マカロニえんぴつインタビュー|「大人の涙」で成長を実感、アルバムをひと言で表すなら「うれしみロック」

マカロニえんぴつがメジャー2ndフルアルバム「大人の涙」をリリースした。

「大人の涙」にはドラマ「100万回 言えばよかった」の主題歌「リンジュー・ラヴ」や、ドラマ「波よ聞いてくれ」の主題歌「愛の波」、朝の情報番組「DayDay.」のテーマソング「ペパーミント」など、タイアップ曲を多数収録。メロコアに挑戦した「Frozen My Love」や、はっとり(Vo, G)がヤユヨのリコ(Vo, G)とデュエットするムード歌謡風の「嵐の番い鳥」といった新曲も含むバラエティ豊かな13曲でアルバムが構成されている。マカロニえんぴつにアルバムの制作背景について語ってもらうと、充実したクリエイティビティが伝わってきた。

取材・文 / 柴那典撮影 / はぎひさこ

対バンツアーでの経験をマカロニえんぴつに還元

──「大人の涙」は強い生命力を感じるアルバムだなと思いました。いろんなタイアップもあり、アルバム制作はオファーを受けての楽曲制作と並行して進んでいたんじゃないかと思うんですが、アルバムの全体像はいつ頃、どんなふうに生まれたのでしょうか?

はっとり(Vo, G) あまり計画を立てて作っていくほうではなくて。制作が終盤になって収録曲が決まってきて、やっとアルバムの全貌が見えてきましたね。楽曲を並べたら、かなり統一感を感じました。今年は声出しのライブが復活して、ツアー中に作っただけに、生命力の強い、ノリがいい曲がそろったなという感想ですね。

──アルバムを作っている過程とツアーがまさに並行していた感じだったんですね。

田辺由明(G, Cho) 4、5月はそうですね。

マカロニえんぴつ

マカロニえんぴつ

──春のツアーではいろんなアーティストとの対バンもありましたが、振り返ってみて、刺激になったことや得たことは大きかったですか?(参照:はっとりが「服部」熱唱!ユニコーンは「開店休業」マイクリレー!マカえんツアー千秋楽で夢のコラボ

はっとり 影響はかなり受けましたね。人のライブを観ると勉強になるし、どのライブでもリハーサルをみんなで見学してました。音作りとかPAとのコミュニケーションも参考になったし、それを吸収するとやっぱりマカロニえんぴつに還元したくなるから。その解釈をレコーディングや曲作りに反映したりもしました。

田辺 去年はとにかくたくさんライブをやって、先輩方のライブも観させてもらって、だいぶ経験を積めたような気がします。この1年くらいでレコーディングもライブも含めて、メンバー全員がミュージシャンとしてレベルアップできたのかなと感じてます。それを制作に落とし込めたような気もしますし。

長谷川大喜(Key, Cho) ウルフルズとかくるりの方たちが、落ち着いてクールに演奏されてるのがすごくカッコよくて。僕らは高い熱量で昨年のワンマンツアーに臨んでたんですよ(参照:マカロニえんぴつ熱狂のツアーセミファイナルでマカロッカーにメッセージ「あなたは美しい。輝いてる」)。でも、今回のレコーディングでは勢いのままに弾くだけじゃなくて、勢いの中にもクールさがあったり、いい具合のバランス感を意識しながら臨めた気がします。

高野賢也(B, Cho) このアルバムの中で最初に録ったのが「星が泳ぐ」だったんですけど、もう1年以上前で。「悲しみはバスに乗って」とか新曲と比べると、音の作り方がまったく違うなと感じました。対バンツアーでご一緒したベーシストの方にいろいろ聞きたかったことを聞いてそこから自分なりに試行錯誤していきました。「大人の涙」はいろんなことに挑戦しながら制作できたので、刺激的なアルバムになったと思います。

生命力と死

──アルバムの全体像が見えた、キーになった曲は、やはり1曲目の「悲しみはバスに乗って」でしたか?

はっとり そうですね。これで最後のピースがハマったというか。この曲がようやくできて、リード曲が決まったので。「愛の波」も気に入ってて、これがアルバムの核になるのかなと思ってましたけど、「悲しみはバスに乗って」の存在によって「愛の波」の立ち位置も、少し変わりましたね。

──「悲しみはバスに乗って」はパーソナルな感情がつづられているように聞こえました。ドカーンと盛り上がる曲ではないけれども、アルバムの中で大事な響き方をしているというか。この曲ができたことによってどういう達成感がありましたか?

はっとり 歌メロと同時に歌詞が上がることがしばらくなかったので、それがひさびさにできたのはけっこううれしかったですね。表現としてはすごく真っ当というか。このやり方がすべてではないんですけど、曲作りで納得のいくものができたと思います。歌詞もパーソナルに見えるように書きましたけど、必ずしも僕自身のことを歌っているわけではなくて。走れば疲れるのと同じように、だんだんと年老いて、命がすり減っていくのが、自然な人間の生活ですから。そういった中で優しさを見つけたり、愛を探したり……生活の流れみたいなものを書きました。まさに生命力を表現できたと思います。だからこそ、最初に「生命力を感じる」とおっしゃってくださったのはすごくうれしかったです。

──一方で、死というものも歌詞のモチーフにありますよね。「そういえば今日はあいつの命日だ」とも歌われています。

はっとり 最近は死というものを身近に感じてるんですよね。身近な人が死んだりすると、「自分も死ぬかもしれない」と思う。とすると、メッセージをその人間から汲み取ることって大事だなと思うんです。その人は伝えられないだけで思いはきっとあるわけだから。それを汲み取っていくのも、ピースにつながるのかなっていう。そういう、死の中のメッセージみたいなものを感じるきっかけがあって。何かにたとえたりするよりも、わかりやすくそのまま「命日」という言葉を使いたかった。

──「悲しみはバスに乗って」の歌詞には「ありあまる日」という言葉がありますが、ラストの曲名も「ありあまる日々」になっていますよね。

はっとり 順番で言うと、最後の最後にできあがったのが、この「ありあまる日々」なんですよ。弾き語りをしていて、できた瞬間に録音して、ボイスメモで録った音のまま収録されているので、音質はちょっと粗いです。「悲しみはバスに乗って」で始まって「ありあまる日」で終わるっていうのを想定したときに、同じ言葉を入れようと思って。これを聴いたあなたにとっての日々は、満ち足りているのか、それともありあまっているのかという、問いかけで終わりたかったんですね。

──「ありあまる日々」はレコーディングスタジオできちっと録ったようなものではないんですね。最後のほうでより感情を込めて歌うところとかも、すごくリアリティを感じました。

はっとり よく聴くと、声を張っているところで、後ろのギターの音が潰れちゃってるんですよね。iPhoneのボイスメモって、自動でコンプがかかるから。なんかそれも1960年代のアナログっぽくてよかったかな。

はっとり(Vo, G)

はっとり(Vo, G)

田辺由明(G, Cho)

田辺由明(G, Cho)

新旧ファンも納得

──「愛の波」も、バンドにとってすごく大事な曲だし、マカロニえんぴつのクリエイティビティが充実していることを象徴する曲だと思います。「悲しみはバスに乗って」ができたことで立ち位置が変わったとおっしゃってましたが、この曲はどういう位置付けになったと感じていますか?

はっとり これは新旧のファンに納得してもらえるんじゃないかな。ちょっと昔っぽさというかインディ時代っぽさも含んでるし、サビには最近のマカロニえんぴつの雰囲気もある。これがあるとないとじゃ、アルバム全体のイメージがガラッと変わるなと思ったんです。要するにマカロニえんぴつってこういう曲だよねっていう。基本、印象は陽なんですよ。陽の中にノスタルジーが含まれている。

田辺 マカロニえんぴつの真骨頂みたいな曲だなって。

はっとり 「愛の波」は「リンジュー・ラヴ」と同じで、サビで小節の頭にメロディの音をあんまり置いてないんです。「リンジュー・ラヴ」でその手法にハマって、そのあとにできたんですよね。今までは小節の頭にメロディの動きがあることが多かったんですが、ちょっとそれに飽きてきて。頭にメロディがあったほうが聴きやすいけど、聴きやすいってことは聴き流されるってことだから。引っかかってほしいっていう思いがメロディにも出てきた気がします。アレンジにはそんなに時間はかからなかったですね。

田辺 モリモリだけどね。

はっとり Cメロがモリモリか。雷の音をサンプリングしたんですよ。荒波の感じを出したくて。危険な航海に嵐はつきものなんで、雷の音をずっと探してました。

──この曲は展開も多いですね。

田辺 そういう意味で昔のマカロニっぽさもあるし、録ってて楽しかったですね。

高野賢也(B, Cho)

高野賢也(B, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

長谷川大喜(Key, Cho)

頭からケツまでビートルズ

──曲のアレンジやサウンドで言うと、「ペパーミント」が非常に面白い作り方になっていますよね。1960年代のThe Beatlesをイメージさせる曲調やミックスになっていて。

はっとり パンを振っていてね。歌がずっと右、ドラムがモノで左から鳴っている。

──このアイデアはどういうところから生まれたんでしょうか?

田辺 The Beatlesみたいなのをやりたいねっていう。これまでワンポイントでそういう要素を入れることはあったんですけど、頭からケツまでThe Beatlesっぽいのはやったことがなくて。

はっとり サビのコーラスも「Nowhere Man」みたいな感じで、みんなでコーラスを入れたんですよ。それも初めてでした。コーラスはいつも自分1人で入れるんですけど、このサビは4人でブースで歌って。

田辺 録りもみんなで「せーの」でやってみたりして。こういう録り方は初めてでした。

──この曲は「DayDay.」のテーマソングですよね。朝の情報番組のテーマソングとして、明るく爽快感のある曲というオーダーに応えつつ、ある種のサウンド面の実験もやれている。“引き受けるクリエイティブ”と“やってみるクリエイティブ”のバランスがすごくいいなという印象があります。

はっとり うれしいですね。気負いすぎると曲と自分たちとの距離が生まれちゃうんですよ。無理したなとか、気を遣いすぎたなとか。だから、僕らはある程度自由にやらせてもらえるところとしか組まないんです。伸び伸びと好きなことをやりつつ、しっかり仕事をして。そういう意味で、タイアップも楽しみながらやっている感じはありますね。