アイドルグループ・SDN48の元メンバー・大木亜希子による実録私小説を原作とする映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」が、全国で公開中。本作はどん底に落ちた元アイドルのアラサー女子・安希子が、見ず知らずのおっさん・ササポンとの奇妙な同居生活を通して再生していく物語だ。
仕事も恋愛もうまくいかない安希子をコミカルに、時に切なく演じたのは、元乃木坂46の深川麻衣。安希子のささくれた心をさり気なく癒やしていく同居人・ササポンを井浦新が演じている。そのほか松浦りょう、柳ゆり菜、猪塚健太らが出演。「月極オトコトモダチ」「シノノメ色の週末」の穐山茉由が監督を務めた。
映画ナタリーでは、元AKB48の女優・前田敦子に「つんドル」を鑑賞してもらい、主演の深川との対談をセッティング。ドラマ「彼女たちの犯罪」で共演したばかりの2人に、本作の感想や見どころ、そしてアイドル卒業時の心境などを聞いた。
取材・文 / 岸野恵加撮影 / 向後真孝
映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」予告編公開中
あっちゃんは裏表がなくて全然壁を作らない(深川)
前田敦子 久しぶり!……と言っても「彼女たちの犯罪」のクランクアップ以来だから、2カ月ぶりくらいかな? 今日は呼んでくれてありがとう。
深川麻衣 こちらこそ、忙しい中来てくれて本当にありがとう!
──先ほどの写真撮影中もとても和気あいあいとしていましたが、お二人は「彼女たちの犯罪」で共演する前から交流があったんでしょうか?
深川 それが、なかったんです。完全にドラマで共演したのが“初めまして”でした。
前田 現場で仲良くなったよね。学年は麻衣ちゃんのほうが1つ上だけど、同じ1991年生まれなんです。
──前田さんは2012年8月にAKB48を卒業していて、深川さんが乃木坂46の1期生としてデビューしたのがその半年前。アイドルとしての活動期間が重なるのはわずかな期間でしたが、お会いする前はお互いにどんな印象を持っていましたか。
深川 名古屋の専門学校に通っていたとき、友達にアルバムを貸してもらって、AKBを知ったんです。あっちゃんはやっぱり、その頃のグループの顔というか、圧倒的エースというイメージがありましたね。でもグループ在籍中に接点は少なくて、話す機会もなくて。「彼女たちの犯罪」でがっつり共演させてもらってからはさらに、アイドルより女優さんとしてのあっちゃんの印象のほうが強いので、今は不思議な感覚です。
前田 うん、不思議な感覚は私もある。元アイドル同士ではあるけど、私も役者の麻衣ちゃんのほうが圧倒的に印象に残っているから。同じようなところにいたはずなんですけど、個々で共演するという形で出会えたことがすごくよかったですね。
──共演して、印象は変わりましたか?
深川 あんまり変わってないかもしれない(笑)。
前田 確かに。そのまんまかな(笑)。
深川 あっちゃんは裏表がなくて全然壁を作らないから、話しやすくて。「彼女たちの犯罪」のビジュアル撮影で石井杏奈ちゃんと3人で初めてそろったとき、むちゃくちゃ緊張していたんですけど、話し始めたらすぐにスッと距離が縮まったんですよね。
前田 “共演者”となると、最初はみんなけっこう壁を作りがちなんですけど、麻衣ちゃんもラフな感じでいてくれたから、それを感じなかった。直感的に、同じような生き方ができている感じがしたのかもしれないです。
かわいい麻衣ちゃんを見られて安心した(前田)
──ではここからは「つんドル」についてお話を聞かせてください。前田さんが率直にどんな感想をお持ちになったかを、まずお聞きしてもいいですか?
前田 「彼女たちの犯罪」がどっぷりと暗い作品だったので、かわいい麻衣ちゃんを見られてまず安心したというか(笑)。私は「愛がなんだ」の麻衣ちゃんが好きなんですね。普通の世界に存在する女性を演じるのがすごく上手だなと思っていて。「つんドル」でも、日常的な麻衣ちゃんのお芝居がすごく素敵だなと思いました。お気に入りのシーンは、安希子が2階から顔を出してるところ。
深川 わー、注目ポイントを(笑)。うれしい!
前田 あそこ、すごくかわいかったよ。あと「残高10万円」の歌もかわいかったな。すごく頭に残りました。
自由な時間をどう使っていいかわからなかった(深川)
──安希子はアイドルを卒業してから仕事も恋愛もうまくいかず、貯金残高10万円となり人生に“詰んで”しまいます。お二人はそこまで“詰む”ことはないまでも、安希子に共感した部分はありますか?
前田 辞めた瞬間って、ぽっかりした感じにならない?
深川 どうだったかな。卒業した次の日のことって覚えてる?
前田 次の日……は、あんまり覚えてないかも(笑)。
深川 私は、卒業した次の日に、もし後悔するような気持ちが出てきたらどうしようと思ってたんだけど、朝目が覚めたときにすごくスッキリした感覚があって。だから全部やり切れたんだなと安心しました。だから、やめるときよりも、この仕事を始めてからのほうが正直、アップダウンがあったかもしれない。
前田 ああ。やっぱり仕事って、軌道に乗るまでに時間が掛かるもんね。そんなに簡単に、すべての歯車がうまく回らないから。辞めて1年くらいは、私も「あれ、これでよかったのかな?」って思ってた。
深川 そうだったんだ。やっぱりアイドルの仕事が忙しすぎたからか、自由な時間がパッとできたときに、どう使っていいかわからなかったんだと思う。
前田 うんうん、わからなかった。
深川 最初は時間の流れが違いすぎて、慣れるまでにけっこう掛かりましたね。
坂道の子たちが流れを変えてくれた(前田)
──前田さんは「グループ卒業後は演技の道に行く」と発表していましたが、深川さんは卒業時、「一度ゼロになり、新しい一歩を踏み出したい」と話し、進路を公言していなかったですよね。
深川 完全に濁してましたね(笑)。
前田 えっそうなんだ! なんで?
深川 2016年の1月に卒業発表して、6月に卒業コンサートをしたんだけど、1月の時点では事務所も決まってなくて、その先どうなるかわからなくて。お芝居をやりたい強い気持ちはあったけど、公言しておいてもし事務所が決まらなかったら、うまくいかなかったら、待っていてくれるファンの方を悲しませてしまうかなと思って。もし新たな場所やお仕事が決まればそれが報告になるから、それまで黙っておこうかなと。ふんわり濁していたから、「芸能界辞めるのかな」とかいろいろ思われてたかもしれないですね。
──卒業するときって、やっぱり不安が大きいものでしょうか?
前田 先のことを考えて、なんだかんだ不安が一番大きかったですね。表立って「不安です」とは言えないから、自分を奮い立たせてましたけど。私も「役者をやりたい」とは言っていたけど、麻衣ちゃんと同じで、それがちゃんとできるかはわからなかった。だから辞める瞬間が一番怖かったかもしれないです。
──ドキュメンタリー映画「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」で、卒業を発表した直後に前田さんがメンバーへ「私ががんばって道作るから」と力強く話していたのが印象的だったんです。アイドルグループを卒業して俳優として成功するって、当時はロールモデルとなる存在があまりいなかったですよね。
前田 私、そんなかっこいいこと言ってました? 恥ずかしい!(笑) でもそうですね、狭き門だったと思います。だからこそ卒業を決めたのが早かったというのもあるし。生き急いでいた部分ももちろんあったと思うんですけど、「もう21歳だ」と思ってた。自分から脱却しないと居場所がなくなる気がしていました。その頃はアイドルのピークが10代だったんですよね。その後、坂道のみんながけっこう大人になるまで在籍するようになったから、アイドルに年齢があまり関係なくなってきた気がしていて。坂道の子たちが流れを変えてくれたと感じています。
──一方で、前田さんは宣言通り、「アイドルグループを卒業して、俳優として活躍する」という道を後輩たちにしっかり示しましたよね。
前田 いやいや。私はドーンと目立っている存在ではないですから。でもこの仕事を一生やり続けるのが自分の中の目標なので、そういう意味では、自分に合った道をうまく見つけられたとは思っています。
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「あ、ああ……」という微妙な空気が流れて(深川)