現在放送中のテレビアニメ「NieR:Automata(ニーア オートマータ)Ver1.1a」第2クールのオープニングテーマをLiSAが担当。「NieR」シリーズの音楽を数多く手がけてきた秋田ひろむ(amazarashi)との初コラボレーションによる楽曲「ブラックボックス」が完成した。amazarashi独自の内省的な表現で「NieR」の世界観を紡いだこの楽曲に、LiSAはどう向き合い、彼女ならではの表現に落とし込んだのか。
この「ブラックボックス」を表題曲とするLiSAのニューシングルには、PABLO a.k.a. WTF!?とともに作り上げた痛快なロックナンバー「MAKE A MiRACLE」と、キタニタツヤが書き下ろした荒削りなガレージロック「洗脳」がカップリング曲として収録されている。さまざまな側面が垣間見られるこのシングルについて、音楽ナタリーではLiSAにインタビュー。デビュー13周年を迎えたタイミングでの東京・日本武道館2DAYSを経て、6年ぶりのアジアツアー、さらには複数の夏フェス出演、9月から年末にかけてのホールツアーと精力的に駆け回るLiSAの現状を探った。
取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / YURIE PEPE
Stray Kidsとの共演、ホールツアー、武道館、アジアツアー……濃密すぎる近況報告
──LiSAさんへのインタビューは昨年6月の「REALiZE」リリース時以来で(参照:LiSA「REALiZE」インタビュー)、おおよそ1年おきに「最近どうですか」と近況報告をしてもらっているようなペースですが。
そうですね(笑)。
──ではこの1年どうだったかと振り返ってみると……Stray Kidsとのコラボがあり、ソニーデジタル一眼カメラ「α7C II」Web CMソング「HELLO WORLD」のリリースがあり、ホールツアー「LiVE is Smile Always~LANDER~」があり、日本武道館公演「LiVE is Smile Always~i SCREAM~」があり、「魔法科高校の劣等生」第3シーズンのオープニング主題歌「Shouted Serenade」のリリースがあり、今はアジアツアーの真っ最中と(取材は6月下旬に実施)。
文字にするとすごい量ですね。
──振り返っておきますと、Stray Kidsとのコラボは今までにない新鮮な活動だったのではないでしょうか(参照:Stray KidsとLiSAがコラボ、バンチャン「さらにもっと特別な楽曲になりました」)。
彼らは世界の最前線を走っていますけど、すごくピュアな音楽好きで。単独ライブも見せていただいたんですけど、ポテンシャルがすごいなと思いました。私が関わらせてもらった「Social Path (feat. LiSA)」も魂のこもった楽曲だったし、ミュージックビデオの制作やプロモーション活動なども、彼ら発信で楽しみながらやってるんだなと身近で感じました。
──新たな刺激や実りも多かった?
はい。特に、私はソロだからグループの中に入れてもらうというのはすごく新鮮でした。
──今年に入ってからの活動ですと、4月の日本武道館2DAYSはちょうどデビュー13周年のタイミングでしたよね。もはや武道館も慣れたものかもしれないですけど……。
いやいや、慣れないですよ。いつまで経っても。
──2014年1月の最初の武道館ワンマンを体調万全でない状態で迎えることになるというところからスタートしたわけですもんね。
そうなんです。きっとやり過ごそう、慣らしてしまおうと思えばできると思うんですけど、ちゃんと意味を持ってあの場には立ちたい。ライブは私にとって日常ではないんですよ。武道館は特別な“デート(LiVE)”なので、気持ちのうえでもいつも以上に意味を強く持って会場に向かっています。だから緊張するのかな。通算10回目の武道館、13周年当日の武道館、そして前回の2022年は声出しができなかったからひさびさに歓声が聞こえた武道館でもあって。いろんな意味で特別でした。
──アジアツアーはちょうど折り返しのタイミングですが、こちらはいかがでしょう。
アジアツアーは6年ぶりで……去年の「LANDER」ツアー(参照:「完走したぞ!」LiSAがホームでLiSAッ子と迎えた“最高の幕開け”に涙)のときも思ったんですけど、それまで会えなかったとか、声を出して盛り上がれなかったとか、長らく制限がある中でライブを続けていたこともあってか、その反動でみんなの威力がすごい(笑)。世界中で同じ経験を味わったあとのアジアツアーだから、ファンの方の熱量が本当にすごいです。
──さらに「DEAD POP FESTiVAL 2024」があり、夏にはフェスも控えていて、ちょっと詰め込みすぎじゃないですか?
詰め込みすぎですよね(笑)。でもやっぱりライブは好きだなあと実感するし、新作をリリースしてみんなに特別なものを渡せること、それが形に残ることも好きだなあと思っています。
「NieR」を通して実現したLiSA×秋田ひろむ(amazarashi)コラボ
──では本日の本題であるニューシングル「ブラックボックス」のお話を。表題曲はテレビアニメ「NieR:Automata Ver1.1a」のオープニングテーマで、「NieR」関連作品に長く音楽で関わっているamazarashiの秋田ひろむさんによる書き下ろしです。LiSAさんの楽曲にありそうでなかった、新鮮な印象を受けました。
そうですね。私もそう思っています。「鬼滅の刃」という作品を通して出会った梶浦由記さんのように、音楽家として尊敬していながらも交わらないであろうと思っていた方は今までにもたくさんいて。今回も「NieR」を通して秋田さんと出会わせてもらった。「NieR」という作品だったからこそamazarashiさんにお願いすることができたと思います。
──サビの最高音あたりは“THE LiSA”という印象の歌声で、そのあたりは秋田さんも意識して作られたのかなと思いますけど、全体を通しての印象はこれまでのLiSA作品になかった雰囲気で。
秋田さんが歌ったデモをいただいた段階では、めちゃめちゃamazarashiさんだったんですよ。これをどのようにして私が歌うべき歌にするか、いろいろと考えていたんですけど、仮歌を入れる日になんの気なしに歌ってみたら、思った以上に自分のものになっていて。秋田さんが、ちゃんと私が歌うことを想定して作ってくださった「NieR」の楽曲なんだなと歌ってみて初めて気が付きました。やっぱり秋田さんの作る世界観と彼の歌声……魂の叫びのような、内に秘めたものを出す声の表現がしっくりきていて、説得力がありすぎる。自分が歌う意味を考える、噛み砕く時間が必要だなと思っていたんですけど、そんなことをしなくても私のものだったというか。
──激情的な部分と落ち着いたトーン、その冷静と情熱のバランスみたいなものがこれまでのLiSAさんの楽曲にはない印象だったんですね。それはおそらくamazarashi、秋田ひろむという人が持っている独特なトーンだと思いますが。
秋田さんは、しっかりと怒りや悲しみを受け入れて、葛藤して、向き合っていく人だと思うんですけど、私はずっとエネルギーを発散することで表現してきた。だからこそ、尊敬するアーティストではあるけど、交わることはないと思っていたんです。でも、そんな秋田さんの楽曲を歌わせてもらったときに、きっと私がまだ発散することでしか表現できない若い頃だったら、きっとこれは表現できていなかっただろうなと思って(笑)。キャリアや経験を踏んだうえで、こういう表現の方法も、一番得意なことではないけれども、持ち合わせられるようになった。今このタイミングでこの曲に出会えたことは大きかったです。
──成長ともまた違う、自分の幅を感じられた?
はい。振り返ると梶浦さんとの出会いはやっぱり大きくて。きっと「誰が歌ってもとてもよい曲」を表現するうえでは、例えばAimerちゃんとか、声が情景を浮かばせるような人が歌うほうがよい曲になると思っていたんですよ。でも梶浦さんと出会ったことで、自分にしかできないことを“確認”できたので、「ブラックボックス」に対しても難しいものだと身構えることはなかったです。
──言葉運び、言葉選びも秋田さん特有のものなので、そこも新鮮だったのではないでしょうか。
そうですね。自分で作詞をするなら「殺してくれ」って書けないもん。
──なるほど(笑)。
ストレートな言葉でそれを書くことに、私は向き合えていないと思います。
──作詞家目線で「ブラックボックス」の歌詞をどう感じます?
ミュージックビデオ撮影のときにスタッフと話していたんですけど、この曲を飲み込みすぎて、この「殺してくれ」というフレーズだけで泣けるんです。苦しすぎて。すごくしっくりきてますね。この感情を表現するには「殺してくれ」以外当てはめられない。
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今年は「発明をしよう」がテーマ