ナタリー PowerPush - キリンジ

堀込兄弟が紡ぐ魔法の音楽 ソングライティングの裏側

1996年の結成から現在まで、独自のセンスで多くの音楽ファンを虜にしてきた、堀込泰行&高樹の兄弟バンド・キリンジ。ひとクセもふたクセもある楽曲展開、不条理とも言える歌詞を極上のポップスに昇華させる彼らの手腕は、同業者たちからも高い評価を集め、これまで数多くのアーティストが2人にラブコールを寄せてきた。

10月19日発売の新作「~Connoisseur Series~KIRINJI『SONGBOOK』」は、2人がこれまでに手がけてきた提供曲のオリジナル音源と、キリンジ流のサウンドで生まれ変わったセルフカバーをまとめた2枚組の企画アルバムだ。今回ナタリーでは、この2つの表現方法で浮き彫りになった“キリンジらしさ”の秘密を探るべく、2人にインタビューを申し込んだ。

取材・文 / 臼杵成晃 インタビュー撮影 / 佐藤類

堀込兄弟への楽曲依頼

──今作はどのようなきっかけで制作に至ったのでしょうか。

堀込高樹(G, Vo) 今まで提供曲をまとめた作品というのは出したことがなかったし、結構数が貯まってきたので、ある程度いいものを選べば充実した内容になるんじゃないかなと。セルフカバーは2002年に出した「OMNIBUS」以来ですけど、あのときは洋楽のカバーと提供曲のカバーだったんですね。今回は提供曲に的を絞って。

堀込泰行(Vo, G) 最初はBillboard Live TOKYOでライブをやる話が決まって。だったらセルフカバー中心のライブをやって、それをもとにアルバムを作ろうかという流れになったんです。

──そもそも楽曲依頼があるときは、どのようなかたちでオファーされるのでしょうか。それぞれにオファーがくるのか、それともキリンジとしてお願いされるのか。

泰行 どちらもあります。漠然とした、「どちらかで」みたいなニュアンスの「キリンジさんで」というオファーもあるし(笑)。

高樹 大概まあ「どっちにお願いします」みたいな感じで分かれてますけど、例えば鈴木亜美さんの場合なんかは、キリンジとして制作を依頼されたものですね。

──オファーされる方の多くは、「ここで一皮むけたい」というタイミングでお2人に依頼されているように思えます。もう一段深みに達したい、という願いが込められているような。

泰行 どうですかね。そんなところまでは請け負えないですよ(笑)。

高樹 全然ないと思いますよ(笑)。そうだとうれしいですけどね。

なかなか解決しない曲展開

──オファーされる方は、やっぱりアーティストであれスタッフであれ、お2人の独特な作風に惹かれてお願いすると思うんですよ。具体的に「キリンジのこういう曲のテイストで」みたいなかたちで依頼されることもあるのでしょうか。

インタビュー風景

高樹 そういうことも多いですね。一時期は「エイリアンズ」みたいな曲を頼まれることが結構あったでしょ?

泰行 うんうん、あったね。

──「エイリアンズ的なテイストで」というのは、きっと他の作家さんに「バラードタッチで」とお願いするのとは大きく異なると思うんですよ。きっと皆さん「キリンジらしさ」を求めてのことでしょうけど……この「キリンジらしさ」って具体的にどういうものなんだろう、と改めて考えてみたら、うまい言葉が見つからなくて。お2人自身は「キリンジらしさ」とはどういうものだと思いますか?

泰行 難しいですね。なんとなくある気はするんですけど……音楽的な話になっちゃうと、おしゃれな曲を作ろうとすると、とりあえずメジャー7thというコードを鳴らす人が多いと思うんですけど、それはしないですね、2人とも。

──キリンジの楽曲はメロディとコードの関係が複雑だったりするのが特徴ですが、具体的に「キリンジ的な曲の展開」を表現するとどうなりますか?

高樹 解決しないっていうことだと思うんですね。たとえばハ長調、Cコードだとしたら、メロディの尻尾がドだと「終わったな」と感じる。でもキリンジの場合は最後のコードがCだとしても、メロディがミやソで終わることが多いんですよね。その「解決しない感じ」の印象が残るんだと思います。着地する安定感がないという人もいれば、そのふんわりした感じが心地いいっていう人もいて。多分世の中のすごく売れてる音楽というのは、着地! バシッ! みたいな感じなんですよ。そういったものを拒否しているわけではないけど、キリンジの場合はなかなか解決しない展開が多いですね。

キリンジとコード

──作風は違えど、なぜお2人がともに「解決しない」音楽を作るようになったのか、非常に興味があります。

泰行 歌謡曲的にばっちり着地するものでもカッコいいものはたくさんあるけど、そうじゃないものもいっぱいあるとは思ってて、昔からそういう音楽に対して敏感だったのかもしれないですね、2人とも。

高樹 どメジャーな曲でもTHE BEATLESの「She Loves You」なんておかしいですよね。「ヤ~ヤ~ヤ~♪ヤ~」じゃなくて「ヤ~」ですから。あの曲も全体的に解決してないんですよ。だけどなぜかキャッチーに響くし、だからTHE BEATLESの曲って独特なのかもしれない。かと言ってフワフワしてるだけだと引っかかりがないから、メロディとして強い部分はちゃんと押さえないと。そこは2人とも気にして作ってると思いますね。

泰行 ヒット曲の中にもそういうものが実はいっぱいあって、そこに注意して音楽を作りたかったんでしょうね。

──「キリンジ的なコード進行」と言えるものはありますか?

高樹 癖はあると思うんですよ。「またこれやっちゃった」みたいな。そうすると「あーもうやだ。今回の曲はあの進行絶対使わない」みたいな決めごとを用意して作るときもあります(笑)。でも「みんなが好きなコード」というのはあって、例えば「双子座グラフィティ」のような下降していく展開。Amの曲だったら、AmからGmに落ちて、C7に行くっていうのが好きなんですよ、シティポップス好きは。メロディも印象的になるし、僕らの曲にでも結構入ってますけど、そればっかり使うと、むしろ印象が強いゆえに「またこの感じだ」って思われかねないですから。そこは気を使ってるところですね。

セルフカバー&提供曲集「~Connoisseur Series~ SONGBOOK」 / 2011年10月19日発売 / 2625円(税込) / 日本コロムビア / COCP-36926~7

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DISC1 COVER DISC
  1. jelly fish(オリジナル:My Little Lover)
  2. ロマンチック(オリジナル:土岐麻子)
  3. ハルニレ(オリジナル:Keyco)
  4. 髪をほどいて(オリジナル:bird)
  5. 若葉の頃や(オリジナル:畠山美由紀)
  6. わたしの青い空(オリジナル:藤井隆)
  7. お針子の唄(オリジナル:南波志帆)
  8. それもきっとしあわせ(オリジナル:鈴木亜美 joins キリンジ)
DISC 2 FORMAL DISC
  1. わたしの青い空 / 藤井隆
  2. 髪をほどいて / bird
  3. ロマンチック / 土岐麻子
  4. ハルニレ / Keyco
  5. 若葉の頃や / 畠山美由紀
  6. somewhere in tokyo / 古内東子
  7. 愛が私に教えてくれたこと / 松たか子
  8. それもきっとしあわせ / 鈴木亜美 joins キリンジ
  9. プールの青は嘘の青 / 南波志帆
  10. 春の嵐 / ミズノマリ
KIRINJI LIVE2011
  • 2011年10月19日(水) 東京都 SHIBUYA-AX
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:DISK GARAGE 03-5436-9600
  • 2011年10月20日(木) 東京都 SHIBUYA-AX
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:DISK GARAGE 03-5436-9600
  • 2011年10月25日(火) 大阪府 umeda AKASO
    OPEN 18:00 / START 19:00
    問い合わせ:キョードーインフォメーション 06-7732-8888

キリンジ

キリンジ

1996年10月に堀込泰行(Vo, G)、堀込高樹(G, Vo)の兄弟2人で結成。1997年5月に1stシングル「キリンジ」、同年11月に2ndシングル「冬のオルカ」がリリースされると、複雑ながらポップなサウンドと独自の詞世界で大きな注目を集めた。1998年にはシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー。2005年には弟の泰行が「馬の骨」としてソロデビューを果たし、同年11月には兄の高樹もソロアルバム「Home Ground」を発表した。それぞれ他のアーティストへの楽曲提供も多く手がけており、作詞家・作曲家としても支持を集める。2011年10月19日には、過去の提供曲とセルフカバー音源を収めた2枚組アルバム「~Connoisseur Series~KIRINJI『SONGBOOK』」をリリース。