Kroi「telegraph」インタビュー|時代、環境、自分自身と向き合ったメジャー2ndアルバム

Kroiが7月27日にメジャー2ndアルバム「telegraph」をリリースした。

アルバムには国際ファッション専門職大学の2022年度CMソング「Pixie」や、WOWOWのアーバンスポーツ応援番組「HI-FIVE ~URBAN SPORTS for LIFE~」のテーマソング「Correction」などのタイアップ曲のほかに、どこかノスタルジックなサウンドに乗せて旅の思い出を歌ったサマーチューン「熱海」、各メンバーのプレイが光る軽やかなインストナンバー「banana」など全13トラックを収録。Blu-rayおよびDVDには5月に東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で開催された自身最大規模となるワンマンライブ「Kroi Live Tour 2022 "Survive"」の模様が収められている。

Zepp公演の成功や大型フェスへの出演、タイアップといったメジャーシーンでの活動がKroiの作品にどのように反映されているのか。音楽ナタリーではメンバー5人にインタビューを行い、新作「telegraph」の話題を中心に、バンドの現状について話を聞いた。

取材・文 / 黒田隆太朗撮影 / トヤマタクロウ

“自分と外”を意識したメジャー2ndアルバム

──「telegraph」の制作にはいつ頃から取りかかっていたんですか?

関将典(B) 作業としては「nerd」(2021年11月発売のEP)と地続きだったので、去年の10月頃から作り始めたという感じですね。

──作品としての全体像が見えてきたタイミングは?

長谷部悠生(G) レコーディングの後半だよね?

 うん。「telegraph」は最後の1曲ができたことで、ようやく全体像がバンと見えた感じがありました。

益田英知(Dr) でも、制作中盤に「Airport」や「Not Forever」を録ったところで、残りのピースを考えていった気がします。その時点ではどっしりと重めの楽曲が多かったので、「Drippin' Desert」や「banana」、「熱海」や「Go through」のようなアップテンポな曲が足りないよなと思いつつ、後半の制作を進めていきました。

──なるほど。結果として全体的にポップになった印象があります。内田さんは作曲者として何かイメージしていたことはありますか?

内田怜央(Vo) フックというか、サビに重点を置くことを意識しました。これまではAメロを作ることばかりが楽しかったんですけど(笑)、「telegraph」ではサビにフォーカスしてみようかなと。ある意味、一般的に重きを置くところをここで1回やってみようと思ったんです。

Kroi

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──それはKroiの活動規模が大きくなる中で、リスナーの人数も増えてきたことも影響していますか?

内田 単純にやってこなかったというのもありますし、そろそろちゃんとしなきゃなって思って。

──ちゃんと?

内田 タイアップで曲を書き下ろす機会があって、自分の弱みを見つけたんですよ。タイアップが絡んでくるとクリエイターとしての側面もちゃんと持っていなきゃいけないんですけど、自分にはそこの部分がまったくないと気付いたというか。

──なるほど。

内田 曲作りは誰かに教わったというわけではないですし、僕は自分のやりたいことを表現する人間だったので。例えば何かワードを与えられたとして、そこで自分の表現したいものとそのワードをどう重ね合わせていくか、ということを今まであまりやってこなかった。そういう意味で今作は、“自分と外”というものに視点を置いたアルバムになったと思います。外から与えられたものを踏まえて、クリエイター的な目線で作ったらどういう曲ができるのか。そういうことを考えるきっかけになりましたね。

行き過ぎることで全体のバランスを取る

──千葉さんは制作していく中でブチ上がった曲はありますか?

千葉大樹(Key) ブチ上がった曲……なんだろう(笑)。「Not Forever」と言いたいところですけど、リードの「Drippin' Desert」ですかね。この曲はデモから完成形を想像したときに、少し普遍的になりすぎてしまう内容かもと思ったんです。でも、オケを録って怜央のラップが入ったものを聴いたら普通にカッコよくて。Kroiっぽさもあるし、リードとしてもすごくいい曲だなって思いました。

──「Drippin' Desert」の演奏で意識したことはありますか?

長谷部 楽器だけのパートが少なくて、いわばラップが主役の曲だと思ったので、そこで気が利いたフレーズを弾くことを考えました。ギターに関しては、その主役を支えるようなイメージで弾きました。

 本当に歌の分量がえげつないんですよね。イントロ以外は、怜央が言葉を止めるタイミングがほとんどないような曲です。

Kroi

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──言葉があふれたのには、何か理由があったんですか?

内田 なんででしょうね? そんなに考えてもなかったですけど……全曲そろってから最後に歌詞を書き出した曲なので、一番葛藤が出ている曲になったのかなと思います。ほかのデモは作りたいように作っていったんですけど、最後のまとめとしてどんな曲を作ろうかと考えたときにめちゃめちゃ悩みました。で、1つの案としてドープに振り切ろうかなとも思ったんですけど、さっき話したサビに重点を置くほうに振り切っちゃおうかと。

──なるほど。

内田 でも、思えば「Balmy Life」のときもそうだったんですよね。リード曲を最後に書くことが多いんですけど、全然違うんですよ。手が動かなくなる(笑)。

──普段意識しないことも、考えてしまう?

内田 お客さんがどんなふうにこのバンドの表現を見るのか、「この1曲で変わってくるな」と思っちゃうんです。そう考え出すといろいろ悩んじゃうんですよ。その悩んだ感じが「Drippin' Desert」にはあるんじゃないかな。やっぱり作曲時に思っていることが、楽曲には如実に出るんですよね。焦っていたら焦っている感じの曲になるし、不安があると不安な感じの曲になるし、この曲にはそういう困惑している感じが出てる気がする。

──歌詞の最後で歌われる、「keepしてるだけno no / 変容変化だけno no」というフレーズには、どちらにも傾きすぎないKroiなりのバランス感覚が出ているように思います。

内田 困惑している中でもバランス感を保つことが大切なのかなって思います。どちらかの方向に行き過ぎるのではなく、曲の中の1つひとつの細かい部分で行き過ぎることで全体のバランスを取る。それがKroiなんですよね。そのバランス感覚を見直そうという意味もありますし、自分へのメッセージとしても、最後のリリックは重要なものになりました。

──「Pixie」は冒頭のトライバルな響きが強烈ですよね。

内田 「Pixie」は国際ファッション専門職大学のタイアップが決まって作った曲で、監督さんからいただいた企画書やプレゼンを聞いて作業しました。

──クライアントからはどんなオーダーがありました?

 テーマは「内なる闘志」で、表には出ていないんだけど、内側で沸々と燃えているようなイメージの曲です。頭のトライバルな部分もデモから入っていて、俺らも1発でこれだ!と思って制作に取りかかかりました。

内田 そういう形で曲を作るのは初めてでしたね。我々が持つごちゃ混ぜ感もしっかりと入れたうえで強い曲を目指したので、そうしたせめぎ合いが上手にできたかなと思います。

──楽器のフレーズではどんなことを意識しましたか?

長谷部 歌とラップが入れ替わりながらサビに向かっていく曲なので、そこでどう楽器でストーリーを付けられるかを考えました。あと、僕の中で流行っていたことで、同じ竿で1曲弾き切るというのは意識しましたね。「nerd」あたりから考えていたことなんですけど、そうすることでサウンドキャラクターを構築したかったんです。それを実際に試してみたのが「Pixie」でした。

Kroi

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内田 あとギターに関して言うと、デモで死んだサビメロがリードギターのメロで生きているのもありますね。

──というのは?

内田 もともとはサビ裏で流れているギターのメロディが、歌のメロディだったんです。でも、デモを出したところで今歌っているメロに書き換えたんですよね。

益田 今回はサビオーディションをした曲がいっぱいあるよね。

──それだけフックを付ける意識が強かったと。

内田 そうですね。で、それでも最初のメロにも思い入れがあったので、ギターで弾いてもらうことで裏に残りました。

2022年7月28日更新