音楽ナタリー Power Push - LiSA

2015年に芽吹いた花

リーダーにならなくちゃいけないときがある

──そんな2015年を締めくくる形でリリースされた新作が、初の配信シングルと。表題曲の「ID」はバトルゲーム「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX IGNITION」の主題歌ですね。

最初に話をいただいたときは「私、また戦うのか」って思っちゃいました(笑)。今年は「Launcher」(2015年3月発売の3rdフルアルバム。参照:LiSA「Launcher」インタビュー)から始まって、最後もバトルで締めるんだなあって。でも人生は常に戦いだと思っていて、戦いたくなくても戦わなくちゃいけないときがあると思うんです。なんで戦うんだろうなあと考えると、守りたいものがあるからだと思うんですよね。守りたいものがあるのはすごく幸せなことで。今年1年を振り返ると、さっきお話したように、みんなが信じてくれたから私もみんなのことを信じることができた。だからみんなを守るんだと思うと戦えるし、劣勢だってひっくり返せる。

──バトルというテーマに今の自分を重ねながら作り上げていったんですね。

戦って無理にこじ開けたんじゃなく、みんなが協力してくれたから扉が開いて道ができ、花も咲いた。今の私なら実感を伴う経験者としてそれが歌えると思ったんです。この1年の締めくくりとして、その思いを強い言葉として届けたいなって。だから今までの私なら使わなかったような、「舌を出せ」とか「鳴らしていけ」のような強い言葉を選びたいと古屋(真)さんに相談しながら歌詞を作っていきました。

──同じ戦いを描くにしても、「Launcher」を作っていた今年の初めと今とでは全然違う。

LiSA

そうですね。「Mr.Launcher」(アルバム「Launcher」のオープニングナンバー)って、私の中では「自分たちの好きなものを、好きなように遊んでやろうぜ」という曲だったんです。わかってくれなくてもいいやっていう。でもそれをたくさんの人が認めてくれたことがすごくうれしかったし、自信にもつながったから、今は温度感が違う。なんだろうなあ……「Mr.Launcher」は戦う1人の兵士だったんです。「ID」は隊長。

──それは大きい変化ですよね。同じ戦いに挑むにしても陣頭指揮を執るのは自分自身で。隊長を担う責任と覚悟ができたと。

はい。私は人の上に立ってまとめるようなことがずっとイヤだったんです。それはみんなに「がんばれば夢は叶うから」って言う自信がないし、受け取る人の気持ちを代弁する自信がなかったから。でもこの1年を通して、やらなくちゃいけないときがあるなって思ったんです。自分がその立場に立てるのはすごくありがたいことで、後押ししてくれる人たちがいるからには、リーダーにならなくちゃいけないときがある。今年最後に出す曲で何を歌うべきかと考えたら、やっぱりその心境の変化を届けるべきだと思ったし、そこに偶然バトルというテーマが重なったというか。

劣勢をひっくり返す切り札「JOKER」

──その思いを形にする上で、サウンド面はどのように考えていったんでしょうか。

LiSA

これはもうPABLOさんに任せるしかないなと。私はバンドをやってた頃、Pay money To my Painはラウドロック、ハードコアパンクのシーンを牽引する偉大な先輩バンドの1つだったんです。なのでPABLOさんはずっと憧れの存在だったんですが、偶然が重なり「Mステ」でご一緒することになって。ロックシーンに憧れてた田舎のバンドマンとしては(笑)、P.T.Pはヒーローなわけですよ。そんなヒーローとまさか「Mステ」なんていう夢のまた夢みたいな場所でご一緒できるなんて本当に奇跡みたいなことで。その後「ID」の構想を固めているときにPABLOさんの顔が思い浮かんで「先輩、ちょっと力を貸してください」って。

──これだけハードなラウドロックをポップな楽曲としてアウトプットできるのは、LiSAさんの特長であり武器ですよね。

それは古屋真という人がポップの天才だからですよ。劣勢をひっくり返す状況を、何にでもなれる切り札「JOKER」と表現したり。古屋さんというポップワードリーダーに頼めばどんな曲だってポップになるし、どんな曲だってLiSAになるんだなって思います。

LiSA初の「日曜日のお昼に部屋で流せる曲」

──今回は配信シングルですがカップリング曲もあって、それがLiSAさん初のクリスマスソングという。「ギフトギフト」、思った以上にちゃんとクリスマス然としたクリスマスソングで少し驚きました。

あはははは(笑)。

──小南泰葉さんが書いたメロディはもちろん、野間康介(agehasprings)さんによるアレンジも極めて優しく温かいクリスマスソング、ウインターソングに仕上がっていて。しかも丁寧に鈴まで鳴らしている。

そうそうそう(笑)。せっかく冬だし、「ID」とはまったく違う曲がいいかなって。そもそもLiSAの曲って今まで、日曜日のお昼に部屋で流せるものがないんですよ(笑)。家族とゆっくり聴くような曲が。いろんな曲を歌えるようになってきた今だからこそ、そういう曲が欲しくて。特別な曲を作りたいと思ったとき……私にとって特別な日って誕生日だけなんです。特別な日がそんなにいっぱいあったら特別じゃないじゃん!って思ってるし。クリスマスというと恋人同士で過ごすイメージもありますけど、私はハッピーに浮かれている人を見て「なんか楽しそうですね」って言って1人で普通の日常を過ごすタイプ(笑)。

──なのになぜクリスマスソングを?

LiSA

そんなふうにひねくれてた私でも、小さい頃のクリスマスは特別な思い出で。街中がいつもと違うムードに包まれているし、夜中まで起きて「サンタさん来るかなあ?」って妹と話したりして。母はすごくクリスマスを大事にする人で、20歳すぎてもずっとサンタさんが来てたんです。すごく思い入れのある日なので、クリスマス近いし、今なら歌えるかなって。

──小南さんとのコラボは、今年9月のシングル「Empty MERMAiD」(参照:LiSA「Empty MERMAiD」インタビュー)に収録された「リスキー」に続いて2曲目ですけど、「リスキー」がすごくトリッキーな楽曲だったのに比べて、今回はストレートにポップですよね。これはどのような発注を?

「小南さん、冬、お願いします!」って(笑)。でも、小南さんはおそらく言葉とメロディが一緒に出てくるタイプで、言葉がメロディを歌ってるんですよ。だから仮の歌詞で歌われていたデモから離れるのがすごく大変でした。小南さんが選んでいたフレーズよりも強い言葉はなんだろう?って。例えばサビの「starry holy night」のところは「落ちていく」だったんですよ。

──ずいぶん違いますね。

小南さんが歌う「落ちていく」から抜け出せなくて。「落ちていく」よりも強い言葉で、このメロディを生かすフレーズはなんだろう……って考え抜いた結果こうなりました。

──小南さんのメロディも野間さんのアレンジも職人的な精密さで。終盤にキーがグッと上がりますけど、あまりにも滑らかな展開で初めは転調していることに気付きませんでした。ボーカリストとしても新しい扉が開いた曲なんじゃないでしょうか。

小南さんとお話をしていて思ったんですけど、私はすごく作家さんに育てられてますね。バンドをやってた頃はスリーコードでジャーン!みたいな曲しか歌ってなかったけど、ガルデモ(Girls Dead Monster。テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンド)に出会って麻枝准さんが書くトリッキーな曲に鍛えられて、「Letters to U」(2011年4月に発売されたミニアルバム。LiSA個人名義による初のオリジナル作品)ではwowakaさんとかハチさんとか、さらにトリッキーな曲を作る先輩たちに出会って。そこから先もいろんな作家さんに出会うことによって、歌のポテンシャルを引き上げてもらっているんです。小南さんもまさにそんな作家さんの1人ですね。

LiSA
「LiVE is Smile Always~メガスピーカー~」
2015年12月23日(水・祝)
千葉県 幕張メッセ国際展示場
OPEN 16:30 / START 17:30
※チケット完売(後方追加立見席発売中)
LiSA(リサ)

LiSA

6月24日、岐阜県生まれのボーカリスト。2010年春、テレビアニメ「Angel Beats!」の劇中バンド「Girls Dead Monster」の2代目ボーカル・ユイ役の歌い手に抜擢され、同年5月にGirls Dead Monster名義のシングル「Thousand Enemies」をリリース。2011年4月にLiSA名義のミニアルバム「Letters to U」でソロデビュー後はアニメ「Fate/Zero」のオープニングテーマ「oath sign」、「ソードアート・オンライン」のオープニングテーマ「crossing field」などスマッシュヒットを連発。2013年にはシングル「best day, best way」がノンタイアップながらオリコン週間シングルランキング6位を記録し、また10月に発表したアルバム「LANDSPACE」がオリコン週間アルバムランキング2位をマークし、アニソンシーン内外で高い人気を誇る存在となる。2014年末には「COUNTDOWN JAPAN 14/15」に、2015年夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」や「氣志團万博」にも出演するなどさらに活動の幅を広げている。同年12月には初の配信シングル「ID」をリリースし、千葉・幕張メッセ国際展示場にてワンマンライブ「LiVE is Smile Always~メガスピーカー~」を行う。