ナタリー PowerPush - 坂本真綾
「シングルコレクション+ミツバチ」インタビュー&ツアー直前座談会
坂本真綾のシングルコレクションアルバム第3弾「シングルコレクション+ミツバチ」が完成した。この作品には、彼女がさまざまな挑戦や冒険を繰り返した濃密な歳月がパッケージされている。
今回の特集は「ミツバチ」の世界を探る単独インタビューと、アルバム発売日より始まる全国ツアー「LIVE TOUR 2012 “ミツバチ”」のバンドメンバーである北川勝利(ROUND TABLE)と奥田健介(NONA REEVES)を迎えた座談会の2本立てでお送りする。
取材・文 / 臼杵成晃
坂本真綾 単独インタビュー
今の自分はこの挑戦があったからこそ歌えているんだなって
──この「シングルコレクション」シリーズは「ハチポチ」が1999年12月、「ニコパチ」が2003年7月で、今回はおよそ9年4カ月ぶりと結構間が空きましたが、ちょうど菅野よう子さんとガッチリとタッグを組んでいた時期以降、さまざまなアーティストとのコラボに挑んだ“冒険期”と呼べるような時期を総括する作品になりましたね。今このタイミングで3作目をリリースすることになったのはなぜですか?
特に何かのタイミングを狙ってたわけではなくて。3作目を出す必要性が見当たらなかったんですよ。音楽の聴き方も、時代が変わるにつれ1曲ずつデータで聴くことが当たり前になってきて、ベスト盤やシングルコレクションというものが大きな存在ではなくなってきたのかなって。「ハチポチ」の頃は8cmシングルがなくなっちゃうからそれをまとめておくという意味合いも大きかったし、シングルやサウンドトラックに入っている曲をまとめて、英語で「ごった煮」という意味の「hotchpotch」から「ハチポチ」というタイトルを付けたんですね。
──ちょうど1枚のアルバムに収まるタイミングで過去の2作ができたという。
はい。それに当時は私、シングル曲をアルバムに入れないことが多かったので「シングルコレクション」というものが作られる意味があったんですよね。そのあと私の中で「シングル曲もアルバムに入れていきたい」というふうに気持ちが変わっていって。だから「3枚目は必要かなあ?」ってずっと思ってたんですね。あとは2010年に30歳の誕生日に出した「everywhere」というデビュー15周年のベスト盤で、自分自身が思うベストな選曲というのをひとつ出したのも大きいですね。シングルコレクションではなく、これでいいんじゃないかなって。でも自分の中でもシングル「ループ」(2005年5月発売の12thシングル)以降というのは、変化や挑戦の連続だった、まさに先程おっしゃった“冒険期”と言える日々で。夢中で目の前のことを乗り越えながら、前に進むことだけを考えていたし、振り返ることをしたくなかった。
──確かに、ずっと変化の連続だったような印象があります。
でも「ループ」以降のシングルを改めて聴き返したときに、やっぱり今の自分はこの挑戦があったからこそ歌えているんだなって感慨深い気持ちになったんです。私がやってきたことは、なかなか良かったんじゃないかって(笑)。そう考えたら3枚目を今だからこそ出す意味もあるのかなって思えてきたんですね。
──「everywhere」の後はシングルリリースも続き、7thアルバム「You can't catch me」やコンセプトアルバム第3弾「Driving in the silence」、さらには過去最長のツアーや計5日間のコンセプトライブと、2010~11年は怒濤の展開でしたが、2012年はシングル「モアザンワーズ」のみと、音楽活動についてはひと呼吸置いたような流れになりました。今年は秋にミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさん」という大きなお仕事があったのも大きいかもしれませんが。
15周年はちょっとお祭りみたいなところがあったけど、それが終わったからって急にトーンダウンするつもりはなくて。自分としては止まるつもりは全くないんですけど、まあ、待ってくださる方からしたらあまりにも立て続けだとちょっとね(笑)。今年は年末に「ミツバチ」を出して全国を回るということをずいぶん前から決めていて、それに向けて照準を合わせてきたし、同時にこの先のことも考えて動いているから、私の中ではひと呼吸ついた感じはあまりないんですよね。
3度目の「風待ちジェット」
──このシリーズは、シングルをまとめたアルバムという意味合いはもちろんですけど、タイトルにもある「+」の要素が特徴的で。OAD「CLAMP IN WONDERLAND 2」(2007年10月発売)のテーマ曲だった「action!」も収められていますが、この曲はピチカート・ファイヴなどを連想させる、坂本さんの作品の中ではかなり異色な楽曲ですよね。
ライブでも歌ったことはないし、これまであまりスポットを浴びたことがなかった曲ですね(笑)。この曲はのちに自分のアルバムに入れようとか考えずに作った曲で、どちらかというとアニメのサウンドトラックを作っているような感覚でできた曲なんですよ。いかに映像に合うかを考えて。そういう作品だからこそ、いつもの自分とは違うことに挑戦できた貴重な曲ですね。
──「風待ちジェット」はオリジナル音源のリミックスでボーカル録り直しの新バージョンとなっていますが、これはシングル(2006年6月発売)バージョン、アルバム「かぜよみ」(2009年1月発売)バージョンに続く3パターン目になります。なぜ改めて歌い直しを?
この曲は気が付けばライブでも定番になっているんですが、「かぜよみ」のツアー以降の定番なので、アルバムに入っている「風待ちジェット~kazeyomi edition」でやり続けていて。これだけ歌い続けているから、最初に出したときよりも変化している部分、成長した部分もあるだろうから、今の私でもう1回歌っておくのもアリかなって。
──実際にご自身の中での違いは大きかったですか?
うーん、あまりに歌い続けているからよくわからないですね(笑)。ただ、最初にレコーディングしたときとは全然違うかなあ。もちろんあの時点で一度完成しているものではあるけれど「今の自分ならこういう解釈で歌うな」という部分を改めて残しておけるいい機会でした。
ニューアルバム「シングルコレクション+ミツバチ」/ 2012年11月14日発売 / FlyingDog
SHM-CD収録曲
- ループ [作詞:h's / 作・編曲:h-wonder]
- マジックナンバー [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:北川勝利 / ストリングス編曲:河野伸]
- DOWN TOWN [作詞:伊藤銀次 / 作曲:山下達郎 / 編曲:服部隆之]
- トライアングラー [作詞:Gabriela Robin / 作曲・編曲:菅野よう子]
- さいごの果実 [作詞:坂本真綾 / 作曲:鈴木祥子 / 編曲:斎藤ネコ]
- スピカ [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:h-wonder]
- action! [作詞:坂本真綾 / 作・編曲:h-wonder]
- やさしさに包まれたなら [作詞・作曲:荒井由実 / 編曲:DEPAPEPE]
- 雨が降る [作詞:坂本真綾 / 作曲:かの香織 / 編曲:斎藤ネコ]
- Buddy [作詞:坂本真綾 / 作曲:School Food Punishment、江口亮 / 編曲:江口亮]
- Private Sky [作詞:坂本真綾 / 作曲:多保孝一 / 編曲:中村タイチ]
- 風待ちジェット~mitsubachi edition [作詞:坂本真綾 / 作曲:鈴木祥子 / 編曲:飯田高広]
- モアザンワーズ [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:菅野よう子]
- おかえりなさい [作詞:坂本真綾 / 作曲:松任谷由実 / 編曲:森俊之]
- プラリネ [作詞:坂本真綾 / 作曲:山沢大洋 / 編曲:武藤星児]
- エイプリルフール feat. 坂本真綾 / 冨田ラボ [作詞:イルリメ / 作・編曲:冨田恵一]
- 猫背 [作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:菅野よう子]
Blu-ray Disc収録内容(PV)
- さいごの果実
- トライアングラー
- 雨が降る
- マジックナンバー
- everywhere
- DOWN TOWN
- 秘密
- Buddy
- おかえりなさい
- ショートムービー Driving in the silence
- モアザンワーズ
- ユニバース
坂本真綾(さかもとまあや)
1980年3月31日生まれ。幼少時より劇団で活動し、1996年にテレビアニメ「天空のエスカフローネ」のオープニングテーマ「約束はいらない」で歌手デビューを果たした。声優、女優としても活躍しながら、コンスタントにオリジナル作品を制作している。2010年3月にはデビュー15周年を記念した2枚組ベストアルバム「everywhere」を発表。2012年7月には初期の作品を数多く手がけた菅野よう子×岩里祐穂コンビによるシングル「モアザンワーズ」が発売された。11月14日にはシングルコレクションアルバム第3弾「シングルコレクション+ミツバチ」がリリース。