ナタリー PowerPush - KREVA

トライ&エラーの10年間 集大成ベストアルバム「KX」

ヒップホップゲームに参加し続けたい

──KREVAさんのこの10年を振り返ったときに、特に後半は音楽的な更新がめざましかったように感じるんですが。

そうですね。

──サンプリング主体だったサウンドに「OASYS」(2010年9月リリース)以降シンセサイザーが大胆に導入されました。そのあたりでの意識の変化というのは?

いろんな機材を自分で扱うようになって、自分の作品にもっと深く関われるようになってきたんです。もちろんそれまでも全部自分で作っていて自分発信だったんですけど、ボーカルのコントロールみたいな細かいこともできるようになって、そうしたらより楽しくなってきたっていう。

──例えばサンプリングに限界を感じた部分もありました?

ああ、それはありました。クリアランスを取るのも面倒だし。

──サンプリングの権利処理の問題ですね。

売り上げの110%よこせみたいな話もありますからね。100%じゃなくて(笑)。それがビジネスになってきちゃって、サンプリングの時代が早々に終わりそうな感じだったんです。そこから脱却するためにシンセを導入したっていうのもあります。

──なるほど。

あとサンプリングで作っても、もう面白くないっていうのもあったんですよね。すぐできちゃうから(笑)。

──Pro Toolsを使い始めたのは「心臓」(2009年9月リリース)の頃ですか?

そうですね。その前から持っていたんだけど、自分でちゃんと使い出したのは「心臓」からです。やっぱり機材を揃え始めて楽しくなってきましたね。飲みに行って使っていたお金がバカらしく思えてきて(笑)。機材どんどん買うと、そのぶん曲になって返ってきますし。

──機材の変化によって自分の作風が変わったという意識もありますか?

あります。あと変わっていかなきゃいけないっていうのも思っていたし。90年代のヒップホップと今のヒップホップって、同じジャンルとは思えないぐらい違うんですよ。トラックの作風の変化もあって、どんなイケてるやつでもヒップホップゲームの流れは意識していると思います。

──どういうことですか?

例えばサッカーでもその時代ごとの戦術があるじゃないですか。ヒップホップでもそういうのはあって、例えば今このスタイルが流行っているって言われたら、それを突き詰めるのもアリだし、じゃあ俺はこっちでいくわっていうのもアリだし。どっちにしても「KREVAはずっと変わらずいつもあんな感じだよね」っていうふうにはなりたくなくて。常に時流をキャッチして、ちゃんとゲームに参加したい。その中で自分のスタイルを出していきたいんです。

BPMとコード感

──KREVAさんから見て、ヒップホップはこの10年でどう変わりました? KREVAさん自身がそれに対してどういうアプローチを取ってきたかっていうのを含めて聞きたいんですが。

一番大きいのは速さですね。特に最近顕著ですけど。

──BPMの変化ということ?

そう、昔はBPMでいうと90ぐらいの曲が多かったんですけど、今70とかが主流になってて。相当ゆっくりなんです。それはなぜかというと、EDMに代表されるように世の中の音楽のBPMがだいたい135とか140ぐらいになっているから。だからその半分。数え方によっては一緒に聞こえる速さで、ヒップホップは遅いほうをチョイスしているんですよ。

──なるほど。

それが一番大きい変化だと思うし、それは同時にチャンスだとも思っていて。フェスとか出ると、やっぱり四つ打ちのビートが強いんですけど、こっちが半分のBPMで倍に乗ってれば同じ速さになるわけで。あとコード感もだいぶなくなってきましたよね。

──というのは?

単音とか、ひどいときはカーンって鐘が鳴ってるだけみたいな、1つのフレーズをずっとリフレインした音が流行ってる。自分はそこに日本っぽいコード感、日本人が好きだろうなっていうコード感を入れるようにしています。

──シーンを見ていてほかに気付くことはありますか?

喜ぶべきはソロのラッパーがすごく増えていることですね。昔はやっぱりグループが主流だったけど、今のラッパーは1人で勝負してる。この時代だったら1人のほうがブレることなく強くやっていけると思うし、応援したいと思っています。

閉塞感とヘッドフォンミュージック

──ヒップホップシーン以外でも、今の世の中を見渡して思うところがあれば聞かせてほしいんですが。

うーん、なんか閉塞感がどんどん強くなっているのは感じているんですよね。音楽業界だけじゃなくて、世の中的に。だからこそ、そんなの関係なくハジけてるMIYAVIみたいなヤツを見るとすげえなと思うし(笑)。

──そんな中でKREVAさんはどういうアプローチをしていきますか?

今は逆にチャンスだと思っているんです。自分はもともとバーンと外にいくんじゃなくて、ヘッドフォンミュージック寄りの人間だから。1発目が「希望の炎」なわけだし。自分が好きだったヒップホップって、ヘッドフォンしてグーッと聴き込む感じのが多かったんですよね。ヒップホップを聴きながら街を歩くとなんか強くなれる気がしてた。それと近い感じで今の俺の音楽も楽しんでもらえたらいいのかなって。閉塞感の中で何かしらの気持ちを抱いてくれたらいいなと思っています。

──これからもそういうメッセージを伝えていく?

メッセージというよりはムードですよね。その曲をプレイすることで空気を動かして、方向性を提案するようなもの。大それたことを言うつもりはないんです。ただ昔に比べるとノリだけでは書けなくなってきたっていうのはある。やっぱり歌詞に意味を持たせたいっていうか、自分なりに筋の通ってるものを作りたいっていう気持ちが強くなってきていますね。

──確かに以前に比べて、KREVAさんの哲学だったり生き方の指針を示すようなリリックが増えてきたように感じます。

そうなんです。でももうそれもね、やっぱり自分の哲学だからそんなに変わんなくて。もう言いたいことがなくなってきちゃった(笑)。だから次はもうちょっと面白いことを言っていきたいなって思っています。聴いた人がニヤッとできたりクスッと笑えるようなもの。そういうのを出していきたいんですよね。

KREVA(クレバ)

1976年、東京都江戸川区育ち。BY PHAR THE DOPEST、KICK THE CAN CREWでの活動を経て2004年にソロデビュー。2006年2月リリースの2ndアルバム「愛・自分博」はヒップホップソロアーティストとしては初のオリコンアルバム週間ランキング初登場1位を記録。同アルバムのリリースツアー最終日では初の東京・日本武道館公演も開催した。2011年にはヒップホップ音楽劇「最高はひとつじゃない」の音楽監督も担当。2012年9月には埼玉・さいたまスーパーアリーナで「908 FESTIVAL」と題した大型イベントを主催し大成功に収める。その確かな実力でアンダーグラウンドシーンからのリスペクトを集める一方、久保田利伸、草野マサムネ、布袋寅泰、古内東子、三浦大知、坂本美雨らメジャーなアーティストとのコラボも多数。ラッパーとしてのみならずビートメーカー、リミキサー、プロデューサーとしても内外から高い評価を受けている。2014年6月に10周年記念ベストアルバム「KX」をリリース。