さんが台本に沿った歌詞を書き下ろしてくれているんです。

──主演の前田さんが歌うことを前提に作られた楽曲だと。

そうなんです。みんなが本気でドラマのために作った1曲なので、私もすごく思い入れが強くて。それに、この曲ができたことが、今回のアルバムを作るきっかけにもなったんですよ。「いい曲ができたし、ちょうどソロデビュー5周年の機会なんだから、アルバムを作ってみない?」って。だからもし「毒島ゆり子のせきらら日記」がなかったら、こんなに早くソロアルバムを出すことはなかったかもしれない。アルバムを出すきっかけまで与えてくれたドラマですね。

──この曲にちなんだものだと思いますが、アルバムの「サヨナラ、理性。」というキャッチコピー、すごくいいですね。

あ、これは私も一緒に選びました。秋元さんがいろいろ書いてくれた中で、ちょっとインパクトがあるものを選んでみました(笑)。

──前田さんご自身には、理性のタガを外してしまうような瞬間もあるんですか?

うーん、どうだろう。でも「Selfish」って、女性が誰でも持ってる願望の塊みたいな曲だと思うんです。もしかしたら男性にも言えることかもしれませんけど。「そんなバカなことはしないよ。でもバカなことをしたいって思ったりもするよね」って、この曲を歌っているとそんな気持ちになるんです。だから、この曲を歌っている私は「サヨナラ、理性。」でいいのかなって(笑)。願望ですね。

レコーディングへの向き合い方

──先ほどおっしゃっていた歌声や表現の変化については、レコーディングのときも意識しましたか?

はい。「Selfish」は一度レコーディングが終わったあとで、録り直したんですよ。歌っているときはイメージ通りだと思ってたんだけど、聴いてみたら「ちょっと違うな……」って。

──どう違ったんですか?

最初はもっとナチュラルに歌ってたんです。私、普通に歌うとユルい感じというか、サラサラした感じになっちゃうので。ちょっと声が薄いかなと思って秋元さんに伝えたら「僕もそう思います」というお返事だったので、レコーディングをやり直しました。

──もっとザラつかせて、引っかかりを持たせるように。

そうですね。ほんの少しだけメリハリを強くしたりとか、けっこう繊細なところを。

──そういう作業は楽しいですか?

楽しいです! 「この歌に対する声の出し方はどれが正解なんだろう?」と探すところから始まって、どのくらいのアプローチにするのがいいかを、AKB48の頃からお世話になっているディレクターさんと一緒に話し合って、いろんな歌い方を試しながら決めていくんです。けっこう時間がかかる作業なんですけど、楽しいですね。その作業が私は一番好きかもしれない。

──それが楽しめているのなら、そりゃあ女優1本でという気持ちにはならないですよね。

はい。もっと自分の色を見つけたいと思っている最中なんです。歌に関しては特に。秋元さんはあえていろんな曲を用意してくれているから、そこは私も楽しまなきゃって思っています。

アルバム書き下ろし曲で挑んだ新たな表現

──アルバム用に書き下ろされた新曲は、本当にバリエーションに富んでいますよね。Type B収録の「絶望の入り口」は「Selfish」よりもさらに激情的なロックで、リバーブのかかっていない声がすごく生々しい。

歌詞が重たい内容なので、シンプルにズドンと響かせるように歌いました。

──そのズドン具合がかなりのもので。これは5年前だと出せなかったズドンですよね。

あははは(笑)。確かにそうですね。

──Type C収録のバラード「やさしいサヨナラ」はいかがですか?

前田敦子

歌詞も曲調も私が一番好きなタイプの曲で、テンションが上がりました(笑)。歌詞を大切にじっくり歌うバラードが私は好きなので、レコーディングには一番時間をかけました。バラードは発音が大事だと思うんです。なので一語一句を丁寧に。レコーディングのときにしっかり形にしておかないと、いつかライブで歌うときにちゃんと歌えないので、自分に合った歌い方を慎重に探しました。

──Type D収録の「わがままなバカンス」はエコーのたっぷり効いた、大瀧詠一さんのナイアガラサウンドを彷彿とさせるポップスで、1980年代のアイドル歌謡みたいな雰囲気もありますね。

最初はもっとアイドルっぽい感じだったんですよ。AKB48のときの歌い方みたいな。でも1人で歌うにはちょっと違うなって(笑)。せっかくなら今の私が歌う、昔とは違ったキラキラ感が出したくて。アレンジも少し変わったんですよ。

──元のアレンジはどんな感じだったんですか?

もっとキャピキャピしてました(笑)。でも今の私の声に合わせて、アレンジごと変えてくださったんです。