ナタリー PowerPush - キリンジ

約2年半ぶりのオリジナルアルバム完成 “脱シティポップス”の境地を語る

昨年2009年は弟・堀込泰行がソロプロジェクト“馬の骨”で2ndアルバム「River」を発売、兄・堀込高樹が“ザ・グラノーラ・ボーイズ”の一員としてフェスに参加するなど、それぞれソロ活動を積極的に行ってきたキリンジ。

音楽的な振り幅を広げ、さらに自由な楽曲作りに取り組むようになった2人が、待望のニューアルバム「BUOYANCY(ボイエンシー)」をついに完成させた。前作「7-seven-」のリリース以来、約2年半ぶりとなるこのアルバムでは、躍動感あふれる先行シングル曲「夏の光」やニューウェイブなダンスナンバーなどで新境地を開拓している。

今回ナタリーでは、アルバム制作の背景や最近のプライベートライフを2人に語ってもらった。

取材・文/遠藤敏文 撮影/中西求

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今回はアルバムらしいアルバムになった

──まずは「BUOYANCY(ボイエンシー)」というアルバムタイトルを決めた経緯を教えてください。

インタビュー写真

高樹 タイトルは、結構ギリギリになって決まったんです。先行配信のシングルが「セレーネのセレナーデ」と「小さなおとなたち」なんですけど、「セレーネ」は月のことをイメージして歌ってて、「おとなたち」のほうは観覧車の歌で、どちらも上がったり下がったり、何かそういう浮遊するもののイメージがあって。泰行の曲の中にも深海魚や水をモチーフにした曲があったり、僕も温泉の歌を書いてますけど、そういう水とか浮遊する感じみたいなことがタームとして頻繁に出てきたんですね。サウンド的にも浮遊感を感じさせる要素が多かったので、何かそういったものをまとめた言葉はないかなと思って探して決めました。

──すんなり決まりましたか?

高樹 最初は「浮遊」だとちょっと主体性に欠けるような気がして、何かもっと別な言葉はないかなと思って。「浮力」であれば、ちょっと意志が感じられるんですけど、かと言って「浮力」じゃ、あんまりなぁ……と思って、試しに英語にしてみるかっていう感じで(笑)。そしたら「BUOY(ブイ)」って言葉があって、BUOYから派生した言葉で「BUOYANCYだ!」と思って。ちょっと覚えにくいですけど、発音してみるとなんとなく楽しいし、アルファベットの字面もデザイン的にいいかと思ってこれに決めました。

──前作「7-seven-」は、先行配信シングルを中心にまとめられたアルバムでした。今回のアルバム作りで前回ともっとも異なる部分はどんなところでしたか?

泰行 前回はシングルが半分以上を占めるアルバムの中にほかの曲を足したっていう感じだったので、あとから足す曲もシングルっぽい雰囲気のものが多かったかなと。今回は、シングルに向いているかどうかということを意識しないで、自由に曲を持ち寄ることができたのが一番違うところですかね。結果として、すごくアルバムらしいアルバムになったと思ってます。

曲作りの段階で、もう骨から変えるって感じ

──制作時に「今回はこれをやってみよう」という指針のようなものはありましたか?

高樹 キリンジは、これまでシティポップスの文脈で語られることが割と多くて、自分たちもそういう音楽が好きでやってきたんですけど、やっぱりずっとやってるとそういうことに飽き足らなくなって。ちょっとそういう音楽から離れたいっていうわけではないけど、何か自分たちが今までやったことのないようなことをやりたいなと。例えば、(6thアルバムの)「DODECAGON」だったら、まずサウンドを変えるとこから入ったんですけど、今回は曲作りの段階で、もう骨から変えるって感じ。「イントロがあってAメロがあってBメロがあってサビがあって、また大サビが来て……」みたいなセオリーはとりあえず捨てて、イントロがずっとあってメロディがちょっとあってエンディングが来るような、より自由なスタイルの曲作りを目指していたかもしれないですね。そうすると、おのずとサウンドのほうにも影響が出てきて、「普通だったらこうするよね」っていうことをやらなくなるんです。例えば、16ビートのソウルっぽい曲を書いたら、「ホーンが入ったらカッコイイよね」とかってなってしまいがちなんですけど、そうやって作っていくと結局詰将棋みたいになっちゃうから(笑)。

──あはははは(笑)。

高樹 事前に先手があって、「このときはこうだ」って。……詰将棋ってそういうもんですよね? よく知らないけど(笑)。

泰行 俺も将棋やんないから(笑)。

高樹 つまり、セオリーがある前提で作っても面白くないなと思って。もうセオリーなしで、面白いと思ったものをやろうっていうことですね。結果として音作りも自由にできた感じはしましたね。

──泰行さんのほうはいかがでしたか?

泰行 僕は割と普通にやってたっていうか、ニュートラルな気分でできたような気はしてますけど、今までにあった音楽に僕の曲を近づけていくっていう方法は取らないようにはしてましたね。例えば、“誰それの何という曲”みたいなことをイメージしてそこに近づけてくっていうよりは、まずは曲とかフレーズを丁寧に紡いでいって、あとはそれをアレンジしてちゃんと人を楽しませるものにしたいなって。自分たちにとってもファンの方にとっても新鮮に聴いてもらえるようなものにするにはどうしたらいいかなってことを考えて音作りしました。

生音が主体で、かつ自分たちにとって新鮮なサウンド

インタビュー写真

──今回シティポップスの要素を控えめにしたことによって、今までのファンが離れてしまうというような不安はなかったですか?

高樹 それはあんまりないですね。

泰行 まあ、「DODECAGON」の時点で相当かき混ぜたっていうかシャッフルしましたから。1回ガラガラと崩して新しくきれいにグラウンドを整えた部分はあるので、そういう不安はなかったです。

高樹 あのときは、「変えよう」って気持ちが強かったわけですよ。でも今回は、もっと自然にこうなったっていう感じ。「DODECAGON」は、打ち込みを多くするとか、そういうわかりやすい変化がありましたけど、このアルバムに関しては割と生音が主体で、かつ自分たちにとって新鮮なサウンドができたっていう。生のサウンドでやるとどうしても70年代後半的な感じの音作りに収束してしまいがちなんです。でも、そうならなかったということで、見えにくい部分かもしれないけど自分たちにとっては大きな変化があったアルバムだと思いますね。

ニューアルバム「BUOYANCY」 / 2010年9月1日発売 / 3150円(税込) / コロムビアミュージック エンタテインメント / COCP-35901

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CD収録曲
  1. 夏の光
  2. 温泉街のエトランジェ
  3. ホライゾン! ホライゾン!
  4. Rain
  5. セレーネのセレナーデ
  6. 台風一過
  7. 空飛ぶ深海魚
  8. 都市鉱山
  9. Round and Round
  10. 秘密
  11. アンモナイトの歌
  12. 小さなおとなたち

キリンジ

キリンジ

1996年10月に結成された、高樹と泰行の堀込兄弟による2人組ポップスグループ。1998年にシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー。シニカルで内省的な歌詞と、クオリティの高いシティポップサウンドが音楽ファンの間で話題となる。他アーティストへの楽曲提供やリミックスアルバムの発売など意欲的な活動を行ない、2005年からはそれぞれソロ活動も開始。2006年には初のセルフプロデュースによるアルバム「DODECAGON」をリリース。エレクトロポップの要素を加えた新しいサウンドでファンを驚かせた。2010年9月には、8枚目のオリジナルアルバムとなる「BUOYANCY(ボイエンシー)」を発表。躍動感あふれるトライバルなリズムのシングル曲「夏の光」やニューウェイブなダンスナンバーなどで表現の幅をさらに広げた。