ナタリー PowerPush - きのこ帝国

爆音の中で光る歌 佐藤が語るアルバム「eureka」

ポストロックやシューゲイザーの要素を含んだダイナミックなバンドアンサンブルと、ストイックで透明感がありつつもエモーショナルなボーカル。そして思春期の怒りや失望をリアルタイムではなく、当時を振り返る形で描き出し、それをニュートラルに認める歌詞。

若いリスナーはもとより、元祖シューゲイザーを含む90年代洋楽育ち世代にも噂が拡大。2013年のロックシーンきっての注目株であるきのこ帝国が待望の1stフルアルバム「eureka」をリリースした。ナタリー初登場の今回は、ボーカル&ギターかつ全曲の作詞作曲を手がける佐藤に、自身の音楽的なルーツや新作についてじっくり話を聞いた。

取材・文 / 石角友香 インタビュー撮影 / 上山陽介

音楽の入り口はR&Bへの憧れから

──まず佐藤さんの最初の自覚的な音楽体験はなんだったんでしょうか。

佐藤(Vo, G)

兄と姉がいるんですけど、小学校4、5年のときに兄の影響で宇多田ヒカルさんや平井堅さんを聴いて真似して歌うようになったのが、歌い始めのきっかけになったのかなと思います。特に宇多田さんは衝撃的だったというか。「Automatic」が出た頃で、聴いたことがない感じだったんで、面白いなと思って。周りではモーニング娘。とかSPEEDが流行ってたんですけど、共感できない部分があったんで。

──そこから広がっていった?

そうですね。R&Bやソウルとか。中学時代はアリシア・キーズの「The Diary of Alicia Keys」っていうアルバムがけっこうどこ行っても流れてて。楽器を弾きながら歌うソウルシンガーに憧れてたんですけど、自分が小柄なのもあって(笑)、声量の壁にぶつかったというか、思うように歌えないんじゃないか?と思って。フェイクとかはある程度真似できても根本の声量みたいなのは鍛錬が必要なのかなと思って挫折しました、ソウルは(笑)。

──じゃあ最初は「歌いたい」っていうところから?

そうですね。喉が震える感じが好きで。あんまり自分が思ってることとかを人にうまく言えないタイプだったんで歌ってるときが一番フラットな感じがして。それで中学校ぐらいから徐々に曲作りに興味が湧いて、みたいな感じですね。

──ロックバンド系の音楽に興味を持ったきっかけはなんですか?

うちの姉はTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTとかバンドものも聴いてたんですけど、R&Bとかと比べたらうるさい音楽だと思ってて。でもあるとき、高校の友達に借りて聴いたBUMP OF CHICKENがよくて、さかのぼってアルバム全部聴いて。そこからだんだんNUMBER GIRLにいったり、インスト系にも一時期ハマって、みたいな感じで高校・大学はバンドばかり聴いてました。

──BUMP OF CHICKENは何がよかったですか?

15、16歳のときは歌詞に共感して。あとは藤原(基央)さんの声ですかね。今でもすごいなと思うのは「天体観測」で。音楽をやってると聴き方変わるじゃないですか? それでもやっぱりすごい曲だなと思います。

──NUMBER GIRLはどんなところに惹かれたんですか?

バンドの佇まいがカッコいいのと、田渕(ひさ子)さんの存在もでかかったですし、そういうので憧れがあって。メンバーもすごい好きでいまだに聴きますね。

──田渕さんからはギタリストとしての影響が大きい?

あんなふうに弾くのカッコいいと思うんですけど、うちのギター(あーちゃん)がすごい田渕さんキッズというか、足元(エフェクター類)も揃えて真似して過ごしてきた子だったんで、私は憧れはあるけど「違うポジションの人だ」と思ってて。だからむしろあーちゃんには田渕さんを超えるようなカッコいいギタリストになってもらいたいなっていう思いがありつつ、自分は作曲と歌でがんばろうと。

バンドをやるつもりはなかった

──メンバーとはどんな経緯で出会ったんでしょうか。

大学に入って、バンドやろうとはあまり考えてなくて、1人で録音とかいろいろやってて。音楽サークルには籍だけ置いて行かなくてというのが続いてて。そんなときに「サークルに入らないけどバンドやりたい子がいて、曲作ったり歌ったりする子を探してるから一度会ってくれる?」って友達に言われて会ったのがきっかけで。誘ってもらってなかったらたぶん今もやってないと思うんですけど。

──最初から出会えたんですね。

でも最初、集まったときに私が怖いっていうか、ストイックそうに見えたみたいで、「バンドが難しい方向に行くんじゃないか?」みたいな恐れを抱いてたらしいんですよ(笑)。

──それは佐藤さんがしゃべらなさそうだからとか?

別に普通に「あー、よろしくね」って感じだったんで、そういうところじゃなくて、「こういうデモ作ってんだけど、こういう曲やっていこうよ」って言ったら、「え? 宅録とかしてんの? 超すごいじゃん」みたいになったらしくて(笑)。

──びびられた?(笑)

(笑)。「ちょっと本格的すぎてウチら怒られるんじゃないの? ふざけんなって感じなんじゃないの?」って。たぶん大学で上京してきて、音楽やりたいけど最初はまあ仲良くやろうって感じだったんじゃないですかね。

──じゃあ向こうから誘ってきたけど、結果佐藤さん主導に?

ま、わりと(笑)。スパルタ感は出たんじゃないですかね。

1stフルアルバム「eureka」 / 2013年2月6日発売 / 2520円 / DAIZAWA RECORDS / UK.PROJECT / UKDZ-0139
1stフルアルバム「eureka」
収録曲
  1. 夜鷹
  2. 平行世界
  3. 春と修羅
  4. 国道スロープ
  5. ユーリカ
  6. 風化する教室
  7. Another Word
  8. ミュージシャン
  9. 明日にはすべてが終わるとして
きのこ帝国(きのこていこく)

佐藤(Vo, G)、あーちゃん(G)、谷口滋昭(B)、西村“コン”(Dr)の4人によって2007年に結成されたロックバンド。翌年から下北沢、渋谷を中心にライブ活動を開始し、2枚の自主制作アルバムをリリース。2012年5月に初の全国流通CD「渦になる」をリリースし話題を集める。2013年2月に1stフルアルバム「eureka」発表。