ナタリー PowerPush - きのこ帝国

日常と喪失描く「ロンググッドバイ」

鋭利な言葉は出し切った

佐藤(Vo, G)

──そして「FLOWER GIRL」はボーカルの声質がかわいい感じだなと。

え? かわいいですか? 意外!

──声が丸いし、ソフトだし。

そうですか? 自分では弾き語りに近いと思います。バンドがないときの歌。この曲は音数を極限まで減らしたんで、特別声を張らなくても聞こえてくるというか、声の成分の大半が殺されずに済んだので、ほかの曲とは印象が違うかもしれないですね。

──ドラムなんて2拍だけですもんね。

ははは(笑)。ドラムと2人でスタジオに入ってアレンジしました。Aメロの静かなところは正直「歌以外何もいらないなあ」ってメンバーからも意見があって、そのぶん「リズムは研ぎ澄まさないとね」って話してたんです。歌とギターだけで進行していって、そこにすごくシンプルなドラムが入ってくるのが個人的に好きだから。

──それでここまで削ぎ落とした?

スネアの反復も「じゃあそれを繰り返しで!」って。

──(笑)。やっぱり佐藤さんはスパルタですね。ところで弾き語りといえば、先日ひさしぶりにクガツハズカム(佐藤による弾き語りソロ)を観たんですが、バンドとのバランスはどうですか?

今はクガツハズカムというものに対して、もっとやり方があるなあと思ってて。きのこ帝国の派生でやってるみたいな感じじゃなく、もっと面白いことがやれると思うし、そこで「いい」と言われる部分をバンドに還元していけたら、バンドももっとよくなると思ってるんです。

──クガツハズカムではドキッとするようなシビアな歌も歌っていましたが、きのこ帝国の今作では鋭利な言葉は表に出ていませんね。

今回のミニアルバムはかなりフラットな精神状態で作ったので、鋭利な言葉は今現在ないんだと思います。これまでに全部出したんだと思います。

──それは今の生活がフラットだということ?

はい。言葉にも音にもかなり自分の生活が表れてますね。

音楽をもっと楽しめると思う

──前回の「eureka」のインタビュー(参照:きのこ帝国「eureka」インタビュー)で「健康になっていくことで創作意欲が枯渇していくかもしれない」と話してましたよね。

はい(笑)。「枯渇するかも」っていう悩みは地味にあったんですけど、でもここ数カ月は違うモードが開けたというか。もっといろんな景色があるなって思えるようになりました。

──そんなことは悩みじゃなくなった?

そうですね。あんまり1つのシーンとか物事に執着していると大事な景色を見逃すかもしれないし。なんかもっと音楽自体を「楽しめるな」と思ったんですね。前はなんかこう(刺す仕草)。

──刺しましたね、今(笑)。

(笑)。一撃必殺じゃないといけないみたいに思ってたんですよ。音楽というものは絶対的だったり破壊的だったりするもので、そういうものこそ特にライブでは正しいみたいな感じで。でもそれって自分がやりたい音楽に対して1つの側面しか見てなかったのかな?と思うと、すごくつまらないものの見方をしてたなと。なのでそれ以外の手法を味わってみたい。アッパーっていうのとも違うんですけど、もっと楽しめると思ってます。

──このアルバムを作ったことで、健康と創作意欲は両立することが証明されましたね(笑)。

そうですね。この前、快速東京のボーカルがTwitterに「不健康なロックはダサい」「健康第一」みたいに書いててハッとしましたね。

きのこ帝国 - 海と花束 (MV)

「ロンググッドバイ」 / [CD] 2013年12月4日発売 / 1470円 / DAIZAWA RECORDS / UK. PROJECT / UKDZ-0150
「ロンググッドバイ」
収録曲
  1. ロンググッドバイ
  2. 海と花束
  3. パラノイドパレード
  4. FLOWER GIRL
  5. MAKE L
きのこ帝国(きのこていこく)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」、同年12月に5曲入りCD「ロンググッドバイ」を発表。なお佐藤は「クガツハズカム」名義で弾き語りによるライブも行っている。