「The VOCALOID Collection」特集 kz(livetune)×じん|ネットの音楽シーンはこれからもきっと面白い

ボーカロイドにまつわるさまざまな企画が繰り広げられるイベント「The VOCALOID Collection ~2020 Winter~」の開催を記念して、音楽ナタリーではイベントに賛同するクリエイターにスポットを当てた特集を複数回にわたって展開中。最終回となる第4回は、ボカロの黎明期である2007年に「Packaged」を投稿してボカロカルチャーの牽引役となったkz(livetune)と、2011年より「カゲロウプロジェクト」と題した連作を投稿して一世を風靡したじんの対談を掲載する。ボーカロイドを用いた音楽が誕生してから10年が経った今、長きにわたって動画カルチャーを内側から見続けてきた2人は何を思うのか? インターネット上での音楽シーンの特殊性や、ボカロの音楽の受け入れられ方の変化などを交えながら、2人にシーンの過去と現在、そして未来について語り合ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦

ここ数年、気になる作家に

──お二人ともキャリアは長いですが、世代がちょっと違いますよね。

kz じんくんが2011年に活動開始だから3、4年くらい?

じん はい。僕がボカロを始める頃にはもうkzさんは雲の上の人だったので。

kz やめてよ(笑)。実はじんくんと直接話すようになったのは去年からなので、交流を持つのは遅かったんですよね。

じん 長く活動しているボカロ界隈の方とはだいたいつながりがあるんですが、なぜかkzさんだけは10年近く話したことがなくて。

kz なかなか接点がなかったんですよね。「ニセコイ」のテーマ曲も1期と2期で分かれていたから、打ち上げでも会えなくて。会うきっかけになったのは「Life is tasty!」かな?

じん そうです。僕が書いた「Life is tasty!」をkzさんがイベントでかけてくれたんです。僕、ビックリしたんですよ。kzさんは僕の曲なんか聴かないものだと思っていたから。

kz いやいや、聴くよ(笑)。この間の「オントロジー」もめちゃくちゃよかった。

じん ありがとうございます。これは僕の偏見なんですけど、kzさんはもっと明るいところに住んでいるイメージがあって。

kz いや、明るさで言ったら絶対にじんくんのほうがきらびやかに見えると思うけど(笑)。ただ振り返ってみると、じんくんが「カゲロウプロジェクト」を投下している頃に細かくチェックしていたわけではなかったんですよね。もちろん当時から話題になっていたし、クオリティも高くてカッコいいと思って曲には触れていたけど、カゲプロを網羅するほど追いかけてはいなかった。たぶん僕は「オツキミリサイタル」みたいな明るい曲が好きなんですよ。最近のじんくんは明るい曲が多くて、僕の好きな曲調のものが増えたんですよね。だからここ数年は気になる作家として見てた。

僕らはアマチュアで、kzさんはプロだった

じん kzさんのことを知ったのは「Re:package」(2008年8月にリリースされたkzのデビューアルバム)の頃ですね。僕がまだボカロを始める前。

kz あ、そんな昔から知ってくれてたんだ。

じん はい。当時まだボーカロイドのCDがメジャーレーベルから全然出ていない時期で。そんな中、ryoさんとkzさんが先陣を切ってメジャー盤を出していたイメージが強いんです。当時は作家というより初音ミクにスポットが当たりがちで、“初音ミクのCD”みたいなコンピ盤がリリースされることのほうが多かったんですが、ryoさんやkzさんは作家名で一枚ドンと出していましたよね。なんかボカロPの元締めみたいなイメージがあって(笑)。

kz なんかryoさんと僕、だいたい怖がられてるイメージがあるんだけど(笑)。

じん だって僕が「カゲプロ」を上げているときに、kzさんは「Tell Your World」でGoogleのCM曲作っているんですよ? とにかく当時、僕らはアマチュアでryoさんやkzさんはプロなんだ、という印象が強くて。同じボカロPでもステージが違うんだって、すごく思ってました。

kz ryoさんや僕がメジャーで出してから、次の世代にDECO*27くんとかがいて。さらにその下にじんくんだよね。2、3年スパンで世代が切り替わっていく感覚があって、先にメジャーでやられている分、新しい世代が面白いことをやろう、みたいな気概をすごく感じてたんだよね。例えば1枚絵じゃなくてアニメーションを作り始めたのも、そういう世代の違いがあったから生まれたのかもしれないし。それこそ、じんくんの「カゲプロ」のような試みもインディーの境地にいたから生まれたプロジェクトなんじゃないかなと。

じん そうだと思います。ryoさんやkzさんがプロの世界に行って初音ミクをパブリックなものにしたことでボカロ界隈の人口が増え、いろんな音楽が作られるようになった。その結果、「千本桜」のようなメガヒット曲も登場したし、当時ボカロを始める僕らのような者からすると、初音ミクというツールを使ってやれることはやり尽くされているようなイメージがあった。

kz なるほど。

じん 実際はそんなことないんですけど、新人はどうしてもそう思っちゃうんですよ。で、僕は意を決して、初音ミクを使いながら初音ミクじゃないキャラクターの登場するMVの曲を出したら、ボカロファンから「それはどうなの?」ってめちゃくちゃ叩かれて。

kz それは覚えてる。本来のソフトの使い方として、じんくんの使い方は正しいと思うんだけど、当時は叩かれる風潮にあったよね。

じん 僕からすると「そういうルールがあったんですか?」って感じ。当時は初音ミクがパブリックアイコンとして立ちすぎているイメージがあったんですよね。それは先陣を切っていった人たちがソングライターとしてめちゃくちゃ強かったというのもあって、その流れに逆行するとどうしても叩かれてしまった。だから僕やkemuみたいなクリエイターは当時自分たちの小さい自治国家を作る、みたいなことをして生き延びるしかなくて。

kz 僕はボーカロイドのキャラクター性に関してプライオリティを高く持っている人間ではないので、じんくんの気持ちはすごくわかる。それにボカロの曲を作りながらバンドをやって、自分のオリジナルでもちゃんと売れて……みたいな活動が顕著になったのはじんくん、kemuくん、n-bunaくんらの世代からの印象が強い。初音ミクというキャラクターに縛られずにクリエイターとしてやっていく生き方を見出したのは、当時その流れに逆行した人たちがいたからじゃないかな。

じん そう言ってもらえると報われるんですが、当時はかなりキツかったですね。僕を叩くだけのスレが同時に2つ立つ、みたいなことがザラにありましたから(笑)。

kz ははは(笑)。

じん 僕からしたらkzさんは“神の視点”なので、当時のことをどう思ってたかはすごく新鮮です。

kz でも僕はちょっと特殊だと思うんですよ。早めにメジャーで仕事をするようになったから、ボカロの曲をたくさん書くようなクリエイターではなくなってしまって。

じん そこがプロっぽさでもあったんですよ。もうボカロじゃなくてClariSとかを手がけ始めてるし、たまにボカロ曲を書けばそれがビックタイアップ曲なわけですから。

kz おいしいところをかっさらう人みたいな(笑)。そんなこと言ったら、「プロジェクトセカイ」に「ステラ」を書いているじんくんも同じじゃん!

じん いや、そんなことないですよ! でも確かに最近はそんなにボカロ曲を書いていないから……。

kz 人に言った言葉は自分にも返ってくるんだよ(笑)。