ナタリー PowerPush - きのこ帝国

日常と喪失描く「ロンググッドバイ」

1stフルアルバム「eureka(ユーリカ)」で存在感を刻みつけたきのこ帝国が、9カ月という短いスパンで新作「ロンググッドバイ」をリリースする。5曲入りのこの作品は、透明感や緊張感はそのままに、バンドが新しいフェーズで心地よく音楽を鳴らしていることを実感できる内容だ。青春の刹那的な思いや出来事とその喪失を日常の言葉で描いたこの作品についてボーカル&ギターの佐藤に話を聞いた。

取材・文 / 石角友香 インタビュー撮影 / 上山陽介

 
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「そればっかりじゃないんだけどな」

──前作「eureka」リリース後、バンドを取り巻く状況は変わりましたか?

佐藤(Vo, G)

変わりましたね。「eureka」への反応がよくて、ライブに来るお客さんもぐっと増えまして。あと、より人が多く来るようなイベントにちらほら出るようになってきたし、バンドも演奏面で安定してきたというか、ダメなライブが減りましたね。

──新しいお客さんから意外な反応はありましたか?

意外な反応は……、パッと思い浮かばないですね(笑)。ちゃんといろんな人が聴いてくれてよかったなという充足感のほうが強くて。あ、でも「春と修羅」がピックアップされることが多くて、あの歌詞のことはインタビューでは絶対聞かれました。

──冒頭から「あいつをどうやって殺してやろうか」って、インパクトの強い歌詞ですからね。そのことばかり聞かれることに対しては?

「そればっかりじゃないんだけどな」っていうのがちょっとずつ積み重なっていって。でもそのことが、自分たちが持っているけど今まで多くは見せていない側面を人に提示していくのも大事なのかもなあと思うきっかけにもなりましたね。やっぱり憎しみとか怒りだけのバンドだと思われたくないっていうのは強く感じたし、それで最近ちょっとずつモードも変わってきたというか。

──人が多く来るイベントって、つまりフェスですよね。そういう場所に出て感じたことはありますか?

うちは四つ打ちとかをやるバンドではないので、なんとなく居心地の悪さを感じてたりするんですけど、でも自分たちを呼んでくれてる意味を考えると自分たちの音楽を一番いい形で鳴らすのが、そのフェスにとってもいいことだと思うので。逆に盛り上がれて踊れる音楽のほうに寄せてしまったら自分らを呼んでくれた意味はないと思うし。

──なるほど。

なので、逆に自分らが自分らでいることをもっと大事にしないとなって。それまで無意識だった部分が表面化したというのは出てみて感じましたね。

日記のような感覚で

──今回の「ロンググッドバイ」は5曲入りということもあって多彩というよりは……。

はい、1つのコンセプトで作ったのでイメージは統一されてるんじゃないですかね。

──BPMが遅い曲が多いですが、これは意図してのこと?

そういう意図は全然ないです。「eureka」には「国道スロープ」っていう速い曲も入ってるんですけど、自分ら的にはそれがかなり異色で。それ以外はBPM100前後の曲ばっかなので。でも今回は「軽やかなのを作りたい」と思っていたんでテンポは重要だなと。3曲目(「パラノイドパレード」)は前後20ぐらいの範囲で何回も遅くしたり速くしたりとアレンジを繰り返して。テンポはすごい悩みました。

──テンポが、曲が表現しようとすることを左右すると思ったんですか?

そうですね。押し付けがましくないものでありたいと思ってて。すーっと入ってくるようなテンポや音選びにしたかったんですね。自分が聴いてて自然だなっていうところに落ち着けたくて、そこに持っていくために全部いろいろ試しました。

──そもそもコンセプトはどんなものだったんですか?

メンバーは今25、6歳なんですけど、自分だけじゃなく今年はわりと“失う”みたいなことが多かった年で。人生を進んでいく中で変わっていくことが多かったんですね、周りの友達だったり、恋人だったりとの環境がどんどん変わっていって。でも悲観的な感情ばかりじゃなくて、むしろ「日常が普通に流れていくような」っていうか。

──そうした経験を受けて、書きたいことが具体的になっていったんですね。

“喪失と日常”って不思議な関係性だなと思って、それを日記のような感覚でひとつ年内に残しておくことが大事な気がしたんです。だからバンドの次のためのステップっていうふうには考えず、今しか残せないものだから録っておこうかというモチベーションで挑んだというか。

──今年のきのこ帝国の記録として?

そうですね。それまで自分たちの中で「『eureka』が大成功!」と思っていたんで、逆に「次の作品どうしよう?」ってプレッシャーがあってずっと悩んで、曲もできなくなってたんですけど、1回力を抜いてニュートラルな感覚で、日記じゃないけど、こういうCD作ろうよってなってからは和気あいあいとやれたなあと思います。

──そう思えるのって4人の人間としての成長ですよね。

そうだと思います! 精神的に成長したなあと思って。例えば知り合いのバンドが解散しちゃったりとかそういう出来事があると、もちろん悲しんだりはしたんですけど、そこに固執して悲観的にならずに自分たちがやることをちゃんと前向いてやろうぜっていうモードにけっこうすぐなれたんで、そこはちょっと強くなってきてるのかなと感じます。

「ロンググッドバイ」 / [CD] 2013年12月4日発売 / 1470円 / DAIZAWA RECORDS / UK. PROJECT / UKDZ-0150
「ロンググッドバイ」
収録曲
  1. ロンググッドバイ
  2. 海と花束
  3. パラノイドパレード
  4. FLOWER GIRL
  5. MAKE L
きのこ帝国(きのこていこく)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」、同年12月に5曲入りCD「ロンググッドバイ」を発表。なお佐藤は「クガツハズカム」名義で弾き語りによるライブも行っている。