ナタリー PowerPush - きのこ帝国

日常と喪失描く「ロンググッドバイ」

会えなくても元気でいてくれればいい

──1曲目の「ロンググッドバイ」はまさにそんな内容の歌詞ですね。

はい。そのまんまな感じなんですけど。

──遠くに行っちゃった人とも、お互いに気持ちがあればいつか会えるんじゃないかと思ったりしますか?

それもあるし、会えなくても元気でやってくれればいいかなみたいな。「幸せになってね」じゃないけど、遠くから見てるような感じですね。

──それを素直に歌にできるようになったんですね。

佐藤(Vo, G)

そうですね。たぶん10代や20歳ぐらいの頃だったら無理だったと思います。失ったことを認めたくないというか。でもずいぶん時間が経ったし、今いる場所もずいぶん違うところへ来てしまったなというのもあって。しかも不満はないというか。

──その頃っていうのは佐藤さんにとってどんな時期だったんですか?

人生で一番大事だったといまだに思ってる時期ですね。一言では言いづらいんですけど、大切な人と出会って、宝物のように思って、失うまでの間が素晴らしすぎたから。それ以降はオマケの人生みたいに過ごしてた。

──歌詞にもありますが、その人との思い出の中に音楽もあるし、いろんな宝物が含まれていますよね。

うん。友達とかもそうですね。ただ、そこがピークで続きみたいな人生を生きるのは逆にラクでしたけどね。一生宝物を見つけられないまま終わる人もいるかもしれないと考えた場合、自分はなんて幸福なんだろうって思ってました。

──なるほど。そうして失っていくけれど、それでも日常は続いている。

そうですね。残酷ですけど。

日常の中の刹那的な風景が曲になる

──このアルバムのサウンドはどんなところから出てきたものなんですか?

最近聴いてたものや作りたいと思ってたものが結果的に曲になってるんですけど、こういう大きなノリのあるものにしたかったというのは終わってみて客観的に思ったというか。あと、昔よりメロディアスなものをどんどん好むようになってきているというのは大きいかもしれないです。

──メロディアスなものが心地よくなってきたということですか?

佐藤(Vo, G)

そうですね。自分たちの曲にはものすごくメロディアス、みたいな曲はいまだにないと思ってて。グッドメロディを作るのは難易度が高いけど、そのぶん人に与える感動も大きいと思うので、いいメロディを作りたいっていう欲求はリリースを重ねるごとに感じてますね。

──今回はまだ達成できていない?

以前に比べると開けてるかな……。でもポップさがある音楽の一歩目な感じはしますね。

──テンポで悩んだと言っていた「パラノイドパレード」からは、佐藤さんが当初から好きだというフィッシュマンズの匂いを感じました。

あはは、そうですか?(笑) でもフィッシュマンズが好きな人には言われます。たぶんコード進行が「ナイトクルージング」と一緒なせいもありつつ、多少意識した面もありますね。自分のデモの段階ではかなりテンポが遅くて、もっとサイケな感じだったんですけど、それをバンドっぽくしたくて。あと「フィッシュマンズっぽいね」ってギリギリで言われないようにしようと思って、それでテンポも何度も変えて真ん中ぐらいに落ち着きました。

──この曲に出てくる女の人のイメージはどこから?

彼女は実在するんですよ。友達が酔っ払って道路に寝転んでタクシーにひかれそうになってて、その様子を翌日書いたんです。実際にはこんなにドラマチックじゃなかったですけど(笑)、でもそういう光景を普通に曲にするのもいいなって思って。特別なことだけじゃなくて、飲みに行ったら友達が酔っぱらってたっていう、そういうことも懐かしい出来事になっていく。そこに刹那的なものを感じたから最終的に曲になったんだと思います。

「ロンググッドバイ」 / [CD] 2013年12月4日発売 / 1470円 / DAIZAWA RECORDS / UK. PROJECT / UKDZ-0150
「ロンググッドバイ」
収録曲
  1. ロンググッドバイ
  2. 海と花束
  3. パラノイドパレード
  4. FLOWER GIRL
  5. MAKE L
きのこ帝国(きのこていこく)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」、同年12月に5曲入りCD「ロンググッドバイ」を発表。なお佐藤は「クガツハズカム」名義で弾き語りによるライブも行っている。