ナタリー PowerPush - KREVA

トライ&エラーの10年間 集大成ベストアルバム「KX」

KICK THE CAN CREWの距離感

──ところで先日、今年の夏フェスにKICK THE CAN CREW名義で出演することがアナウンスされましたよね(参照:RIJF第1弾で11年ぶりKICK THE CAN CREWら103組 / MEET THE WORLD BEATにキック、福耳、KANA-BOON)。これはどういう経緯で?

いや、なんか呼ばれたんで(笑)。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」が15周年、「MEET THE WORLD BEAT」もFM802が25周年らしくて、そこに俺の10周年が重なったので、お祭りごとだし「じゃあやろうかな」っていう感じですね。

──じゃあそんなに深い意味もなく?

そうですね(笑)。

──でも反響はすごいでしょう?

はい、やっぱりこんだけソロでいろいろやっていても、結局みんなKICKの話題ばっかりだから。なんか俺の10年が無駄になったなっていう感じがちょっとしています(笑)。

──あはは(笑)。でも先ほど10年前はグループじゃなくソロで認められたかったという話がありましたが、今はそのあたりの思いも変化したんじゃないですか?

こないだUL(MCUとLITTLEによるプロジェクト)のアルバムを作っていて、3人でけっこう一緒にいたんですけど、雰囲気とか基本そんなに変わんないんですよね。やっぱ雄志くん(MCU)はヘンなこと言ってるなとか、LITTLEは歌詞がいいなあとか。そんな中でたぶん自分もソロである程度認めてもらえるようになったんで。また自信持っていい感じで3人並べるかなって気はしています。

──いい距離感ですね。

今となっては分けて考えなくてもいいのかなって。ULのトラックを作るときも、いい意味で実験しながらやれていたし。また3人で並んでやることで、自分のステージにもいいフィードバックがあればいいなと思っています。

──KICK THE CAN CREWはこの夏フェスのみの復活ですか?

今のところ……そうですね。まあ反応を見て調子よさそうだったら考えるかも(笑)。別に解散するとかでもないし。いつやってもいいし、ずっとやんなくてもいい。俺らの自由(笑)。と、俺は思っているんですけどね。

「トライ&エラー」を楽しむということ

──今回のベスト盤には「全速力 feat. 三浦大知」と「Revolution」という新曲2曲も収録されています。どちらも今のKREVAさんのスタンスを明確に表した楽曲ですよね。

そうです。特に「全速力」に関しては、とにかくトライ&エラーの“エラー”が大事っていうのが、この10年で感じてきたことなんでそれを言おうと思って。

──エラーが大事?

10年間のいろんな出来事の中でも、特に覚えているのは悔しい場面が多いんですよ。それを俺は失敗だと思っていたんだけど、トライ&エラーっていうのは「挑戦と失敗」じゃなくて「挑戦と経験」なんだっていう話をネットで見かけて。そういうふうに捉えるといろんなトライがもっとできるようになる。だから「エラー、エラー、エラー」だと思うと暗くなるけど「経験、経験、経験」って思ってれば楽しめるんですよ。そういう考え方を伝えたくて。

──KREVAさんはシリアスなテーマも、最終的にはちゃんと前向きなメッセージとしてアウトプットしていますよね。

歌詞は自分に言っているんです。普段からネガティブなほうに行きがちなんで、歌詞書くときには自分の中のポジティブなとこを出したいっていうのはありますね。ただ単なるポジティブバカだとは思われたくないんですけど(笑)。

──思わないですよ(笑)。KREVAさんはいつも用意周到に準備して、目標に向けて最短距離を進んできた印象があります。

いやいや(笑)。そんなことないですよ。もっと器用にやりたいなと思います。それに例えばこのベスト盤とかもスタッフみんなの意見を聞いて作っているし、全部を計算してやってるわけじゃないですから。もし自分だけで考えていたら、さすがに餃子の王将とコラボはしないっすね(笑)(参照:KREVA×餃子の王将が特別コラボ「王者セット」908円)。

──あはは(笑)。

サンリオピューロランドでキティちゃんと並んで出てくるとかはさすがに思いつかないし(笑)(参照:KREVA、キティとピューロランド新施設開幕テープカット)。

──でもそういう企画もKREVAさんがジャッジして「やる」って判断してるんですよね?

もちろん(笑)。「なんだそれ」って笑いながら、楽しんでやってますけどね。

──現在制作中の新作は、そういう楽しさを反映したものになりそうですか?

はい。それもあるし、次に行くにはもっとこう……自分のやってることはこういうことなんだよっていうのを伝えていかないとっていうのも思っています。例えばこのベスト盤の予約限定生産盤には「KREVAのライミング予備校」っていう映像が付いていますけど、韻ってこういうふうに踏んでるんだよとか、そういうのを教えることでより楽しくなったりすると思うんですよ。俺の好きなごはん屋さんでウンチクが多い店があるんですけど……それが嫌味じゃなくて純粋に楽しいんですよね。「海苔って60ランクあるの知ってます?」って言われて「えっ、知らない。どういうことですか?(笑)」みたいな。

──気になりますね(笑)。

そういう話を聞いてから「で、これはこういうランクの海苔で」って言われて食べるとやっぱ美味しいし、深く味わおうと思うじゃないですか。

──KREVAさんがライブ「意味深」でやってきたこともそれに近いですよね。

そうですね。そういうのを教えることがエンタテインメントになればいいなと思うんです。自分のこだわりをどんどん言ってくと、ファンもより楽しんでくれるかなって思うんで。伝える術は今いっぱいありますからね。

KREVA(クレバ)

1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。2011年にはヒップホップ音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。2012年9月には埼玉・さいたまスーパーアリーナで「908 FESTIVAL」と題した大型イベントを主催し大成功に収める。その確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、坂本美雨らメジャーなアーティストとのコラボも多数。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても内外から高い評価を受けている。2014年6月に10周年記念ベストアルバム「KX」をリリース。