マカロニえんぴつの音が生きている、ロックアルバム「physical mind」完成 (3/3)

田辺の得意技

──「NEVERMIND」のあとに「化け物」が来るおかげで、双方の魅力がより映えるという。はっとりさんが「どこで壊れても」からがなり気味で歌うパートが、グッと熱が上がってライブ感が伝わってきました。

はっとり 俺、宅録してるときはこの展開にまったく違和感を覚えないでやっていたんですけど、レコーディングしてしばらく経ってから聴くと、「どこで壊れても どこが壊れても だれに侵されても」からの「じつは心は涙など」の展開が秀逸だなと思ったんですよ。サビの途中なんだけど急にメロディが落ちて、続いていくようで終わっていくようで。しかも、「沈んでいく」のあとにギターソロが来るという。我ながら面白いなって、あとになって強く実感しました。

──ギタープレイの豪快さやフレージングの秀逸さも興味深くて。特に、2回目の「抱えた化け物をみせて?」に入る前の鳴らされる、ハーモニクス気味のストロークのインパクトは絶大だと思います。

田辺 いいですよね。あれはデモの段階から入ってたよね。

はっとり うん。あの音は強烈だったからなあ。刀で人を切るような鋭さとか、ヌンチャクを振り回しているような爽快感があるし。

田辺 ああいうの、僕にやらせたら一番得意だから(笑)。最初は2人で弾いてみたんですよ。

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

はっとり でも、あそこはよっちゃんの音を際立たせたほうがいいと思ったから、俺の音を削ったんです。

──ちょっとRadiohead「Creep」のサビに入る前の「ガガッ、ガガッ」っていうノイズと通ずるものがあって、「おお、サビが来るぞ!」とテンションが上がります。

はっとり わかります。音らしい音じゃないんだけど、あれがなかったらその曲として成立しないようなフレーズですよね。ロックってそういう印象的なフレーズ、たくさんありますしね。

田辺 そう言ってもらえるのはすごくうれしいです。

はっとり ドラムのスネアフィルに合わせてギターをチャカチャカって弾くのは、ギタリストじゃないとわからない気持ちよさなんですよ。

田辺 わかる。楽しみながらカッコいいことができちゃうという。

ロックの名盤と言えば

──「きみは天使で」で始まるアルバム中盤の流れはめちゃくちゃ起伏に富んでいますよね。そんな中盤ブロックを締めくくる「ハナ」は高野さん作曲の、非常に個性的な1曲。NHK「みんなのうた」で10月から11月にかけて放送されていたので、耳にされた方も多かったと思います。

高野 「みんなのうた」って昼や夕方だけじゃなくて、深夜にも放送されているんですよね。僕は夜型人間なので、深夜に放送されたやつをよく目にしたんですけど、音楽や車窓とかの景色の映像が流れている中、急に「みんなのうた」が始まると安心するというか。夜に押し寄せてくる寂しい気持ちが吹っ飛ぶんですよ。

はっとり もしかして、街中を定点カメラで映してるライブカメラとかよく観てる?

高野 めっちゃ好き(笑)。

長谷川 賢也は寂しがりやだね(笑)。

高野 (笑)。僕が抱えているような寂しさが和らいだらいいなと思って作った曲なんです。リフもそうだし、ちょっとしたフレーズも含めて優しさや安心感が伝わるものですしね。マカロニえんぴつの曲の面白さってちょっとした遊び心というか、奇をてらった展開だと思うので、「ハナ」でも途中からビートを倍にしたりしています。あと、最近のマカロニにはあまり長くないスマートな曲が増えているので、その流れで3分を切る曲を作ってみようとトライしたところもあって。僕の中では今までやってこなかった挑戦がたくさん詰まった1曲になりました。

田辺 あと、ラストのサビでは高浦を含めたみんなで歌ってるんだよね。

はっとり そうそう。本当は1サビでも歌っていたんだけど、それ以降との差をつけるために1サビでは我慢したんですよ。いつもだったらそういうパートも、俺1人で歌ってしまうことが多いんだけど、この曲ではみんながステージで歌っている絵が浮かんできたので、その場で練習してもらって。ハミングのパートを俺が考えて、パート分けして歌ってもらいました。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

──愛犬目線の歌詞からも優しさや温かみが伝わりました。

はっとり デモの段階ですごく琴線に触れるメロディで、ちょっと切なさもあって、ノスタルジックな気持ちにさせられたんです。なので、「ハナ」は……自分が犬を溺愛しているからかもしれないですけど、「今、愛犬はどんな気持ちなんだろう」と思いを馳せながら書きました。この「ハナ」というタイトルは昔実家で飼っていた、死んじゃった愛犬の名前なんですけど、当初は今自分が飼っている犬の気持ちを書いていたんです。でも、今の犬の名前がイタチって言うんですよ。「イタチ」ってタイトルだといまいちピンと来なくて……(笑)。そこから「ハナって名前の犬は多いよな、うちで昔飼ってた犬もハナだったし。普遍的な名前なのかな」と考えてみたら、急に切ない歌詞に感じられてきたという。犬って人間の言葉が使えないじゃないですか。だから、こっちが犬の気持ちを感じ取るしかないし、向こうも言葉を話せないことをもどかしそうにしている。そういういじらしさを歌にしてみました。俺、人が感動しやすいテーマの曲は安易にやりたくないなと思っていたんですけど、今回は賢也の書いた曲に引っ張られて書きたくなってしまったんですよね。

──アルバム終盤は「忘レナ唄」を筆頭に既存の人気曲で固められ、はっとりさんの弾き語りによる「クレイジーブルース」でエンディングを迎えます。

はっとり 弾き語りで締めくくる形は、前回のアルバム「大人の涙」での「ありあまる日々」でもトライしているんですけど(参照:マカロニえんぴつインタビュー|「大人の涙」で成長を実感、アルバムをひと言で表すなら「うれしみロック」)、こういう弾き語りで終わるロックアルバムって過去の名盤にも多いじゃないですか。俺、やろうとしてることがけっこう古いタイプなんですよね。いまだにフェードアウトとかもバンバン取り入れてるし。でも、そういう昔のロックに憧れているので、その感覚は大事にしたいんです。

──個人的にもそういうロックアルバムが大好物ですし、今回の「physical mind」もまさにその流れを汲む1枚だと思うので、すごく気に入っています。早くこれらの曲をライブで聴いてみたいと思ってるところ、来年1月にホールツアー「マカロックツアーvol.21 ~⼼を覗いてシラけるより、ことばのシワだけ増やしてゆけ篇~」が始まります。

田辺 このアルバムを引っさげてのツアーは、本当に楽しみだよね。

はっとり ライブを意識した録り方をしたし、そういう空気をまとった新曲がそろっているので、ステージでも無理せずやれそうな気がするよね。特に今回は初めて行く場所も多いですし、お客さんの新曲への反応含めてじっくり楽しみたいです。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

公演情報

マカロックツアーvol.21 ~⼼を覗いてシラけるより、ことばのシワだけ増やしてゆけ篇~

  • 2026年1月17日(土)埼玉県 狭山市市民会館 大ホール
  • 2026年1月18日(日)埼玉県 狭山市市民会館 大ホール
  • 2026年1月23日(金)兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター) 大ホール
  • 2026年1月24日(土)和歌山県 和歌山県民文化会館 大ホール
  • 2026年1月31日(土)石川県 金沢歌劇座
  • 2026年2月1日(日)新潟県 新潟県民会館 大ホール
  • 2026年2月7日(土)広島県 広島文化学園HBGホール
  • 2026年2月8日(日)山口県 KDDI維新ホール
  • 2026年2月11日(水・祝)鳥取県 米子コンベンションセンター BiG SHiP
  • 2026年2月14日(土)高知県 高知県立県民文化ホール オレンジホール
  • 2026年2月15日(日)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール) 大ホール
  • 2026年2月21日(土)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2026年2月22日(日)青森県 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
  • 2026年2月26日(木)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2026年2月27日(金)愛知県 Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2026年3月6日(金)静岡県 アクトシティ浜松 大ホール
  • 2026年3月11日(水)東京都 東京ガーデンシアター
  • 2026年3月12日(木)東京都 東京ガーデンシアター
  • 2026年3月15日(日)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2026年3月16日(月)北海道 札幌文化芸術劇場hitaru
  • 2026年3月25日(水)福岡県 福岡サンパレス
  • 2026年3月26日(木)福岡県 福岡サンパレス
  • 2026年3月30日(月)大阪府 フェスティバルホール
  • 2026年3月31日(火)大阪府 フェスティバルホール
  • 2026年4月4日(土)沖縄県 沖縄コンベンションセンター劇場棟

プロフィール

マカロニえんぴつ

はっとり(Vo, G)、高野賢也(B, Cho)、田辺由明(G, Cho)、長谷川大喜(Key, Cho)からなる4人組ロックバンド。メンバー全員が音楽大学出身。2020年11月にTOY'S FACTORYよりメジャー1st CD「愛を知らずに魔法は使えない」、2022年1月にメジャー1stフルアルバム「ハッピーエンドへの期待は」をリリースした。最新作は2025年12月リリースのアルバム「physical mind」。2026年1月から4月にかけて全国ホールツアー「マカロックツアーvol.21 ~⼼を覗いてシラけるより、ことばのシワだけ増やしてゆけ篇~」を行う。