ボーカリスト川島明とプロデューサー藤井隆、それぞれのインタビューから紐解く“夜の顔” (4/4)

「がんばれ」と思ってほしい

──好きなアーティストの曲をカラオケなどで歌うのとは違い、藤井さんの仮歌というお手本はあるものの、オリジナル曲で自分の歌い方を見つけるのは難しいように思います。どうやって自分らしいボーカルスタイルを発見できたのでしょうか?

全部のレコーディングに藤井さんが同席してくれて、そのときおっしゃっていたのは、「聴いている人に『がんばれ』と思ってほしい」ということらしいです。たぶん半音下げたほうが歌いやすいんですけど、そこをあえてギリギリのキーに設定することで応援したいと思わせる歌声になる。自信なさげでも、少し枯れていてもそれでいいというか、気持ちよく聴けるちょうどいいところを藤井さんが押さえてくれている感じでした。

──音楽プロデューサーとしての藤井隆はいかがですか?

天才やと思いますね。まずこのメンツをそろえられるのは藤井さんしかいないですし。こんなご縁を僕につないでくださるのもありがたい。それに、どんなに忙しいスケジュールでも、全レコーディングに顔を出してくれるんですよ。現場に藤井さんが来ただけでバーンと明るくなりますし、よかったところをたくさん言ってくれるから、自信を持って楽しくできるんです。あまりにテンションが上がると、レコーディング中にブースに入ってきちゃうことがあって。

──(笑)。

これが出たらマックスでよかったということなんでしょうけど、表現が独特すぎますよね。あと、歌をイメージするときにライブのことをよくたとえで出します。「ライブでピンスポが当たってる感じで」とか「遠くに見える一番後ろのお客さんに向かって歌う感じ」とか。そういう指示を具現化させていくのが楽しかったですね。

──芸人・藤井隆とは違いますか?

いつもの藤井さんとはまた違いますね。プロデューサーのテンションというか、いつにも増して気遣いがすごいです。

川島明

曲を止める理由がない

──川島さんの1stアルバムが出るということで期待はしていましたが、期待を軽く上回るほど最高でした。いわゆる芸人さんらしい愉快な音楽ではなく、穏やかな夜のトーンで統一されているのがすごいなと。「ラヴィット!」ファミリーでもある横田真悠さんとのデュエットでさえ、企画色の一切ないガチな曲に仕上がっているのは素晴らしいです。

確かに「なんだこれ!?」っていうすごさですよね。もとからこういうユニットでした、みたいな。藤井さんの頭の中にはずっと構想があったんでしょうね。

──そして、先ほどお話にも挙がりましたが、大江千里の提供曲を歌う人生になるとは思わなかったですよね(笑)。

そうなんですよ(笑)。とんでもないことやなって。大江さんは今や海外で活躍されているジャズピアニストですけど、今回書いてくださった曲は僕らが90年代に聴いていたあの頃の感じがそのまま残っていて、すごくいいんですよ。曲ごとに世界観がまったく変わるのも、オムニバス感があって楽しいですしね。

──「夜明けの歌」からは、大江さんの視点で川島明という人がしっかりと曲に落とし込まれているなと感じました。

藤井さんが大江さんに「川島くんって、こんな人ですよ」「朝の帯番組をがんばってますよ」みたいなことを全部説明してくれたみたいで。

──何より川島さんのボーカリストとしての魅力がこんなにも強いものだったのか、よくこのボーカリストを発掘してくれた!という思いを、この8曲を通して抱きました。藤井さんが悔しがっていましたよ。自分で仮歌を歌うけど、やっぱりこの曲は自分ではなく川島さんが歌うための曲として完成しているんだと。

アルバムの曲は全部藤井さんが仮歌を歌っていて、その仮歌が特典CDになっているのが面白いですよね(笑)。かなりぜいたくな2枚組になっていると思います。

──完成したアルバムについて、どんな感想を持っていますか?

めちゃくちゃすごい作品ですね。前半はレトロ感を残しつつおしゃれな楽曲、後半は昭和テイストを含みながらきれいな楽曲という流れで。最後は明るく次に向かうというイメージです。8曲目が終わるとまた1曲目に戻っていく感じがすごくよくて、ずっと聴き続けてしまう、曲を止める理由がないアルバムになってますね。

川島明

──SLENDERIE RECORD作品では恒例ですが、ジャケットもちょっと特異なムードといいますか、藤井さん特有のセンスが爆発しています。川島さんは被写体としてこのジャケットをどう思いましたか?

藤井さんだけに明確なコンセプトが見えているんですよ。周りの人は半信半疑でついていくんだけど、結果的にすごいものができあがるというか。早朝のテニスコートに集められて、唐突に「じゃあ、まずLから持って」とワープロを渡されたので、じゃあこれのSとMもあるんだろうなと(笑)。撮影のときはメイクさんが一番困っていましたね。ワープロのカタログがコンセプトだと言うけど、「じゃあどうすればいいですか?」って(笑)。でも結局みんな笑顔で協力し合って、撮影を楽しむ感じがすごくよかった。近所にいた別のメイクさんが犬を連れて遊びに来て、その写真が採用されたり。藤井さんのその場の閃きだとか、ライブ感が生きたジャケットになっていると思います。僕だけでは絶対に撮れない写真ばかりなので、すごいです。

次に何がくるか楽しみにしてます

──このアルバムを携えたリリースツアーも行われます。「ファミリーコンサート」という異色のタイトルですが。

これが一番意味わからないですよね(笑)。でも長野だったり、奈良だったり、普段はあまり行くことないような場所を回れるのでうれしいです。

──その中で、はいだしょうこさん、和久井映見さん、南野陽子さんと共演するという。

楽しみでしかないです。はいださんと「ファミリーコンサート」と言ったらもう完全に「おかあさんといっしょ」の世界になりそうですけど(笑)。まあ、藤井さんについていけば必ずうまいこといくはずなので、唯一無二のライブになると思います。

──僕個人としては、アーティスト川島明のバックでNONA REEVESが演奏する、という構図も大きなトピックです。

激熱なすごいメンバーばかりで。でも藤井さんが「ファミリーコンサート」と銘打ったことによって格式を取っ払ってくれて、お子さんも連れてきやすいムードになってます。

──1stアルバムがあまりに素晴らしい出来なので、川島さんにはぜひ今後も音楽活動を続けてほしいです。「アメノヒ」を作り上げたことで、川島さん自身にも音楽をやってみたいという欲求は芽生えましたか?

今はなんとかツアーまでこぎつけたというところで、まだ目の前のことに必死ですね。でも2ndアルバムに限らず、藤井さんが決めたことなら絶対に面白いと思うので、例えば「次はミュージカルで」って言われてもやるかもしれないです(笑)。次に何がくるか楽しみにしてます。

川島明

公演情報

SLENDERIE RECORD ファミリーコンサート

  • 川島明「アメノヒ」ツアー
    2025年5月31日(土)長野県 須坂市文化会館 メセナホール
    <出演者>
    藤井隆 / 川島明 / はいだしょうこ
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 2025年6月13日(金)愛知県 中日ホール
    <出演者>
    藤井隆 / KOJI 1200(今田耕司) / はいだしょうこ
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 川島明「アメノヒ」ツアー
    2025年6月21日(土)新潟県 上越文化会館
    <出演者>
    藤井隆 / 川島明 / はいだしょうこ
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 2025年6月27日(金)香川県 レクザムホール(香川県県民ホール)
    <出演者>
    藤井隆 / 後藤輝基 / YOKOお姉さん / 南野陽子
    バンド:冨田謙(Key)/ KASHIF(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 川島明「アメノヒ」ツアー
    2025年7月5日(土)奈良県 なら100年会館
    <出演者>
    藤井隆 / 川島明 / 和久井映見
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 宮川剛(Dr)
  • 2025年7月11日(金)福岡県 福岡国際会議場
    <出演者>
    藤井隆 / 博多大吉 / 和久井映見
    バンド:冨田謙(Key)/ KASHIF(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 2025年7月18日(金)大阪府 NHK大阪ホール
    <出演者>
    藤井隆 / 後藤輝基 / 南野陽子
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)
  • 川島明「アメノヒ」ツアー
    2025年8月2日(土)東京都 江戸川区総合文化センター
    <出演者>
    藤井隆 / 川島明 / 南野陽子
    バンド:冨田謙(Key)/ 奥田健介(G)/ 南條レオ(B)/ 小松シゲル(Dr)

プロフィール

川島明(カワシマアキラ)

1979年2月3日生まれ、京都府出身のお笑い芸人。1999年に田村裕とお笑いコンビ・麒麟を結成。2001年に「M-1グランプリ」決勝進出を果たし、一躍注目を浴びる。2020年10月にリリースされたオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」に参加し、ボーカルとテナーサックスの演奏に挑戦した。2021年3月よりTBS系朝の生放送帯番組「ラヴィット!」の司会を務めている。

藤井隆(フジイタカシ)

2000年に「ナンダカンダ」で歌手デビュー。松本隆、筒美京平、本間昭光、Tommy february6、堀込高樹らとのコラボ作品を発表し、音楽的評価を高める。2014年9月に自身のレーベル「SLENDERIE RECORD」を設立し、2015年6月にアルバム「Coffee Bar Cowboy」をリリースした。2017年9月には自身が最も影響を受けた“90年代の音楽”をテーマにしたアルバム「light showers」を発表。自身の作品以外にも、早見優、レイザーラモンRG、椿鬼奴、鈴木京香、伊礼彼方の音楽作品をプロデュースし、SLENDERIE RECORDからリリースしている。2020年10月にリリースしたレーベルのオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」が、音楽雑誌「ミュージックマガジン」の年間J-POPアルバムチャートで5位に選出される。2022年5月にプロデューサーとして参加した後藤輝基(フットボールアワー)のカバーアルバム「マカロワ」をリリース。同年9月に5年ぶりとなった自身のオリジナルアルバム「Music Restaurant Royal Host」を発表した。2024年5月に後藤のカバーアルバム第2弾「ホイップ」をリリース。2025年5月には新たなプロデュース作品となる川島明(麒麟)のオリジナル1stアルバム「アメノヒ」を発表した。