ナタリー PowerPush - キリンジ

約2年半ぶりのオリジナルアルバム完成 “脱シティポップス”の境地を語る

「夏の光」はパッと聴いてグッとくる歌を心がけた

──先行シングルの「夏の光」は、ストレートな歌詞や畳みかけるようなテンションの高いアレンジにキリンジの新境地を感じました。

インタビュー写真

高樹 やっぱりストレートな曲にはストレートな歌詞がきたほうがいいと思ったんですね。こういう曲調で凝った比喩とか、ちょっと変わった視点とか持ち込んでもあんまりグッと来ないような気がして。それで、やっぱりラジオとか海の家とかで流れたらいいなっていうのもあったんです(笑)。そういうときも「今なんて言ったの?」っていうのは、ちょっと嫌だなぁと思って。だから聞き慣れない言葉も使ってはいるんだけど、パッと聴いてグッとくる歌っていうことは心がけましたね。

──あのキラキラしたサウンドはどのようにして作り上げたんですか?

高樹 もともとはアコースティックギターを主体にして作った曲なんですけど、だんだんアレンジを詰めていくにしたがってハイになってリズムが結構強調されてきたんですね。それで、リズムばっかり目立たないようにかわいい感じのグロッケンとか口笛とか、そういう要素を足していったんです。今までだったら「ここは音が多いから引こう」とか考えていたんですけど、この曲は初めからテンションが高いままで引っ張って後半ですっとしぼむっていうほうが魅力的になる気がして。だから、おそらくシンセパッドがずっと鳴っている状態がキラキラして伝わっているのかなって。

アルバムとしてちゃんと考えられたものは緩急があって面白い

──この曲をアルバムの1曲目に持ってきた意図は?

泰行 シングル曲だから、後ろに持ってくる発想はあんまりなかったんですけど、1曲1曲の流れの関連性みたいなものを大事にしたときに、やっぱり1曲目なのかなぁと。今あんまり通して聴く人はいないのかもしれないけれども、やっぱりアルバムってものが好きだし、最初から最後まで通して聴くことをいつも考えるんですよね。アルバムって、曲順によって地味な曲がすごく良く響くみたいなことがあって、そういうところで音楽の面白味みたいなものが広がるっていうのはあると思うんです。

高樹 うん。アルバムって、いろんな曲が集まってるからトータルで聴いたときの全体の印象を楽しむっていう楽しみ方ができるのもいいと思うんですよね。もちろん3分なり5分なりで楽しめるものはそれはそれでいいんだけど、アルバムとしてちゃんと考えられたものは緩急があって面白い。あとはやっぱり作り手側からしたらシングルってやっぱりシングルらしさみたいなものが求められるから、結局それ以外のものを排除してしまうことになってしまって。そういうのは聴く人にとっても作り手にとっても音楽の面白味を半減させるものなんで、残念なことなんじゃないかなと思いますけどね。

特別企画:キリンジ夏のお絵かき大会

──さて、今回のPower Pushでは、お2人に夏休みの絵日記風にアルバム全体のイメージを描いてもらえたらと。色だけのイメージだったら色だけを塗ったもので構わないので。

高樹 うーわ、ハードル高いわー。

泰行 イメージですかー。なんだろうねー。

インタビュー写真

高樹 あんま悩まないで描こうよ。

泰行 そうだね。

(お絵かき中)

──お2人は日常生活で絵を描くことってありますか?

高樹 僕は子供がいるんで、「あれ描いて、これ描いて」って割と描かされるんですよ。

──お子さんはそんなに描かないんですか?

高樹 いや、描きますよ。まあ、人に描いてもらうのも楽しいみたいで。

泰行 僕はほとんど描かないけど、スタジオとかでは落書きを。スタジオのロゴが入ったメモ用紙に炎を描いたり(笑)。

キリンジ夏のお絵かき大公開

──2人とも使う色が似てますね(笑)。

イラストイラスト

高樹 ただのクジラなんですけど、浮き上がってくると。「台風一過」っていう曲作るときに、ずっとクジラのイメージがあって。全然クジラの曲でもなんでもないんですけど。

──泰行さんのほうは?

泰行 へへへ(笑)。なんか意味わかんないです。いや、何を描こうとしたわけでもないんですけど。

──抽象画?

泰行 抽象画でもないですけど(笑)。なんだろうなぁ……すごく陽気なアルバムでもないと思うんですよね。オレンジ色とか黄色とか赤みたいな、外にパーンと出てくようなエネルギーのアルバムっていうよりは、ちょっと内包してる、みたいな。内側にすごくみずみずしくて面白いものがあるというか、案外さわやかだったり、鮮やかだったりするっていう。人の温もりのようなものもあるけども、それはほっこりするとかそういうのとは違って、もうちょっと緑とか黄緑みたいな芽が出てくるようなエネルギー感ですね。

──たしかに絵にしづらい(笑)。

泰行 「ちょっと内側を覗いてみるとなんか結構面白いものが入ってますよ」みたいな。

──では、用紙にお名前を書いてもらってもいいですか?

高樹 字を入れると途端にチャリティ臭さが増すのはどういうことなんだ(笑)。

ニューアルバム「BUOYANCY」 / 2010年9月1日発売 / 3150円(税込) / コロムビアミュージック エンタテインメント / COCP-35901

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CD収録曲
  1. 夏の光
  2. 温泉街のエトランジェ
  3. ホライゾン! ホライゾン!
  4. Rain
  5. セレーネのセレナーデ
  6. 台風一過
  7. 空飛ぶ深海魚
  8. 都市鉱山
  9. Round and Round
  10. 秘密
  11. アンモナイトの歌
  12. 小さなおとなたち

キリンジ

キリンジ

1996年10月に結成された、高樹と泰行の堀込兄弟による2人組ポップスグループ。1998年にシングル「双子座グラフィティ」でメジャーデビュー。シニカルで内省的な歌詞と、クオリティの高いシティポップサウンドが音楽ファンの間で話題となる。他アーティストへの楽曲提供やリミックスアルバムの発売など意欲的な活動を行ない、2005年からはそれぞれソロ活動も開始。2006年には初のセルフプロデュースによるアルバム「DODECAGON」をリリース。エレクトロポップの要素を加えた新しいサウンドでファンを驚かせた。2010年9月には、8枚目のオリジナルアルバムとなる「BUOYANCY(ボイエンシー)」を発表。躍動感あふれるトライバルなリズムのシングル曲「夏の光」やニューウェイブなダンスナンバーなどで表現の幅をさらに広げた。