KEMURI|今、「孤往独邁」を掲げて突き進む

今作はより“KEMURIの音楽”に

──平谷さんの名前が出ましたが、平谷さんが作曲を手がけた「FATHER OF THE BRIDE」はポップで平谷さんらしいですよね。結婚パーティでの花嫁の父を主人公にした、明確なストーリーや景色があって。

伊藤ふみお(Vo)

伊藤 この曲はなかなか歌詞ができなくて。庄至くんの曲にはほかの曲とは違う特徴があるんだよ。ホーンの入り方とか。で、このポップな曲から“笑えるんだけどちょっと泣ける”っていうイメージが浮かんできたのね。それって具体的にはどんな光景なんだろう?って考えながら、昔好きだった映画をいろいろ観直してたんだけど、その中の1本がまさに「Father of the Bride(邦題:花嫁のパパ)」という映画で。そこからこの曲に合わせて、パーティのシーンでマリアッチとかのバンドが入ってみんな踊るような絵が浮かんだ。

──曲にピッタリの歌詞ですね。そもそもKEMURIの曲作りはどのように行われるんですか?

津田 作曲者が、アレンジの雰囲気と一緒に曲を持ってきて、そのあとみんなで詰めていく感じですね。

伊藤 ただ今回のアルバムは、より“KEMURIの音楽”にしようと。今までは作曲者がメロディもリズムもテンポも、イントロのホーンの入れ方も考えてきて、それをみんなで再現するって感じのことが多かった。それでけっこう、メンバー各々の色が出せたと思うんですよね。でも今回は“KEMURIの音楽”にしようと。

──よりバンド感がありますもんね。

津田 そうですよね。

伊藤 やっぱりね、「なんで音楽をやってるんだろう」って個人個人が考えるきっかけにならないと意味がないと思うし。そうやってできた曲を演奏していくことで、個人やバンドの状況を考えることもできる。アルバムっていうのはそのときそのときを切り取るものだから。前作より今作、今作より次作ってやっていくことがミュージシャンとして生きるってことだからね。その意識はどんどん強くなってる。今作もそうやって作っているわけですよ。

遺言並みに言いたいことを歌詞に込めた

──津田さん作曲の「Fire Sliver Bullets from the Smoking Barrel」は激しいですね。

津田 僕的には1990年代のスカコアのイメージで。

伊藤 マイナー調の曲だよね。今回、マイナーな曲が2曲あるんだけど、それはKEMURIとしてはなかなか珍しい。

──哀愁を感じると言うよりは、勇ましい感じですよね。

津田紀昭(B)

津田 歌詞もそうだしね。ふみおくんの歌詞、本当にいつもハマる。今回もそう。全曲ハマッてるよね。

伊藤 お、ありがとうございます(笑)。今回、歌詞を40曲分ぐらい書いてるの。もっと書いてるかもしれない。作ってはやめ、作ってはやめっていう歌詞を含めてだけどね。ちょっと今回は苦労した。できないんじゃないかっていう最悪のイメージも頭をよぎりましたね。でもできたんだよね。できたってことはまだ続けられるってことなんだな、あきらめなければやれるんだなって。

──歌いたいこと、伝えたいことはたくさんあるわけで。

伊藤 だからこそ考えたんですよ。英語だとね、例えばみんなで歌うコーラス部分の歌詞で、弾きながら歌うのに難しい言葉を付けてしまうと気になるの、みんなの発音が悪くて(笑)。だからいちいち言うの、「ブラッド(津田)、ここの発音はこうだよ」って(笑)。やっぱりいいものを作りたいからさ、やかましいこと言って申し訳ないなって思っても言うんですよ、「庄至くん、そこ発音が違うよ」って(笑)。でもね、自分がいいと思ったものをそのままやればいいってものじゃないんだなって。聴く人のことを考えないと。だから発音しにくい難しい言葉じゃなく別の言葉を探したりね。KEMURIは海外にもツアーに行くから欧米人にわかる言葉にしたいし。同時に日本のお客さんも歌えるものにしたい。やっぱり好きになる曲って歌いたい曲、歌える曲だったりするよね。そういう歌詞にするのにすごい苦労した。その甲斐あってベストを更新できたって思いは本当にあります。もう好きなこと言ってやったぜって思いも含めて。

──言いたいこと言ってますもんね。

伊藤 言ってます。なかば遺言みたいな気持ちで書きましたから。「ここまで言ったら悔いはない」というものを作ろうって。

いろんな人に会って、いろんな活動をしている今のKEMURI

──「MIRAI」は英語詞が多い本作の中で日本語で歌っています。絶望の中にいても小さな希望を見出すという歌詞にパワーを感じます。

左から伊藤ふみお(Vo)、津田紀昭(B)。

伊藤 「MIRAI」は今の自分なりの反戦歌です。やっぱり命あればこそっていう。人も動物も植物も。「NO MORE WAR!」って曲もあるけど、それとはアプローチの違う反戦歌で。「MIRAI」は反戦歌であり命賛歌なんですよね。

──「MIRAI」は反戦歌だしストレートだし、同時に映像が浮かぶような曲ですね。

伊藤 一昨年、アメリカツアーに行ったとき、ちょうど大統領選で反トランプのデモも見た。「多くの人があれだけの危機感を持っているのはなぜなんだろう?」って、そのときはそこまでわからなかったけど、今は日本にいても危機感をすごく感じる。そこで、音楽は形のないものだけど、心になんらかの景色を作ることができるから、その景色の中で警鐘を鳴らしたいって気持ちが強くなった。危険なのは権力者の勘違いだから。「権力者は勘違いをしない人がなる」ってまだみんな思ってるところがあると思うけど、そんなことはないって歴史が証明してるからね。そういう中で生きていて、言いたいことを言わなきゃって気持ちが強くあって。この曲たちを持ってまたアメリカにも行きたいし。日本からの危機感を持ってね。そういうことも含めて「生きていこう」ってことですよね。ただ「戦争反対」って叫ぶだけじゃなく、この世代としてのマナーって言うかな、そこを意識して歌詞を作ってるし歌ってるし。

──KEMURIの曲は、時代や社会を見てるからこそ、それを乗り越えていけるような普遍性を感じます。

伊藤 ありがとうございます。今の世の中にはキナ臭いことがすごくあって。頭でっかちになってる人も多いと思う。いろんな分野でいろんな技術が発達するのはいいことなんだろうけど、でもそれを安易に使うのは……僕らのようにモノを作っていく人間、表現していく人間は特に、安易に使うのはよくないんじゃないかと。

──もっと実感、体感したものを信じたほうがいいって言う。

左から伊藤ふみお(Vo)、津田紀昭(B)。

伊藤 そうですね。あの、KEMURIにコバケン(コバヤシケン / Sax)というサックスプレーヤーがいるんですけど、彼はちょっと得体の知れない、ちょっと宇宙人っぽい人で(笑)。そんな彼は風邪を引きそうになったとき「僕、薬飲まないんですよ」って言うの。彼が言うには「薬を飲むと免疫力が下がる」って。ボーカリストとしては風邪をうつされたくないし「薬飲んでよ」って思うんだけど、コバケンの言うことは確かに理に適ってるとこがあって。つまり、一笑に付しちゃうようなことでも実は真理が隠されてるんじゃないかって。なんて言うか、目の前の便利さのほうを取っちゃうのはつまらないしおかしな方向に向かってる気がするわけです。便利さを最初に選んじゃいけない、モノを作っていく人は特にね。KEMURIのメンバー、各々相当考えて作ってますから。

──人と人とが刺激し合って、そこで生まれるものを信じるっていう。

伊藤 そうですね。この間、「THICK FESTIVAL 2018」に出たんだけど、若いバンドがたくさん出ていてすごく楽しかった。そういうフェスに出る一方で、ベテランのThe Ska Flamesとも一緒にやって、「FUJI ROCK FESTIVAL」に何度も出させてもらってる。いろんなところでライブをやっていろんな人に会って。またブラッドはTHE REDEMPTIONをやっている。THE REDEMPTIONはKEMURIよりもう少しサブカルチャー的なバンドで、メンバーはほかの仕事をしながらスカやレゲエやパンクロックを追求している。だからブラッドは彼らにも筋を通して活動してると思う。いろんな人に出会って、メンバー個々にもいろんな思いがあって、それでKEMURIをやっていくんだから、右から左にものを動かすような作り方なんてできないよね。便利なやり方は逆にできない。それは大変なことなんだけど、案外できちゃうものなんだよって。

──うん。やっぱり楽しいことって大事ですよね。今作はシリアスな歌詞が多いけど、聴いているうちに楽しくなっていくんですよ。踊って楽しみながら、歌詞の重さに気付く。そこがKEMURIなんですよね。

伊藤 やっぱりね、やってみることですよ。俺はダメだって自信を失ってる人も、考え込まないでやってみれば案外できるんだよって。だってみんなそうなんですから。みんな自分に自信がなかったり、自分はこんなはずじゃないって思ってたり。そう思いながら一生懸命生きてるわけでしょ。一生懸命生きてるんだから自信持っていいし、やってみたら案外できるものなんだよって。そんなことも音楽をやりながら伝えていきたいですね。

左から伊藤ふみお(Vo)、津田紀昭(B)。
KEMURI「【Ko-Ou-Doku-Mai】」
2018年2月7日発売 / ramble
KEMURI「【Ko-Ou-Doku-Mai】」

[CD]
2916円 / RMBL-00001

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収録曲
  1. I BEGIN
  2. LIVE LIKE OUR MUSIC!
  3. FATHER OF THE BRIDE
  4. MIRAI
  5. Fire Silver Bullets from the Smoking Barrel
  6. The Unwritten Law
  7. SAD BOMB
  8. NO MORE WAR!
  9. STILL HOPE
  10. Ko-Ou-Doku-Mai

公演情報

KEMURI TOUR 2018「Ko-Ou-Doku-Mai」
  • 2018年3月17日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
  • 2018年3月18日(日)千葉県 千葉LOOK
  • 2018年3月24日(土)千葉県 KASHIWA PALOOZA
  • 2018年4月14日(土)岩手県 Club Change WAVE
  • 2018年4月15日(日)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
  • 2018年4月21日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
  • 2018年4月22日(日)長野県 Sound Hall a.C
  • 2018年5月12日(土)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
  • 2018年5月13日(日)茨城県 mito LIGHT HOUSE
  • 2018年5月19日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
  • 2018年5月20日(日)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
  • 2018年6月2日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2018年6月9日(土)京都府 KYOTO MUSE
  • 2018年6月10日(日)兵庫県 神戸VARIT.
  • 2018年6月17日(日)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2018年9月1日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2018年9月2日(日)北海道 CASINO DRIVE
  • 2018年9月8日(土)宮城県 Rensa
  • 2018年9月15日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2018年9月16日(日)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2018年9月22日(土)東京都 TSUTAYA O-EAST
KEMURI(ケムリ)
KEMURI
1995年結成のスカパンクバンド。「P.M.A(Positive Mental Attitude / 肯定的精神姿勢)」をバンドの哲学として、活動を展開する。当初からアメリカのレーベルと契約していたため、「アメリカからの逆輸入バンド」として話題となった。スカ、パンク、ハードコアといった要素を取り入れたサウンドが特徴で、日本のスカパンクシーンの代表的存在。2007年12月9日の東京・Zepp Tokyoでのライブを最後に解散したが、2012年9月、Hi-STANDARDからの呼びかけに応じ、「AIR JAM 2012」にて約5年ぶりに復活を果たす。2013年1月、南英紀(G / 現 Ken Yokoyama Band)の脱退と初代ギタリスト・田中‘T’幸彦の復帰を発表。その後、ツアーや音源リリースなどを重ね、精力的に活動をする。結成20周年を迎えた2015年6月にベストアルバム「SKA BRAVO」を、7月に11thアルバム「F」をリリース。同年10月にサポートメンバーだった河村光博(Tp)と須賀裕之(Tb)が正式加入した。2016年6月に13年ぶりのシングル「サラバ アタエラレン」を発表し、2017年3月にニューアルバム「FREEDOMOSH」をリリース。同年11月にクラウドファンディングを利用した入場無料ツアー「'FREE SHOW!' ~SKA BRAVO SPECIAL TOUR 2017~」を実施した。2018年2月に13枚目の新作アルバム「【Ko-Ou-Doku-Mai】」を発売する。