自身の音楽とスパニッシュの融合
──自分の感情表現みたいなものを受け止めるのに、フラメンコなりスパニッシュの形式が合うと感じたわけですね。
合うと思ったんですよね、直感的に。「UNDER THE SUN」(2012年リリース)、「SOLOIST」とアルバムを作ってきて、ソロの音楽性として「これが幹となってるんだろうな」というものがある程度確立したと思っていて。ギターがいてドラムがいてベースがいて、たまにシーケンスが入って、曲はちょっとマイナーなコードから始まり、転調してサビに持っていく、みたいなパターンがなんとなくできた気がする。それはあまり崩さないで、違う楽器と融合して新しい雰囲気、響きで聴かせたいというのがあったんですね。全部捨てるんじゃなくて、自分の歌の感じは変えないし曲も変えないけど、周りに鳴っている音とかで違うように響かせたいと。
──ご自分の音楽の完成形が「SOLOIST」でできたので、それを前に進ませるために新しい要素を加えてみたかった。
そういう感じ。たぶん歌も難しいんだろうなと思ったんですよ。フラメンコのギターで歌うのが。そこは三代さんと話しながら、こっち側に寄せるのか、向こう側にもうちょっと寄ってみるか、時と場合によって変えてみて。でも歌入れは難しかったです。ピッチとか途中でよくわからなくなって。
──固有の歴史と伝統がある音楽だから、深入りしようと思うといくらでも深掘りできる。でもどこかで引き返さないとロックとして成り立たなくなってしまうかもしれない。
うん、そうですね。向こうのスパニッシュに乗ってくるメロディの感じって全然違うんですよ。でも僕のメロディを変えたくなかった。自分のメロディの感じをそのまま足し算して、いい折り合いを見つけていくという作業だった。
──我々日本人が付け焼き刃でやってもそう簡単に真髄が把握できるものでもなく。
そう。僕らが想像するスパニッシュとかフラメンコって、彼らからすればごく一部でしかない。だからそこは変えないでやろうと三代さんと話したんです。「あんまりそっちに行っちゃうと、清春さんがやる意味がなくなっちゃうんで」と。なので曲を智詠くんに聴かせて理解してもらって、ポップスとかロックと融合させてもらうという形でやりました。こっちからはなるべく向こうに寄せないように。それにしてもレコーディングでの鮮やかさはすごかったです。歌ってても楽しかったですね。
違う音楽様式だからこそ思い切れる
──前作の「エレジー」を聴いたときも思ったんですが、清春さん歌の持ってるエモーションの深さと言うか“情の深さ”みたいなものを受け止めきれるのは、「エレジー」だったらシャンソンとか、今作で言えばフラメンコとかスパニッシュのような音楽ではないかと感じたんです。通常のロックの形式では、もはや清春さんの情の深さを表すことができないんじゃないかと。
ああ、それ、いいですね。確かに長年がんばってるので、歌っていてちょっとはみ出す感じはあるんです。それがいいか悪いかわからないけど、今ロックの世界で活躍している若い世代の人たちって、うまくオケに収まってるなと思うんですよ。うまくオケと調和している。でも僕の場合……特にsadsとか黒夢で歌うときに、はみ出してる感じがすごくするんです。ミックスのときに「もうちょっと歌を目立たなくしてほしい」みたいなことも言ったりするんです。レベル下げても聞こえてきちゃう。ボーカルがはみ出していて、歌と演奏がうまく調和してないように聞こえる。「受け止めきれない」っていうのはそういうことかもしれない。違う音楽の形式とのほうが歌がもっと思い切れるというのがあって。スパニッシュって隙間の多い音楽なんだけど、思い切り歌える。
──今まで使ってなかった筋肉を使っているみたいなことなんですかね。sadsや黒夢だとご自分のパターンみたいなものがよくも悪くもできてるから。
そうなんですよね。
──「こうすればこうなる」という様式ができている。もちろんそれはそれでカッコいいんだけど、ボーカリストとしての清春さん自身は少し物足りない思いもあったのでは。
そうかもです。自分でもわかりますからね。曲を作ってる段階で、「こうなっちゃうんだろうな」って完成形を想像できる。今ってボーカルに特異性を求められない時代でしょ? なんかこう……普通のほうがいいみたいな。歌のフックとか個性とかあまり求められてない気がする。僕らの世代って、僕らが好きだった人がそうだったように、一発でこの人の声ってわからないとデビューできないんじゃないかって思ってた世代だから。
──そうだったんですね。
うん。けど今ってジャンルに忠実と言うか、一定のジャンルにすっぽり収まってしまおうとする。歌の個性どうこうよりも「このジャンルのバンドだね」って言われることを目指すことが先行してる気がする。我々のときは「ボーカルは黒夢しかない個性があるからいいね」と言われたかったし、僕もそう思ってた。僕の周りで生き残った人たちはたいてい色が濃いですよね、必然的に。この世代のこのジャンルは特に自分の個性を強調するような歌い方になっちゃうし、僕もそうしてきたから、急に素直(な歌い方)になれない。
──そういえばSUGIZOさんがアルバム「ONENESS M」のライナーで「(清春の)声の良さがヴィジュアル系のスタンダードを創ってしまった」と書かれてましたね。清春さんのボーカルがこのジャンルのオリジネイターであると。
そうかなあ……(笑)。わかんないですけど、その中の1人ではあるとは思うんです。LUNA SEAもL'Arc-en-Cielもそうかもしれないけど、普通の歌に慣れてる若い子が聴くとクセが強すぎる。洋楽の型に忠実なバンドというのはあるけど、僕らみたいなジャンルってほかにないって言うか「編み出しちゃった」感はあるんですよ、この世代の何人かで。これがたまに邪魔するときがあるんですよね。音楽で変わったことをやろうとしても、ボーカルの個性が邪魔をする。でも長年その歌い方をしてるから急には変われない。そういう共通の意識はこの世代のボーカリストにあると思います。
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ビジュアルでなく中身で勝負したい
- 清春「夜、カルメンの詩集」
- 2018年2月28日発売 / TRIAD
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初回限定盤 [2CD+DVD]
5400円 / COZP-1411~3 -
通常盤 [CD]
3240円 / COCP-40251 -
- DISC 1 “夜、カルメンの詩集” 収録曲
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- 悲歌
- 赤の永遠
- 夜を、想う(Album ver.)
- アモーレ
- シャレード(Album ver.)
- 眠れる天使
- TWILIGHT
- 三日月
- 美学
- 貴方になって
- DISC 2 “夜、カルメンの詩集”
poetry reading(初回限定盤のみ) 収録曲 -
- 悲歌
- 赤の永遠
- 夜を、想う
- アモーレ
- シャレード
- 眠れる天使
- TWILIGHT
- 三日月
- 美学
- 貴方になって
- 罪滅ぼし野ばら
- DISC 3 “夜、カルメンの詩集”
video(初回限定盤のみ) 収録内容 -
- 赤の永遠
- 眠れる天使
- 夜を、想う
- 清春(キヨハル)
- 1968年生まれ、岐阜県出身。1991年にロックバンド・黒夢を結成し、ハードかつグラマラスなサウンドで人気を集める。1994年にメジャーデビューを果たし、1999年に活動停止。その後自身のレーベルを立ち上げ新バンド・sadsを率いて活動を行う。2003年からはソロ活動を開始。2010年には黒夢とsadsを再開させ、ソロと並行して精力的な活動を展開している。2015年2月から11月にかけては、全34日間68公演にわたるソロライブ「MONTHLY PLUGLESS LIMITED 2015 MARDI GRAS KIYOHARU Livin'in Mt.RAINIER HALL」を行った。2016年3月に約3年ぶりのソロアルバム「SOLOIST」をリリース。2017年TRIADに移籍し、12月に“リズムレスアルバム”「エレジー」、翌2018年2月にオリジナルアルバム「夜、カルメンの詩集」を発表する。