清春|カバーで浮き彫りになった音楽家としての矜持

清春がカバーアルバム「Covers」を9月4日にリリースした。

清春にとって初のカバー集となる今作には、彼が幼少期に触れていた小坂恭子「想い出まくら」、松山千春「恋」、中島みゆき「アザミ嬢のララバイ」といった昭和の歌謡曲から、DREAMS COME TRUE「やさしいキスをして」、いきものがかり「SAKURA」といった平成に発表されたJ-POPまで計11曲のカバーが収められる。この特集ではカバーの収録曲を切り口に清春の音楽遍歴をたどり、カバーをすることで浮き彫りになった彼の音楽に対するこだわり、カバーをすることの意味などを語ってもらった。

取材・文 / 小野島大

カバーの基準は覚えやすい曲

──前のインタビューを読み返したら、カバー集を出すというアイデアは「エレジー」(2017年12月発売のアルバム)の頃からあったんですね(参照:清春「エレジー」インタビュー)。

言ってました? そうなんですよ。もともとやりたい意思はありました。「エレジー」というライブ(2017年3月から開催されたライブイベント「MONTHLY PLUGLESS 2017 KIYOHARU LIVIN' IN Mt.RAINIER HALL『エレジー』」)ではずっと、1本につき1曲くらいカバーを披露している時期があって。ライブの反応がよくて、そこで感触のよかった曲が、今回半分くらいは入ってる。あとはスタッフから提案をもらって、自分も「これだったらいい」という曲も。

──清春さんは、昔から人のカバーをやることにあまり抵抗がないタイプですよね。

そうですね。よくやってます。

──トリビュートにもよく参加しているし。前にカバー曲を選ぶときの基準をお聞きしたら、「自分の好きなものというよりは、歌いやすい曲」とおっしゃっていました。

うんうん。歌いやすい気がするものね。「絶対ダメだろうな」という曲は選ばない。基本的には、今回のアルバムに入ってる曲も、今後歌いたいなと思う曲も、「この曲いいなあ、たぶん自分の歌い方にハマりやすいだろうな」と思うものをなんとなく察知してやる感じ。

──好きであることが前提だけど、その中でも歌いやすい曲を。

あと自分が覚えやすい曲。覚えるまでに時間がかかっちゃうと愛着が湧かないので。

──覚えにくいというのは、歌詞が?

メロとか、曲の構成とか。2コーラス目に行くとメロが変わったりする場合も最近の曲には多いじゃないですか。コードが変わったり譜割りが変わったり。そういうのじゃなく、覚えやすい曲。

──覚えやすいと感情移入しやすい?

気をつけて歌わなくていい、というか。「ここは2番ではこんなふうに変わっちゃうんだよね」とか意識しなくていい曲かな。

情念のある歌詞にグッとくる

──今回の選曲を見てまず思ったのが、女性歌手の曲が半分を占めていることでした。

そうですね。

──もう1つが、全部自作自演の人の曲なんですよね、これ。

あ……そうなんですか。

──UA「悲しみジョニー」や、STARDUST REVUE「木蘭の涙」に関しては作詞や作曲のどちらかが別の人だったりしますけど、いずれにせよ歌手自身が参加しているんです。

あれ? 本当だ。そっか。

──意識してなかったんですか?

うん。それは意識してなかったですね。

──そういう自己表現の意思がしっかりしてる曲を選んだのかな、と。女性歌手が半分っていうのはどうしてでしょう。

それもあんまり意識してないですね。この中で僕は「想い出まくら」(小坂恭子)が一番好きなんですけど、女性ががんばって男の人に付いていく、「捨てないで」みたいな、そういう情念のある歌詞がいいんですね、僕。そういうのがグッときちゃいます。

──最近はそういう歌詞は少ない気がします。もっと女性は毅然としているというか。

ないんですよ、そういう曲が。例えば松山千春さんの「恋」もそうなんですけど、昔は男の人が酔っ払ったりめちゃくちゃやったりして、それでも女の子は付いていく。「それでいいのよ」みたいな曲って、今ないですよね。

──「浪花恋しぐれ」的な。

「芸のためなら女房も泣かす」みたいな(笑)。今はもうないよね。ミュージシャンでもそんなの、もはやいないですよ。みんなちゃんとしてますよね。変わってきたなあと思います。でも1970年代、80年代の曲は、女の人が歌う“情念の曲”が圧倒的に多い。そういう曲が好きなんですよ。

──それと選曲の際立った特徴としては、ゴリゴリのロックはこの中に入っていないですよね。

確かにそうですね。あんまり最初からそういう曲を入れる気はなかったかな。それは「自分がソロだから」ということでしょうかね。

──バンドではないからロックは選ばなかったと。

はい。黒夢が復活したときに、SHADY DOLLSとか、jaco:necoとかTHE STREET SLIDERSとか、日本のロックのカバーアルバムを作りたいという話はちょっとしてたんですけど。でも今回はソロなんで。

幼少期の車での記憶

──それと関係あるのかわからないけど、オリジナル曲が発表されたときに、清春さんが何歳だったか調べてみたところ、「恋」が12歳のときなんですよ。あとは全部10歳以下か、20歳以上のときに出会った曲ばかり。要するに10代の頃に聴いてたであろう曲が全然選ばれてない。

あ、そうなんですか。なるほど。そこはたぶんロックにハマっていたんでしょうね。面白い。

──清春さんがロックにのめり込んだのはいくつのときなんですか?

中学、高校の頃だと思います。

──それまでは普通の歌謡曲も聴いてました?

聴いてました。というか、親父が好きでしたね。親父のフェイバリットアーティストが都はるみで、母が美空ひばり。車の中ではそういう曲が流れてました。海へ行くときは必ず都はるみ。あと親父が「ザ・ベストテン」をカセットで録ったようなやつを流してて。あとはラジオですね。僕らの時代、よく車の中でかかってたのは、中島みゆきさん。あと、ピンク・レディのケイ(増田恵子)さんがソロデビューして歌った「すずめ」っていう曲。この曲は作詞作曲が中島さんですよね。「すずめ」はすごく覚えてますね。車の中で聴かされてたなあ。

──今作の収録曲の中で一番古い曲は井上陽水さんの「傘がない」で、これは清春さんが4歳のときに発表されたものです。

これはたぶんリアルタイムで聴いた曲ではないですね。

──そのほか古い順で曲を挙げていくと、「想い出まくら」「アザミ嬢のララバイ」「恋」ですね。

その3曲はうっすら覚えてる感じです。でもそらんじて歌えるほどではない。現代になって振り返ってみて、YouTubeとかで見て「ああ、これ覚えてる!」という感じが強いかな。

──なんとなく刷り込まれてる感じなんですね。当時はテレビやカーステレオに合わせて歌っていたんですか?

うーん、歌って……はないと思うんですね。歌ってないと思う。カラオケもなかったですし。ひたすらカセットを聴く、聴かされてるという。でもテレビの歌番組はよく観てましたね。

──歌手の人は歌うのが好きで、子供の頃からよく歌ってたっていう人が多いですけど。

ないですね。あんまり歌に対しての執着もなかったです。今作の収録曲も、昔から僕が歌ってたってわけじゃない。子供のときに親の前で、それこそ筆箱をマイクにして歌ってたとか、そういうのもないです。