バンドの集大成と進化を見せるアルバム構成
──今回のアルバム、僕は本当に引き込まれたんですけど、最初に魅力的に感じたのは曲順や構成の部分だったんです。1曲目の「Stellar」から6曲目の「GAS」に至るまでにシングル曲は入っておらず、Kroiの新たな音楽性を見せるような楽曲が並んでいる。そして7曲目の「Hyper」以降は「Sesami」や「Water Carrier」といった既発曲たちがどっしりと構えていて、この構成からバンドの2年間の集大成でありつつ、「誰も見たことがない新しいKroiを見せる」という気概を感じました。特に1曲目が「Stellar」という、ゆったりとした5分越えの楽曲で始まるところが素晴らしくて。
関 曲順に関しては自分が2、3パターン考えてみんなに提案しました。今はサブスクが主流になっていて、アルバムを頭から順番に聴くリスナーはあまりいないと思うんです。でも、そうやってリスナーが自分で曲をピックアップしてアルバムを聴くのなら、むしろアーティストは本当に聴いてほしい順番に特化するのもいいんじゃないかって。既発曲や有名どころの曲を頭のほうに置くのが常套手段なのかな?とは思ったけど、むしろ自分たちは「頭から、この順番で聴いてもらいたい」というものをちゃんと意思表示しておきたいなと思った。なので、あえて「Hyper」や「Sesame」「Water Carrier」といった強めのシングル曲を頭に置くのではなく、今の自分たちの姿をド頭からしっかりと見せていく曲順にしました。
──その中でも「Stellar」は1曲目にふさわしいと感じられたということですか?
関 そうですね。「Stellar」か「Psychokinesis」のどちらかが1曲目で、どちらかが2曲目だろうと考えていました。その中でバーチー(千葉)が1曲目は「Stellar」がいいと提案してくれて。
千葉 関さんから「1曲目に驚きのある曲を入れたい」という説明を受けていたんですよ。「Stellar」は今までのKroiっぽくないという驚きもあるし、イントロのバーン!となるところでアルバムに勢いが付くかなと思って提案しました。
──「Stellar」はエキゾチックなメロディも印象的です。そもそもどのようなイメージで作られた曲なんですか?
内田 サウンドはウェットでドリーミーなものをイメージしました。夢の中をただ1人で歩いているようなイメージですね。あと、深夜に5分くらいのテレビ番組やってるじゃないですか。「音のソノリティ」とか「世界の車窓から」みたいな。ああいう番組のバックで流れている曲を書きたかったんです。
──なるほど。
内田 ここ最近、肩に力が入った曲が続いていたので、1回脱力したかったというのもある気がしますね。俺は基本的にほとんど歌詞のない状態のデモを出すんですけど、この曲は珍しくデモの段階で歌詞もざっくり書けたんですよ。というか、こういう曲って歌詞が書けるんです。ほかで言うと「帰路」とか「熱海」とか。温かい曲というか、展開が目まぐるしくない曲はリリックが音に乗せやすい。
関 「風来」もそうだったよね?
内田 そうだね。リズムに対して言葉をバッチリはめなくてもいい曲は歌詞が書けるのかも。
──内田さんとしても、「Stellar」が1曲目に来るのはしっくりきますか?
内田 そうですね。面白いなと思います。俺たちはずっと「リスナーを驚かせたい」と言い続けているけど、その気持ちの表れがこの曲だと思う。新規の人に強い曲をいっぱい聴いてもらって、Kroiを好きになってもらうのも策略としてアリなんですけど、アニメタイアップのシングル3曲でガッツリ強い曲を打ち出していたし、「1回落ち着こうよ」という感じが「Stellar」に出ていると思います。
輝いている一瞬を見逃さないように
──メディア露出やタイアップが増えたこの数年を経てリリースされる「Unspoiled」は、Kroiに対しての世間からの期待値や注目度が過去最高に高い作品だと思うんです。そんな作品だからこそ、Kroiにとっての新しさが詰まった「Stellar」が1曲目にあることがとても重要だと感じます。
内田 録音芸術って、俺の中では写真のアルバムみたいなものなんです。だからこそ、そのときに一番聴かせたいものを1曲目にするのがいいんですよ。未来の人たちが聴いて「このアルバム、この曲が1曲目じゃなくてもよくない?」と思ったとしても、あとあと自分たち自身が「失敗したな」と思ったとしても、自分たちがやっていることは“今”を切り取る作業なんですよね。今の自分たちがやりたいようにやる、それを堂々と形にできたんじゃないかと思います。
──ちなみに「Stellar」は深夜の5分番組のイメージがあったとのことですが、本作は特に「ある深夜の出来事」というような決して長くはない時間、そこにある世界観を、アルバム全体を通して感じました。ある一晩の、ある一瞬が切り取られていると言いますか。
内田 おっしゃっていただいた“一瞬”というのは最近強く意識してますね。それこそ武道館というデカいステージに立ってる最中も「この瞬間は映像には残るけど、時間としては本当に一瞬なんだよな」と思ったし、ある程度の期間を設けて1枚のアルバムを作るという行為にしても、常にその瞬間を切り取っている感覚があるんです。そういうものを見逃さないようにしなきゃいけないんですよね。バンドやアーティストだって急にいなくなることがあるわけで、“その一瞬”をみんな心の中に留めておかないとねって。それは「Green Flash」で歌っていることでもあるんですけど。最近そういうことをすごく考えていました。
──「Green Flash」は明確にそういうことを歌いたいという気持ちがあったんですか?
内田 そうですね。「Green Flash」はデモの段階でタイトルが決まっていたんです。グリーンフラッシュって、気象条件がそろったときに太陽が沈むギリギリのところで一瞬、緑色に光る現象のことなんですけど、地域によっては「グリーンフラッシュを見ると幸せになる」という言い伝えもあるらしくて。で、俺はすべての瞬間がグリーンフラッシュなんじゃないかと思うんですよ。輝いている一瞬は見逃しちゃうとなんでもない、普通に太陽が沈むだけだけど、ちゃんと見ていたら、それはすべてグリーンフラッシュなんだっていう。俺はそれを見逃さないようにしたい。
長谷部悠生の野性味がにじむ「GAS」
──アルバムには長谷部さんが初めて作詞と歌唱を担当した「GAS」も収録されています。この曲はどのようにして生まれたのでしょうか?
長谷部 「SXSW」への出演が決まって、どうせLAに行くならMV撮影やレコーディングもしちゃおうという話になったんです。LAではインタールードやいつもやっているインストのジャムを録ろうと思って、けっこう前から2分ないくらいの短いロックな曲を準備していたんです。関さんから「Unspoiled」というアルバムタイトルが上がってきたときに、せっかくなら「GAS」を自分なりにタイトルの意味を汲み取った曲にしたいと思って歌詞を書くことにしました。で、最初は歌う気は全然なかったんですが、結局歌まで歌うことになって。
益田 プレッシャーだったでしょ?
長谷部 うん。やっぱり曲を作って、自分で歌うのは怖いですよ。自分は歌がうまいなんて思ったこともないですし。ただ、だからこそアルバムにこの曲が入ったことが素敵だと思うんです。よくないものって淘汰されがちだけど、「よくないものこそが、いいんだよ」というのはアルバムタイトルの意味でもあるし、そこに自分の思いを重ねられたらなと考えながら歌詞を書きました。
関 「GAS」は悪ふざけで作ってたところもあるんですよ。でも、いざアルバムができあがってみると、いいアクセントになってる。「GAS」があることで、いろんなタイプの曲が入ったアルバムのつながりがよくなっているというか。自分たちが大切にしている“違和感”を担ってくれていると思います。「GAS」は悠生と益田、俺の3人だけで録ったんですよ。悠生が初めて曲を作って、本来はロックドラマーという感じでもない益田がロックなドラムを叩いて、俺もKroiの曲では初めてピック弾きをしたりして。たった1分半くらいの楽曲ですけど、新しいことづくめなんですよね。今までのKroiにはない要素がギチギチに詰め込まれてると言いますか。
──益田さんは「GAS」のデモを聴いたときはいかがでした?
益田 そうっすね……俺は基本的に悠生のことバカにしていて。「こいつバカだなあ」と思いながら一緒に暮らしているんです。
内田 すごいこと言ってる(笑)。
益田 でも、悠生は自分が興味を持ったことや好きになったことに対してのアクションに恐れがないんです。「周りがどう言おうと関係ない」と突き進んでいく。自分をしっかり持ってるところが「GAS」には入っているなと思います。そこだけはちょっと尊敬していますね。
内田 気持ちわる(笑)。
関 家でやってくれよ(笑)。
益田 悠生の素直さが出てる曲ってことです。
──(笑)。千葉さんはいかがですか?
千葉 これは「いい / 悪い」の話ではないんですけど、怜央の歌詞って基本的に何を言っているのかわからないのに、しっかり読み解いていくと伝えたいことが1本の筋として見えてくる感覚があるんですよ。でも、「GAS」は本当に何を言っているのかわからなかった。
一同 (笑)。
千葉 「こいつは何を言っているんだ?」って。ミックス中も1時間くらい笑いましたもん(笑)。マジで意味がわかんない。「鳥が落ちて できた穴ボコ / みんなそれ見て 小石詰めた」って……意味わかります?
長谷部 意味なんて……ねえ?
──(笑)。
千葉 でも、こういう曲をアルバムに入れられるバンドっていうのはいいよね(笑)。
関 確かに。そこはKroiならではって感じがする(笑)。
長谷部 OKAMOTO'Sと「Dig the Deep」ツアーで対バンしたときに思ったんですけど、(オカモト)コウキさんは歌うじゃないですか。コウキさんはソロ活動をしているのもあるけど、ああいう姿を見るとバンドって形に縛られる必要もないのかなって思うんですよね(参照:ツアー「Dig the Deep」特集|Kroi×OKAMOTO'S)。
千葉 ソロデビューっすか?
内田 お、匂わせが(笑)。
長谷部 いやいやいや(笑)。
──(笑)。内田さんは「GAS」を聴いていかがでしたか?
内田 野性味がすごいなと思いました。まだそんなに曲を書いてない人間だからこそ出せるよさがあって。俺はその野生味が喉から手が出るほど欲しいけど、もう無理なんですよね。本当にいい意味で粗削りで、研磨されていない感じ。ガタガタした肌触りがすごくいい。「GAS」にはそれがあるし、そんな曲が少しずつキャリアを重ねてきた俺らの3枚目のアルバムに入るというのは素敵なことだと思います。
次のページ »
音と言葉で意味を成す