音楽ナタリー Power Push - Ken Yokoyama

40代“ギター小僧”がたどり着いたロックンロール

Ken Yokoyamaのニューアルバム「Sentimental Trash」が完成した。このアルバムは東日本大震災を経て、2012年11月に発表された前作「Best Wishes」以降、新たに生まれた横山健(Vo, G)のインスピレーションが詰め込まれた会心の1作。これまでソリッドギターをプレイする印象の強かった横山は、近年セミホロウボディのギターと出会ってから「ギターを弾くのがとても楽しくなった」と口にしており、今作には変化したサウンドアプローチにも注目すべき楽曲が多数収録されている。

音楽ナタリーでは最新シングル「I Won't Turn Off My Radio」と同時にレコーディングを行ったという今作についての手応えはもちろんのこと、若者の政治活動に関することなど多方面の話題について語ってもらった。

取材・文 / 小野島大 撮影 / 西槇太一

「Best Wishes」から「Sentimental Trash」へ

──待望の新作がいよいよリリースされます。手応えはいかがですか?

横山健(Vo, G)

リスナーにどう受け止められるかよりも、こういうアルバムが作れてうれしいなあ、という気持ちのほうが強いですね。

──リスナーの反応が気になるというよりも、作りたいものを作れた満足度が高い。

そうですね。いつにも増して強かったかもしれないですね。

──非常に素晴らしいアルバムだと思いました。これまで以上にいろんなタイプの楽曲がそろって音楽的なバリエーションもあるし、パンクな曲とそうでない曲のバランスもいいし、社会的なメッセージのある曲とそうでない曲のバランスもいい。何よりアーティスト自身が楽しんでやっている喜びが伝わってくる。

ありがとうございます! うれしいです。

──本作の構想段階から完成までのプロセスを教えていただけますか。

前作「Best Wishes」(2012年発表のアルバム)を作ってツアーが終わったぐらいから、もう次のアルバムに向かいたいなって気持ちがあったんですね。いつもそうなんですけど。少しずつ新曲のアイデアが出てきて、バンドで試したりしたんですよ。7~8曲ぐらいできあがったんですけど、どれもちょっと変わった曲ばかりで。メロディックパンクがどうとか、パンクロックがどうとか、そういうところじゃない曲ができてきた。メンバー間でもこの時期だから試せるものは試そう、という気持ちもあったんですね。で、その中から唯一生き残った曲が、本作の「A Beautiful Song」ですね。

──ストリングスをフィーチャーしたすごくドラマチックなバラードですね。

横山健(Vo, G)

はい。あとはシングルにも入れた「Never Walk Alone」と、DVD「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」の特典CDに収録した「Stop The World」もその時期にできた曲の生き残りですね。

──どれもKen Yokoyamaにしてはゆったりめの曲ですね。

はい。そういう曲を作る時期だったんですね。でもそのとき作ったほかの曲は「これじゃない!」ってボツにしちゃったんですよ。イマイチ納得がいかなくて。で、その頃に……楽器の話になるんですけど……。

──グレッチですね。

(うれしそうに)そうです! グレッチと出会いまして。一気に生活が変わっちゃうぐらいギターにのめり込んじゃったんですよ。

セミアコを手にして生活の中心がギターに

──グレッチを手にしたきっかけはなんだったんですか。

グレッチ製の横山健シグネチャーモデル「G6136T-KF FSR Kenny Falcon」(写真提供:神田商会)

その前にギブソンの箱モノ(セミアコースティックギター)を1本入手したんですよ。それまでもセミアコを弾く機会はあったんですけど、じっくりと家で弾いてみたらめちゃくちゃ楽しかったんです。まず単純に音がおっきいんです。家ではアンプにつなげないで弾くんですけど、普通にレスポールを家で弾いてもあんまし楽しくない、正直言って。でもセミアコやフルアコを弾くと、アコースティックとエレキの中間だから、音も大きいし、楽器を鳴らしている手応えがある。生活の中心がギターになっちゃったんですよ。ギター弾いてるときに話しかけるとお父さんに怒られる、ぐらいの(笑)。それぐらいのめり込んで。日々家でギターと過ごす時間の質が変わっていって。すると自然とやりたい音楽や弾きたいフレーズも変わってきた。そのうち家弾き用に買ったグレッチをこっそりスタジオに持っていくようになって。

──箱モノのギターとソリッドギターでは作る曲に違いがあるんですか。

横山健(Vo, G)

家で弾いたときのニュアンスの違いっていうのはものすごく顕著で。楽しさが違うんですね。レスポールだとスタジオでアンプ通して大きな音で鳴らしてナンボ。でも箱モノだと、家で(アンプを通さないで)つま弾いてるだけで楽しいし、その楽しさをバンドに持ち込めるんじゃないかな、という気になってくる。それで作る曲が変わってきたんですよ。

──より繊細になって、多彩になると。

うん、そうっすね。やってみたいこと、チャレンジしたいことも変わってくる。ロックンロール系のフレーズとか、別に自分がやることもないかな、と思っていたこともやりたくなってしまって。そういうことを考える時間が増えたんですね。

Ken Bandの表現力が広がるまで

──従来のKen Bandの音楽性からはみ出した楽曲を、例えばソロアルバムでやってみるとか、そういうことは考えなかったですか。

あ、もともとはそういった発想だったんですよ。仲間たちとロックンロールのカバーバンドでも組んで、そこで僕のロックンロール欲を発散しようかと思ったんですけど、やっぱり途中から、なぜこれを自分のバンドでできないんだろう、すごくいいアイデアなのにおかしいんじゃないかと思い始めたんですよ。

──今までKen Bandでやってきたパンクのスタイルと、グレッチから導き出されるいろんなタイプの音楽をどうやってスムーズに接続するか試行錯誤をしたんですね。

横山健(Vo, G)

そうなんです。なのでけっこう悩んでました。ものすごくエキサイトしてたけど、果たしてうまくいくのかなあ、メンバーは納得してくれるかなあって、すごく悩んでました。それでミーティング……というか僕が一方的にしゃべってるんですけど、こういうことをやりたいんだよね、どう思う?って、しょっちゅう話してました。

──先日Jun(Gray / B)さんとMinami(Hidenori Minami / G)さんにお話を聞いたとき(参照:Ken Yokoyama「I Won't Turn Off My Radio」インタビュー)も、横山さんが持ってくるいろんなタイプの楽曲をいかに消化してKen Bandの音として仕上げていくか、そのさじ加減が難しかったと言ってましたね。

はい。僕も悩んでたけど、それ以上にあの2人を悩ませてましたね(笑)。練習ごとにテープに録って聴いて、こういうアプローチだったらKen Bandらしいねとか、これは僕たちがやる必要ないんじゃないかとか。そういうジャッジをみんなでやっていた感じです。

ニューアルバム「Sentimental Trash」 / 2015年9月2日発売 / PIZZA OF DEATH RECORDS
[CD] 2365円 / PZCA-73
収録曲
  1. Dream Of You
  2. Boys Don't Cry
  3. I Don't Care
  4. Maybe Maybe
  5. Da Da Da
  6. Roll The Dice
  7. One Last Time
  8. Mama, Let Me Come Home
  9. Yellow Trash Blues
  10. I Won't Turn Off My Radio
  11. A Beautiful Song
  12. Pressure Drop
Sentimental Trash Tour
2015年9月25日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
2015年10月6日(火)長野県 NAGANO CLUB JUNK BOX
2015年10月7日(水)石川県 金沢EIGHT HALL
2015年10月9日(金)新潟県 新潟LOTS
2015年10月10日(土)群馬県 高崎club FLEEZ
2015年10月16日(金)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
2015年10月18日(日)青森県 Mag-Net
2015年10月19日(月)秋田県 Club SWINDLE
2015年10月21日(水)岩手県 Club Change WAVE
2015年10月22日(木)宮城県 Rensa
2015年10月24日(土)山形県 山形ミュージック昭和Session
2015年12月19日(土)神奈川県 Yokohama Bay Hall
2016年1月20日(水)岡山県 CRAZYMAMA KINGDOM
2016年1月21日(木)島根県 松江 AZTiC canova
2016年1月23日(土)熊本県 熊本B.9 V1
2016年1月24日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
2016年1月26日(火)長崎県 DRUM Be-7
2016年1月27日(水)福岡県 DRUM LOGOS
2016年1月29日(金)愛媛県 WstudioRED
2016年1月30日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
2016年2月10日(水)静岡県 SOUND SHOWER ark
2016年2月11日(木・祝)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
2016年2月13日(土)大阪府 なんばHatch
2016年2月14日(日)愛知県 DIAMOND HALL
Ken Yokoyama DEAD AT BUDOKAN RETURNS
2016年3月10日(木)東京都 日本武道館
<出演者>
Ken Yokoyama / SLANG(ゲスト)
Ken Yokoyama(ケンヨコヤマ)

1969年10月1日生まれ。Hi-STANDARD、BBQ CHICKENSのギタリスト。2004年にソロアーティストとしての活動を開始し、Ken Yokoyama名義によるアルバム「The Cost Of My Freedom」をリリースした。Ken Bandとしてライブ活動を開始してからも、2005年の2ndアルバム「Nothin' But Sausage」をはじめ定期的に作品を発表。2008年1月に初の東京・日本武道館公演を実施したほか、2010年10月には「DEAD AT BAY AREA」と題したアリーナライブを神戸と幕張で敢行した。2011年にはHi-STANDARDのライブ活動再開や「AIR JAM 2011」開催など、ソロ以外の活動も続々展開。2012年11月に5thアルバム「Best Wishes」をリリースした。2013年11月にはドキュメンタリー映画「横山健 -疾風勁草(しっぷうけいそう)編-」が全国60館の劇場にて公開され、2014年9月に「Stop The World」を収めたCDが付属したDVD「横山健 -疾風勁草編-」を発売した。2015年7月には8年4カ月ぶりとなるシングル「I Won't Turn Off My Radio」をリリースし、テレビ朝日系「ミュージックステーション」に初出演。大きな話題を呼んだ。9月にニューアルバム「Sentimental Trash」を発表し、同月より年をまたいだ全国ツアー「Sentimental Trash Tour」を開催する。