音楽ナタリー Power Push - KEMURI
伊藤ふみおがワールドツアーで見つけた「今、歌うべきこと」
KEMURIがニューアルバム「FREEDOMOSH」を3月1日にリリースする。
昨年行われたワールドツアーでの経験が詰め込まれた本作。タイトルは「FREEDOM」と「MOSH」を掛け合わせた伊藤ふみお(Vo)による造語で、「もっと自由に、もっと混ざって、もっと暴れてほしい」という意味が込められている。アメリカ大統領選の真っ只中にレコーディングを行ったという本作について、伊藤に話を聞いた。
取材・文 / 遠藤妙子 撮影 / 後藤倫人
佐藤隆太出演の「THUMBS UP!」MV
──今日、ちょうど「THUMBS UP!」のミュージックビデオがアップされていたので、家を出る前に観てきました(取材は2月上旬に実施)。ストリート感があってとてもカッコいいです。俳優の佐藤隆太さんが出演されてますが、どういう経緯で?(参照:KEMURI新曲MVに佐藤隆太が出演「まさかこんな日がやって来るなんて」)
佐藤くんはKEMURIの初期……1stアルバム「Little Playmate」(1997年6月発売)を出した頃からライブに来てくれていて。当時は知り合いではなかったんですが、その後、佐藤くんが役者になって“KEMURIの伊藤ふみお”と“役者の佐藤隆太”として知り合ったんです。それが2000年ぐらいかな。役者として忙しくなってもライブはずっと来てくれて。長い付き合いですよ。だからプライベートな友達感が強くて、一緒に仕事をするとかMVに出てもらうって発想がずっとなかった。でも今回、スタッフから佐藤くんの名前が出て……「THUMBS UP!」にすごく合うと思うって。それで「そうか、そういう発想があったのか!」って思ってお願いしました。
──どうでしたか? 思った通り?
最高です。普段の佐藤くんとは全然違う感じで。「演じてくれたんだな」って思った。「THUMBS UP!」という曲には「もっと混ざっていこうぜ」「そのメッセージを信じて笑ってみよう」っていう思いを込めているんだけど、走ってるときに見せる笑顔とか一瞬の表情とかで歌に込めたメッセージを表現してくれたと思います。
──佐藤さんをきっかけに、より多くの人にKEMURIを知ってほしいという気持ちもありますか?
そうだね。今の世の中って選択肢が広まったように思えて、実はみんな自分がピックアップしたものしか見てない気がするのね。選択肢が広がったのに選択肢を狭めているような状況や風潮になっているように思う。KEMURIもいろんな人に聴いてもらいたいって思いでやってはいるんですけど、なかなか思うようにはいかない。KEMURIを好きな人は大好きになってくれるんだけど。まだKEMURIを知らない人、好きじゃない人にももっと聴いてもらうために積極的に動いていきたいなって思っていたところだった。で、佐藤隆太の笑顔っていうのはすごく人を惹きつける。彼の笑顔に共感している人はたくさんいるわけで、そういう人たちにも聴いてもらえたらいいなと。我々は役者じゃないから演じることはできないけど、佐藤隆太の表情や存在をきっかけにKEMURIを聴いてくれた人も納得する、楽しめる、そんな音楽とライブをやらないとなってすごく思っています。ちょっと責任を感じるけどね(笑)。
──MVには海外の人たちも出てきますよね。親指を立てる“THUMBS UP”のポーズをして。あれはツアー先の映像ですか?
そう。アメリカとイギリス。レコーディングする前だね。
──じゃあ、あのポーズは「やってくれ」って頼んだわけじゃなく。
もちろん。だってアルバムのタイトルも決まってなかったし。それなのにあの映像があって。
──みんな笑顔で親指立てて。映像としてもいいし、ツアーがいいものだったと一目でわかります。
なんかね、いろんな偶然が重なったなって。ここにきて佐藤くんと新しい形で付き合うきっかけができたのも、やっぱり自分たちが音楽を作り続けてきたからだって思うし。これからも真摯な姿勢でやっていきたいなって、今つくづく思います。
「サラバ アタエラレン」のような歌詞がひさしぶりに出た
──アルバムにはシングル「サラバ アタエラレン」から2曲が収録されていますが、その頃からアルバムの予想図を描いていたのでしょうか。
そういうわけでもないです。シングルを作った頃はアルバムの曲はほとんどできてなかった。シングルのタイトルチューンでアルバムにも入ってる「サラバ アタエラレン」のような歌詞を書いたのは、実はかなりひさしぶりなんですよ。
──日本語の中に英語が混ざって。
それもそうなんですが……。なんて言うんだろう、年齢を気にしてやっているつもりはないんですけど、KEMURIが言ってる「PMA」「肯定的精神姿勢」っていうものは、初めてアルバムを出した1997年頃はほかになかったのね。1998年に出したアルバムには人種差別に対しての曲が入っているんだけど、そんなことを歌ってる人も、僕はほとんど知らなくて。当時は若かったから人がやっていないことをやってやろうってことに、喜びを感じてたっていうのもあった。それがいつしか多くの方に共感していただけて、そしたら「応援ソング」という名前で括られたりして。で、別に自分はPMA精神を全面に押し出した歌は歌わなくていいかなって思った時期が長く続いていたんです。だから自然とそういう歌詞を書かなくなっていった。でも「サラバ アタエラレン」って曲をブラッド(津田紀昭 / B)が作ってきて、そのメロディから浮かんできたのが、しばらく自分が書いてなかった日本語のあの歌詞で。
──「困難があろうと前へ向かっていく」という内容の歌詞ですよね。
そういう雰囲気の歌詞になっていったことに自分でも最初は違和感があったんです。でも結成20年を超えて、ここまでたくさん歌詞を書いてきて、それでもまるで結成当初のような歌詞が浮かんでくるっていうことは、今でもPMA精神が強いんだなって。「まだまだやらなきゃ」「まだまだやりたい」って気持ちが素直に出てきたんだなと。そこで吹っ切れたのはありますね。
──アルバムの最後を飾るのにピッタリの曲です。
ありがとうございます。シングルとして出したのも、スタッフの人たちが「こういう歌詞が伊藤ふみおの口から出てくるのは、とても自然なことなんじゃないですか」って言ってくれたからというのがあります。
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- ニューアルバム「FREEDOMOSH」 / 2017年3月1日発売 / ONECIRCLE
- CD+DVD / 4968円 / CTCD-20052/B
- CD / 3240円 / CTCD-20053
CD収録曲
- THUMBS UP!
- GO! GO! GO! GO! GLOW!
- CHOCOLATE
- DIAMOND
- My Best Friend
- SAKURA
- AWE
- SPIRAL
- Dancing in MOON LIGHT
- RAINDROP
- SHOUT
- サラバ アタエラレン
DVD収録内容
- THUMBS UP! -MUSIC VIDEO-
- サラバ アタエラレン -MUSIC VIDEO-
- I am proud(Bristol,UK)
- SUNNY SIDE UP!(Sheffield,UK)
- Crappy Go Happy(Birmingham,UK)
- Dancing in MOON LIGHT(London,UK)
- HATE(Atlanta, US)
- PMA (Positive mental Attitude)(Orlando,US)
- New Generation(St.Petersburg,US)
- サラバ アタエラレン(Tokyo,JP)
- Heart Beat(Tokyo,JP)
- Ato-Ichinen(Tokyo,JP)
KEMURI Tour 2017「FREEDOMOSH」
- 2017年4月1日(土)長崎県 DRUM Be-7
- 2017年4月2日(日)福岡県 DRUM LOGOS
- 2017年4月7日(金)石川県 Kanazawa AZ
- 2017年4月8日(土)長野県 Sound Hall a.C
- 2017年4月14日(金)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2017年4月15日(土)愛知県 DIAMOND HALL
- 2017年4月22日(土)滋賀県 SHIGA U★STONE
- 2017年4月23日(日)兵庫県 神戸VARIT.
- 2017年5月13日(土)北海道 CASINO DRIVE
- 2017年5月14日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2017年5月19日(金)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2017年5月20日(土)埼玉県 HEAVEN'S ROCK Kumagaya VJ-1
- 2017年5月21日(日)千葉県 千葉LOOK
- 2017年5月26日(金)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2
- 2017年5月27日(土)宮城県 Rensa
- 2017年5月28日(日)岩手県 Club Change WAVE
- 2017年6月2日(金)大阪府 なんばHatch
- 2017年6月10日(土)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2017年6月16日(金)新潟県 新潟LOTS
- 2017年6月17日(土)福島県 郡山HIP SHOT JAPAN
- 2017年6月24日(土)静岡県 LiveHouse 浜松 窓枠
- 2017年7月1日(土)香川県 DIME
- 2017年7月2日(日)愛媛県 松山サロンキティ
- 2017年7月9日(日)東京都 新木場STUDIO COAST
KEMURI(ケムリ)
1995年結成のスカコアバンド。「P.M.A(Positive Mental Attitude/肯定的精神姿勢)」をバンドの哲学として、活動を展開する。当初からアメリカのレーベルと契約していたため、「アメリカからの逆輸入バンド」として話題となった。ハードコアやパンク、レゲエといった要素を取り入れたサウンドが特徴で、日本のスカコアシーンの代表的存在。2007年12月9日の東京・Zepp Tokyoでのライブを最後に解散したが、2012年9月、Hi-STANDARDからの呼びかけに応じ、「AIR JAM 2012」にて約5年ぶりに復活を果たす。2013年1月、南英紀(G / 現 Ken Yokoyama Band)の脱退と初代ギタリスト・田中‘T’幸彦の復帰を発表。その後、ツアーや音源リリースなどを重ね、精力的に活動をする。結成20周年を迎えた2015年6月にベストアルバム「SKA BRAVO」を、7月に11thアルバム「F」をリリース。同年10月にサポートメンバーだった河村光博(Tp)と須賀裕之(Tb)が正式加入した。2016年6月に13年ぶりのシングル「サラバ アタエラレン」を発表し、2017年3月にニューアルバム「FREEDOMOSH」をリリースする。