書かなくていいって言ってくれ……
──カップリング曲のエレクトロナンバー「Twilight」についても聞かせてください。こちらは歌詞を、岩里さんと実に28年ぶりに共作されたそうですね。
私がまだ作詞の経験もない高校生の頃、途中まで書いた歌詞を岩里さんに助けていただいた「Feel Myself」以来です。28年も経っていたのかと、びっくりですよね(笑)。「Twilight」はすごく好きな曲で、自分で「ぜひ歌いたい」と選んだのですが、たくさん声が重なっている特殊な構成なんです。そこにどう言葉を紡いでいったらいいか、かなり悩んで。5カ月くらい向き合っても書き上げられず、レコーディングを何回も飛ばしてしまい……。「もう無理! 誰か……書かなくていいって言ってくれ……」とまで思いました(笑)。
──それで岩里さんに相談されたんですか?
そうなんです。「もう最初からやり直そうかな」とさじを投げかけたときに一度岩里さんに見てもらったら、「大丈夫、このまま進めたらいいと思うよ」と背中を押してくださって。それでも自分のイメージしていたテーマを形にしきれなかったので、そのまま共作という形で力を貸していただきました。
──坂本さんの頭の中には、どういうテーマがあったんですか?
まずはサウンドから、現代的でどこか無機質なムードを感じたんです。「私は私だ」と思っていても、周りに「こっちの道がいいよ」と言われたら、不安になってそちらに進路変更してしまうこともありますよね。私自身、知らない間にそうした瞬間が増えていて、その感覚が高速道路から見える景色と重なって。「この道から降りたいのに降りるのが怖い。置いていかれるかもしれない」というイメージを書きたかったんです。最後の「誰も 掠めるように 逃れるように 追い越し急いでくけど ちがう そうじゃない道 見つけだせたら わたしはわたし 行くだけ」という2行は、私のそんなイメージを岩里さんがまるっと形にしてくれました。ほかのパートも、抜け落ちていたパズルのピースを一緒に探してもらいましたね。
──そういう存在がいることは、本当に頼もしいですね。
ええ。岩里さんとはちょくちょく一緒に食事に行って、プライベートも含めいろんな話を日常的にしているからこそ、多く説明しなくても伝わる安心感があります。私という人格に合わせて詞を紡いでくださるテクニックにも、改めて感動しました。
眠れない日に数えるもの
──歌詞には空色、水色、サファイア、インディゴなど、いろいろな青色の名前がちりばめられていますね。「Drops」も青を連想する楽曲でしたが、これは何か意図があって?
いえ、そこはたまたまなんです。青色を唱える描写は自分の実体験をもとにしていて。夜中に目が覚めてしまうことがよくあるんですが、そういうときに羊を数えても、なかなか眠れないじゃないですか。日頃から「青の呼び方ってたくさんあるな」と思っていたので、羊の代わりに頭の中で唱えていました。
──たくさんの青色の名前がスラスラと浮かぶのはすごいですね。
歌詞を書くために普段から言葉に敏感で、調べることが多いんですよね。人によって青から思い浮かべる景色や質感、温度感は全然違うし、日本語でもいろんな表現があって、本当に面白いです。楽しくなってきて目が冴えて、むしろ眠れなくなることもありますが(笑)。
──逆効果ですね(笑)。「Twilight」の歌詞には、どこまでが現実でどこからが夢かわからないような曖昧な感覚を覚えました。
眠れないときって、妙に頭が働いて、いらないことばっかり考えてしまいますよね。会いたかった誰かを思い出してしまったり、細かいことが妙に気になったり……そういう不毛な夜のエアポケットに入り込んでしまったときのもどかしさを表現しました。
──「Twilight」では声が左右に振られていて、まるで2人の坂本さんが掛け合いをしているようなミキシングも面白かったです。
川崎智哉さんの楽曲が、最初から立体的な作りになっていたんです。言葉が降ってくるようで、面白い演出だと感じました。陰と陽など、自分の中にある相反するものがせめぎ合うようなイメージ。イヤフォンやヘッドフォンで聴いたら、空間の中での広がりを楽しめると思います。
──ちなみに坂本さんは朝型ですか? 夜型ですか?
昔は夜型だったけど、子供が産まれてからは、自分に合う生活スタイルをずっと模索しています。歌詞を書いたりいろんな仕事を済ませたりするためには、やっぱり1人になる時間が必要なので、今は朝型ですね。でも5時に起きても家事をして終わってしまうこともあるし、歌詞を書くにも時間がかかる。そんな現状にモヤモヤしている自分の姿も、この曲のリリックにはきっと投影されていると思います。
今は“マイルドな忙しさ”
──4月からは30周年イヤーに突入します。25周年記念アルバム「シングルコレクション+ アチコチ」をリリースされたのが、つい昨日のことのように感じますが……。
本当ですよね。私もそう思います(笑)。
──30周年の施策として、まずは楽曲の投票企画「MAAYA's BEST SONG~あなたの一番好きな坂本真綾の曲を教えてください~」の実施が発表されましたね。
皆さんに投票で私の一番好きな楽曲を選んでいただくので、とても楽しみです。ずっと応援してくださっている方も、最近私を知ってくださった方もいらっしゃるので、幅広い年齢層のファンの方による投票で、どんな結果が出るかドキドキですね。
──ほかにも30周年ではさまざまな企画を予定しているんですか?
現段階で言えることは少ないですが、いろいろと決まっています。アニバーサリーって、私は「おめでとう」と言ってもらう立場ではありますが、どちらかというと恩返しの機会だと思っているんです。応援してくださっている人に楽しんでもらえるようなお祭り期間になればいいな、と。「30周年という冠を背負えることはなかなかないよ」とスタッフから言われるので、そのありがたみを噛み締めながら、大事に過ごしていこうと思います。
──5月にはファンクラブ限定ライブ「IDS!アイドリングストップ!20周年 Special LIVE“Thanksgiving~これからもよろしく~”」が河口湖ステラシアターで開催されます。見どころを教えてください。
「Drops」をライブで初披露するのが、とても楽しみです。「Ah Ah」のコーラスはライブでお客さんにぜひシンガロングしてほしいですね。どれだけ皆さんが恥ずかしがらずに声を上げてくださるか、楽しみにしています(笑)。あとは前作「nina」もまだライブでやったことがないので(参照:坂本真綾インタビュー|通算35枚目のシングル「nina」でピュア&フレッシュな楽曲が生まれた理由)、今回が初披露です。富士山の麓の空気感も楽しんでほしいですね。
──さまざまな環境の変化を経ても、坂本さんがここまで長年変わらず精力的に活動し続けてきたことは本当にすごいと思います。
でも、20、25周年の頃よりは、感覚的にはマイルドな忙しさなんですよ。昔はマネージャーと「いつ寝てるんだろう」と思うような時間にやりとりをしていたり、24時間営業でしたけど、それはもう時代に合わないので。今は仕事よりも、私生活のほうでヒイヒイ言っている感じですね(笑)。
──出産を公表されて3年が経ちますが、まだまだ育児が大変な時期ですよね。
子供は今いわゆるイヤイヤ期……「そろそろ終わるよね?」と祈り続けています(笑)。本当に世のお母さんはみんなすごいなって。仕事は終わりがあるけど、育児は24時間だし、順序立てて計画的に進めることが子育てにはまったく通用しない。作ったものを食べてくれないとか、四角いパンを出したら「丸いパンがいい」と泣き始めるとか(笑)。それを楽しむ余裕があればいいんですけど、多忙だと余裕がなくなってきてしまうので、忙しくなりすぎないことを意識しています。子育てをしながらアクティブに活動されているアーティストさんを見ると、「どうやって生活しているんだろう」と思ってしまいますね。
──私も坂本さんの活動を見て、同じことを思っていました(笑)。
あはは、そうですよね(笑)。
──息抜きの時間は取れていますか?
やはり早朝ですね。早起きして、家事をしながらお笑い芸人さんがワイワイしている番組を観ている時間が、今は一番楽しいです。やっぱり笑うことは癒しだし、心から笑うことで取り戻せる健康ってあるなと、日々実感しています。
公演情報
坂本真綾オフィシャルFC会員限定 IDS!アイドリングストップ!20周年 Special LIVE“Thanksgiving~これからもよろしく~”
- 2025年5月24日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
- 2025年5月25日(日)山梨県 河口湖ステラシアター
プロフィール
坂本真綾(サカモトマアヤ)
1980年3月31日生まれ、東京都出身。幼少期より劇団で活動し、自身が主人公の声を担当した1996年放送のテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビュー。以降コンスタントに作品を発表する傍ら、声優、女優、ラジオパーソナリティとしても活動している。2021年3月にデビュー25周年を迎え、神奈川・横浜アリーナで2DAYSライブ「坂本真綾 25周年記念LIVE『約束はいらない』」を行った。2023年5月に11枚目のオリジナルアルバム「記憶の図書館」を発表。2024年11月にテレビアニメ「星降る王国のニナ」のオープニングテーマ「nina」をリリースした。2025年5月にはテレビアニメ「ある魔女が死ぬまで」のオープニング主題歌「Drops」がCDシングルとして発売される。
衣装協力
AOI WANAKA