ナタリー PowerPush - livetune×ファンタジスタ歌磨呂
異業種クリエイター“ポップ”談義
30人以上のクリエイターが参加したPV
──今回のビデオクリップは女の子が走っていく風景がループして、どんどん世界が変わっていくというアニメになっていますね。なぜこういった形に?
ファンタジスタ歌磨呂 まずアニメでやりたいという考えがあって。でも現実的なところで予算の制約がある。そうするとどうなるかというと、描ける絵の枚数に限界があるから、ループ素材がどうしても増えてしまう。で、アニメーションが好きな人だと、そういうビデオクリップを見ると大抵「ああ、予算ないのか、もったいないなあ」って思っちゃう(笑)。
kz そうそう、わかっちゃいますね(笑)。
ファンタジスタ歌磨呂 なので、一般的に否定的な目で見られがちのループ素材をなんとか面白く見せることが大きなアイディアソースとしてあった。で、ループのアニメーションに徹底的にこだわって「Transfer」という曲のイメージを表現できないだろうかと思ったんです。女の子がただ何かに向かって走ってて背景だけが変わってく。いろいろなパラレルワールドにその女の子はいて、走ってるだけなんだけど、実はそれは全部つながっていたのでした、みたいな。伊能忠敬が日本全国を行脚して日本地図を作りました!じゃないですけど、何か一つの人生みたいなものを表現したかったんです(笑)。
kz なるほど!
ファンタジスタ歌磨呂 最初は普通のアニメっぽく始まるんですよね。「ああ、ループかあ」って思うんだけど、だんだんその背景やシチュエーションが変わっていくことで見方が変わってきて「次何来るんだろう?」ってなる。飽きさせずに最後まで観せたいっていう気持ちもあって、こういったコンセプトと映像が出来上がったんですよね。
──今のお話にもあったように、曲が進むにつれて背景の絵柄がどんどん変わっていきますよね。あれはどうやって作っているんでしょうか?
ファンタジスタ歌磨呂 あれは30人以上のクリエイターが参加しているんですよ。池田一真ディレクターとくぼたべえ万三郎アニメーションディレクターでアイデアを固めて、みんなでわっしょいやってる感じです。でも、一つの大きな軸というルールを決めて、違った展開で見せていく、というところはすごい出したかったんです。それはやっぱり、kzくんに「インターネットカルチャーの申し子=レジェンド」みたいな僕のイメージがあったので。
kz そんな大層なもんじゃないです(笑)。
ファンタジスタ歌磨呂 いや、そんなことなくないです。ハイブリッド世代の代表格みたいなものだと思う。なので、そういう作り方にしました。
──そのことをkzさんは知ってました?
kz 一度途中経過が送られてきたんですけど、「果たして大丈夫なのか? 間に合うのか?」ってのは思いました。ループの尺がそこで見えたんで、そこから計算すると、どれくらいのパターンの数を作んなきゃいけないのかもわかる。そう考えると、別に作ってる本人じゃなくても吐きそうになりました(笑)。最終的に何パターン作ったんですか、あれ?
ファンタジスタ歌磨呂 一応25パターンなんですけど、ちゃんと流れてるのは17かな。そんなにはないです。
kz でも最後のロゴのパズルのところで出てくるいくつかのパターンも、全部ちゃんと18秒のループを作ってるわけですもんね?
ファンタジスタ歌磨呂 作ってますね。
kz あのショートループだから逆に飽きないっていうのもあると思って。18秒って小気味いいテンポなんですよね。ループが長いとやっぱりだれちゃうし。「次は何来るんだろう?」みたいな楽しみが途切れない感じはありました。
「ヤバいもんができた!」ってすぐ電話した
──出来上がった映像を観てkzさんはどんな印象を受けました?
kz 確か見終わった瞬間に電話したんでしたっけ?
ファンタジスタ歌磨呂 そうそう。SEの音量を確認しなきゃいけなかったりしたんだけど。
kz もうそういうの関係なしに、とにかくすごすぎたんで、とりあえず電話したんですよ。「ヤバいもんができた!」みたいな。衝撃でしたね。もうぶっ飛んでますよ、ほんとに。あれを作ろうというアイデアとそれを実行する気力を兼ね備えてる人なんて、他になかなかいないと思うんで。
ファンタジスタ歌磨呂 いやもう二度とビデオクリップなんて作らねえ!と思いながらやってましたよ(笑)。みんな死んでました。
──細かい部分での見どころも多いですよね。おばあちゃんが水を撒く動きがいろいろ変化していたり。
kz カレンダーもそうですよね。
ファンタジスタ歌磨呂 そうそう(笑)。カレンダーがちゃんと発売日になってたりね。そういう「あっ」みたいな地味なことって割と大事だなあと思っていて。
kz あと、最後廃墟になるところのグラフィティにも、スタッフの名前を入れてますよね? 5分くらいかけて一生懸命読んで、ようやくわかったんですけど(笑)。
──一時停止して初めてわかるような箇所もたくさんある、と。
ファンタジスタ歌磨呂 ディレクターの一真君がかなりそういうの大好きで、一緒に盛り上がっちゃっていろいろやりましたね。宮本武蔵と佐々木小次郎が戦ってるところとか、主人公の女の子がぶつかっちゃって小次郎が勝っちゃったり、本能寺に爆弾持ち込んじゃったりとか(笑)。
──数分の映像にものすごい量の情報が詰め込まれてますよね。
kz とんでもない情報量ですよ(笑)。前回も映像としての情報量はすごかったですけど、今回は別のベクトルで情報量が多い。
ニューシングル「Transfer」2012年9月26日発売 TOY'S FACTORY
収録曲
- livetune adding 中島愛「Transfer」
- livetune adding Yun*chi「Sign」
- livetune adding 中島愛「Transfer」(Avec Avec Remix)
- livetune adding 中島愛「Transfer」(Inst.)
- livetune adding Yun*chi「Sign」(Inst.)
初回限定盤DVD収録内容
- Transfer(Music Video)
初回限定盤封入特典
「ガンスリンガー ストラトス」内で使用できるlivetuneコラボヘッドフォン&ポイント10000Pを入手するためのキャンペーンコード
livetune (らいぶちゅーん)
音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し、注目を浴びる存在となる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、CM楽曲も話題に。2012年1月に同曲を配信リリースし、3月にミニアルバム「Tell Your World EP」を発表。同年8月には八王子Pとのコラボシングル「Weekender Girl / fake doll」をリリースした。
ファンタジスタ歌磨呂 (ふぁんたじすたうたまろ)
1979年生まれのクリエイター。イラスト、マンガ、アニメーション、テキスタイルなど多岐にわたり活躍している。カラフルでポップな作風に定評があり、アーティストとのコラボレーション作品も多数。livetuneとは「Google Chrome」のCMで使用された「Tell Your World」のビデオクリップでもコラボしている。