ナタリー PowerPush - livetune×ファンタジスタ歌磨呂
異業種クリエイター“ポップ”談義
後発に続く世代を背負いたい
──kzさんにお伺いしたいんですけど、たびたび歌磨呂さんの話の中で「kz=インターネットカルチャーの申し子」という話題が出てきてますが、ご本人としてはどう思ってますか?
kz 申し子かどうかはわかんないですけど(笑)。まあでも、今、ここにいるのは99%インターネットのおかげですからね。ほんとにいろんな人に支えてもらって今ここにいるんで。
ファンタジスタ歌磨呂 本当、運命的としか言いようがないっていうか。kzくんが曲を作ろうとしたときにインターネットがあって。で、そこで発表する場所ができて。さらに音楽が広がる場所があった、という。
──僕が思うのは、例えばOASISがデビュー作で労働者階級のヒーローという物語を背負ったのと同じように、livetuneは「Tell Your World」という特大のホームランで、「インターネットカルチャーの自由」という物語を背負ったんじゃないかと思うんです。
kz でもまあ、あの曲はやっぱり特別ですよ。なので、次に何かの機会があるかもしれないですけど、現段階ではあれはあれで1つの区切りとして考えてます。ただ、物語を背負うというより、後発に続く世代を背負うっていう気持ちはありますね。僕とかtofubeatsとかsupercellのryoさんとか、インターネットのカルチャーシーンから出てきた人たちが今いろんな仕事をしてますよね。やっぱり僕らが成功して幸せな感じになってる風景が見えないと、下の世代が暗くなっちゃうじゃないですか(笑)。
ファンタジスタ歌磨呂 素晴らしいですね。俺もそれはいつも考えてます。だから、がんばらなきゃって思うし。下の世代にヤバい才能たちがいっぱいいるから応援したいし、一緒にみんなで世界行こうぜ!っていう。
kz そういう人達が出てこられるように、仕事の環境とシーンの環境と、両方僕らが作っていかなきゃと思う。それは僕らの使命だし、そういうものを背負いたいっていう気持ちはありますね。
デザインは書記みたいなもの
──歌磨呂さんは、この先の自分のクリエイティブなビジョンについてはどう考えてらっしゃいますか? 数年後にどういう存在になっていきたいとか。
ファンタジスタ歌磨呂 デザインに関しては、僕はもう書記みたいなものだと思ってます。最近、肩書きも「書記」って言っちゃってるんですけど(笑)。書記というのは例えばkzくんが作った素晴らしい曲があって、そのパッケージを歴史に残していく作業をやっているという。そもそもデザインっていうのはそういうものだと思うんですよ。僕、アートディレクターっていう言葉も嫌いで。そうやって前に出る時代はもう終わった!俺たちは裏方だ!くらいの気持ちで最近はやってます。
──デザインは書記のようなものだということは、前から思っていたことなんでしょうか?
ファンタジスタ歌磨呂 いや、それこそ「Tell Your World」の直前に気付いたことでした。それが僕にとっては大きなターニングポイントになったんですよ。そのちょっと前に、シンガポールに行って。「Anime Festival Asia」っていうイベントがあったんですけど、そこで初音ミクのライブにシンガポール人が何千人も熱狂してるんです。コール&レスポンスとかも完璧で(笑)。「この現象ってなんなんだ? なんとかしなきゃ!」みたいに刺激を受けて。そういう刺激を受けまくってるときに、Google ChromeのCMに初音ミクが起用されるっていう話を聞いて、さらにその曲の仕事が来た。
──すごいタイミングですね。
ファンタジスタ歌磨呂 昇天しました。これはもう100%応えなきゃいけない!と。そのときに「書記」というワードが浮かんだんです。デザインの醍醐味がそこで初めてわかった気がしました。今まで、デザインはどんどん消費されていくものだと思ってたんです。すごい情熱を持って作るけれど、少ししたらもう古いものとして忘れ去られていくっていう。でも、アートっていうのは、ちゃんと生き続けていくんですよね。絵にしても、音楽にしてもそう。そこで、商業デザインっていうものに対してずっと感じていた空虚感みたいなものへの答えが生まれたんです。あ、俺はこのムーブメントや思いを歴史に残していく作業をしてるんだ、という。そう思ったら、自分のやってたことが初めて報われた気がしたんですよね。
──なるほど。
ファンタジスタ歌磨呂 あと、デザインや映像の強いところは、メディアと直結してるから広まるのが速いということ。例えば今回の「Transfer」のビデオクリップが海外の人に受け入れられて、そこから将来マドンナやLADY GAGAの楽曲をkzくんが作るようになる可能性もあるわけじゃないですか? そういうところまでいきたいなと思ってやってますね。今回の「Transfer」については、最初から世界レベルで見てもイケてるっていうところまで持っていきたいと思ってやってました。だからプロモーションも超がんばってほしい(笑)。
kz (笑)うん。この作品はいろんなところに出していきたいですね。
livetune adding 中島 愛「Transfer」Music Video
ニューシングル「Transfer」2012年9月26日発売 TOY'S FACTORY
収録曲
- livetune adding 中島愛「Transfer」
- livetune adding Yun*chi「Sign」
- livetune adding 中島愛「Transfer」(Avec Avec Remix)
- livetune adding 中島愛「Transfer」(Inst.)
- livetune adding Yun*chi「Sign」(Inst.)
初回限定盤DVD収録内容
- Transfer(Music Video)
初回限定盤封入特典
「ガンスリンガー ストラトス」内で使用できるlivetuneコラボヘッドフォン&ポイント10000Pを入手するためのキャンペーンコード
livetune (らいぶちゅーん)
音楽プロデューサーのkzによるユニット。2007年9月、ボーカロイド「初音ミク」を使用して制作したオリジナル楽曲「Packaged」を動画サイトに投稿し、注目を浴びる存在となる。2008年8月にアルバム「Re:package」でデビュー。その後、さまざまなジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、リミックスなどを手がける人気クリエイターとして活動する。2011年12月に「Google Chrome “あなたのウェブを、はじめよう。”キャンペーン」のCMソングとしてlivetune名義の新曲「Tell Your World」を制作。YouTubeで公開されたCM映像は1週間で100万再生回数を超え、CM楽曲も話題に。2012年1月に同曲を配信リリースし、3月にミニアルバム「Tell Your World EP」を発表。同年8月には八王子Pとのコラボシングル「Weekender Girl / fake doll」をリリースした。
ファンタジスタ歌磨呂 (ふぁんたじすたうたまろ)
1979年生まれのクリエイター。イラスト、マンガ、アニメーション、テキスタイルなど多岐にわたり活躍している。カラフルでポップな作風に定評があり、アーティストとのコラボレーション作品も多数。livetuneとは「Google Chrome」のCMで使用された「Tell Your World」のビデオクリップでもコラボしている。