清春がニューアルバム「夜、カルメンの詩集」を2月28日にリリースする。
直感的に自身の歌がフラメンコやスパニッシュテイストのサウンドと合うと感じ、制作をスタートさせたという本作。今回、清春は沖仁のライブサポートを長く務めるギタリスト智詠を起用し、自身の持つロックサウンドと見事に融合させた。またコラージュアーティスト・河村康輔が手がけたカラフルなジャケットアートワークも話題を集めている。本作で彼が伝えたいこととは? 本人に話を聞いた。
取材・文 / 小野島大 撮影 / 宮脇進(PROGRESS-M)
自身の顔を配さないジャケット
──今作のアートワークは、アルバムのテーマでもある濃厚なエロスとタナトスを見事にビジュアル化しています。コラージュアーティストとして知られる河村康輔氏の作品というのも驚きです。
Borisのアルバムジャケットで彼のことを知ったんです。僕が崇拝するMORRIEさんのDEAD ENDのトリビュートアルバムに、Borisが参加してたんですね。それでMORRIEさんとBAKIさんが目黒の鹿鳴館で対バンしたライブを観に行ったら、BorisのメンバーがいてCDをいただいたんです。その「DEAR」というアルバムのアートワークが素晴らしかった。それで僕も何かやってもらいたいと思ったんです。最初はTシャツか何かのモチーフを描いてもらえたらと思い、撮影でお会いしたらすごく感じのいい方で、ぜひお願いしますと。そうこうしているうちに、アートワーク全部を担当していただくことになりました。
──清春さんのようなアーティストが、自分の顔をジャケットの表面に出さないのって、けっこう大きな決断だと思うんです。黒夢のセルフカバーアルバム「MEDLEY」(2009年リリース)にもイメージが近いですが、あれは清春さんの顔を真ん中に配してましたからね。
うん、そうですね。でも第1案は、僕の写真が真ん中にいて、その周りを薔薇の花とかでコラージュしたものだったんです。でもほかのモチーフがたくさんある中で、僕だけ妙に目立ってて(笑)、気を遣って出してくれたのかなと思い「もっとちっちゃくていいですよ」と言ったんです。で、どんどん小さくしてもらって、そのうちに「俺いらないかも?」と思って(笑)。結局なくなっちゃいました。
──清春さんの顔をジャケットに出すよりも、アルバムのコンセプトや雰囲気を的確にビジュアル化するのが大事だったということですね。そこにこのアルバムに賭ける清春さんの本気度を感じました。
しかもジャケット用に撮影までしたのに、それを表に使いませんでしたからね。アーティスト写真とか撮るときは、一応こういうジャンルなんでキレイにして撮るんですけど、ジャケットにバーンと顔を出すとかそういうのはもういいのかなと思ってたりもしてたんで、まあちょうどよかったのかなという感じです。
──なるほど。
なので基本的には彼に自由にやってもらいました。途中段階のアルバムの曲を聴いてもらって。最初はモノクロっぽいイメージで、1カ所だけ薔薇の花だけに赤が塗ってあったんですけど「これ全部に色を塗ったらどうなるかな」とかいろいろ話して、最終的にこういう形になりましたね。
──河村さんはどちらかと言うとアンダーグラウンドなイメージもあるアーティストなので、清春さんとの結び付きは意外でした。
僕は全然彼のことを知らなくて、adidasとの仕事もやってるのも知らなくて。デザイナーというよりは完全にアーティストなので、ジャンル的に僕なんかでいいのかなと思いましたけど「ぜひ!」と言ってもらえて。「友達に自慢できます」みたいな(笑)。
スパニッシュなサウンドと自分の歌が合うと思った
──ジャケットの本気度も含め、「夜、カルメンの詩集」は近年の清春さんの作品としては一番密度の濃いアルバムだと思います。
そうかもしれないですね。
──このアルバムの構想がスタートしたのはいつ頃だったんでしょうか。
2016年3月にオリジナルアルバム「SOLOIST」を出したんですけど、そのあとに「夜、カルメンの詩集」ってツアーをやってるんです(2016年11~12月)。そのとき僕はなぜだかスパニッシュ、フラメンコみたいな音楽に惹かれてたんですね。ギターやメロディの感じとかコード感が自分の歌と合うんじゃないかとぼんやり考えて、YouTubeを検索したんです。そうしたらエスタス・トーネっていうロシアのギタリストの動画に出会ったんですよ。めちゃくちゃギターがうまくてカッコいい。スパニッシュだけどエフェクターをガンガンかませて現代ふうな解釈でやっている。ストリートでプレイしてる動画とか、夜の公園でダンサーとコラボしてる動画とか。「この雰囲気と俺の歌って合うな」って勝手に思ったんです。その雰囲気で新曲を作りたいと思った。それで初めて1曲作ったのが「赤の永遠」という曲だったんです。
──ああ、なるほど。
フラメンコをネットで検索すると「情熱と哀愁の血が流れてる音楽」と出てくる。それでピンときた部分もあって、それをお題に、今作に入ってる「夜を、想う」「赤の永遠」「アモーレ」「シャレード」あたりがパパッとできて、その延長線上でこのアルバムを作っていった感じですね。本気でスパニッシュとの融合を図ったと言うよりも、1つのテーマとしてスパニッシュを取り上げて、僕らのような外部の人間が勝手にイメージするスパニッシュとかフラメンコの、赤いドレスを着た人が薔薇くわえて踊って、手拍子(パルマ)を打って、タップを踏んでる、その主人公の名はカルメン……みたいな世界観がぼんやりできていったんです。で、どうせなら本格的なフラメンコギターを弾く方をお呼びしようと思い、智詠くんというギタリストに弾いてもらいました。三代堅さんにアレンジも思いきりフラメンコふうにしてもらって。ライブでも半分ぐらいは既に演奏してるんですけど、ロックサウンドの中でフラメンコっぽい雰囲気を模索しながら、レコーディングしたという感じです。
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自身の音楽とスパニッシュの融合
- 清春「夜、カルメンの詩集」
- 2018年2月28日発売 / TRIAD
-
初回限定盤 [2CD+DVD]
5400円 / COZP-1411~3 -
通常盤 [CD]
3240円 / COCP-40251 -
- DISC 1 “夜、カルメンの詩集” 収録曲
-
- 悲歌
- 赤の永遠
- 夜を、想う(Album ver.)
- アモーレ
- シャレード(Album ver.)
- 眠れる天使
- TWILIGHT
- 三日月
- 美学
- 貴方になって
- DISC 2 “夜、カルメンの詩集”
poetry reading(初回限定盤のみ) 収録曲 -
- 悲歌
- 赤の永遠
- 夜を、想う
- アモーレ
- シャレード
- 眠れる天使
- TWILIGHT
- 三日月
- 美学
- 貴方になって
- 罪滅ぼし野ばら
- DISC 3 “夜、カルメンの詩集”
video(初回限定盤のみ) 収録内容 -
- 赤の永遠
- 眠れる天使
- 夜を、想う
- 清春(キヨハル)
- 1968年生まれ、岐阜県出身。1991年にロックバンド・黒夢を結成し、ハードかつグラマラスなサウンドで人気を集める。1994年にメジャーデビューを果たし、1999年に活動停止。その後自身のレーベルを立ち上げ新バンド・sadsを率いて活動を行う。2003年からはソロ活動を開始。2010年には黒夢とsadsを再開させ、ソロと並行して精力的な活動を展開している。2015年2月から11月にかけては、全34日間68公演にわたるソロライブ「MONTHLY PLUGLESS LIMITED 2015 MARDI GRAS KIYOHARU Livin'in Mt.RAINIER HALL」を行った。2016年3月に約3年ぶりのソロアルバム「SOLOIST」をリリース。2017年TRIADに移籍し、12月に“リズムレスアルバム”「エレジー」、翌2018年2月にオリジナルアルバム「夜、カルメンの詩集」を発表する。