ルーツは渋谷系
──まずは川島さんが好きな音楽についてお聞きしたいと思います。番組などで小沢健二さんや野宮真貴さんの名前を挙げているのを拝見したことがありますが、川島さんはこれまでどんな音楽を聴いてきたのでしょう。音楽にのめり込んだ時期はありますか?
はい。やっぱり好きは好きでしたね。両親が音楽好きで、レコードを集めていたりしていて、家ではThe BeatlesやCarpenters、流行りの歌謡曲などが流れていました。中学生くらいになると周りの友達も自分でCDを買い始め、クラスの人気者たちは光GENJIや小室哲哉を聴いていましたが、僕はメジャーシーンにまっすぐハマれないタイプで。そんなとき友達から「フリッパーズ・ギターがおしゃれでカッコいい」と教えてもらったんです。「Singles」というベスト盤をめっちゃ聴いてましたね。ほかのアルバムも聴いていくうちに、必然的にピチカート・ファイヴ、スチャダラパー、Chocolatなんかも聴くようになって。フリッパーズが解散して、そのタイミングでリリースされた小沢さんのソロアルバム「犬は吠えるがキャラバンは進む」に衝撃を受けました。「こんなに世界観を変えられるんだ!」って。もちろんCorneliusさんもですし、その界隈の音楽を毎日聴いていました。
──いわゆる渋谷系ですね。
もう渋谷系に完全どっぷりでした。ほかのクラスメイトにあまり知られていない感じもよかったんですよ。一番熱心に音楽を聴いていたのはこの時期ですね。フリッパーズの曲はいまだに聴きますし、オザケンさん、Corneliusさんはライブにも行きます。
──渋谷系以外に最近よく聴く音楽はありますか?
コロナ禍以降は(G)I-DLE(※5月2日にi-dleに改名)ばっかり、ひたすら聴いています。それまでK-POPはあまり聴いたことがなかったんですけど、「TOMBOY」という曲がめちゃくちゃカッコよくてハマりました。
太陽というよりは月、影を感じる明るさ
──まったくの余談ですけど、ある時期からテレビで川島さんを観ていて「この人、ずっと面白いことしか言ってないな」と気になり始めて、キーワード登録で追うようになったんですよ。土日昼間の単発バラエティとかでもぬかりなく面白くて、ずっとこれ何かに似てるなあと思っていたんですが、真心ブラザーズが「サマーヌード」を出して以降の桜井秀俊さんに対して「いい曲しか書けなくなってる!」と感じたそれでした(笑)。
真心さん、大好きだからうれしいです(笑)。「M-1グランプリ」の決勝に4年連続出場したり、相方の本(2007年発売、田村裕の自叙伝「ホームレス中学生」)が売れたりして注目され始め、テレビの出演本数がグッと増えたんですけど、「次はこちらのお店です」とか、カンペを読むだけなのがだんだん申し訳なくなってきて。そんな中「IPPONグランプリ」(フジテレビ系)で初優勝したときに、「これからは全部大喜利にしてやろう」と意識を変えたのはありますね。どんなに平和な番組でも「めちゃくちゃすごい大喜利やってやろう」みたいな。
──黙って爆弾を並べているような面白さがあって、それは藤井さんにもずっと感じていたことなんですよ。そのムードが今、音楽の場でシンクロしているのが面白くて。
確かに。藤井さんはどこに行っても藤井さんなんです。例えば実際にイベントの司会をやっていても、“イベントの司会をする藤井隆”というコントになっているというか。そういう点では僕の大喜利と趣旨は一緒なのかもしれないです。
──藤井さんは自分のレーベルSLENDERIE RECORDを立ち上げてから、共通する特殊な匂いを持った、絶妙な違和感がある人たちをどんどん集めている感じがするんです。そしてその中に川島さんがいることが、すごく腑に落ちる。
藤井さんの琴線に触れる人たちがすごいですよね。レイザーラモンRGさんとか、椿鬼奴さんとか、フットボールアワー後藤さんっていう。なんとなく太陽というよりは月なメンバーやなと思ってます。ちょっと影を感じる明るさというか。それはたぶん藤井さんの好みとかセンスなんでしょうけど。
猛スピードの藤井隆
──そんなメンツの中でボーカリスト川島明が誕生したのは、2020年にリリースされたオムニバスアルバム「SLENDERIE ideal」でした。ボーカリストとしての自己評価はいかがですか?
僕よりうまい人はたくさんいますが、歌うことは好きなんです。自分はもっとバンドサウンド向きの声だと思っていたんですけど、藤井さんが用意してくれたのはバラードや、きれいなメロディラインの曲だったので意外でした。
──ご自身のアルバムを作るにあたって、藤井さんに何かリクエストはされたんですか?
一切ないです。そもそもこのアルバムを作ることになったのも、藤井さんから急に「アルバム作らへん?」って言われたからなんですよ。去年、SLENDERIE RECORD10周年記念ライブのリハーサルで「where are you」を歌ったら、藤井さんが「やっぱりすごくいい曲!」と涙ぐんでいて。そのまま休憩時間に「アルバム作らなあかん気がすんねん」と言い出して、「動いていい?」と聞かれたので「僕でよかったら」とお返事したんです。そしたら数カ月後には「『D Breeze』っていう曲ができました」と送られてきました。
──動きが早いですね。
勝手に5年後くらいのつもりでいたので、そんなすぐの話やったん?と驚きましたね(笑)。気付いたら藤井さんが猛スピードで運転する車に乗っていた感じです。
──どういうアルバムにしたいか、という話は?
「年明けからレコーディングです」と言われたときにはまだ何も知らされていなかったんですが、このまま詳しいことを聞かずに行ったほうが絶対に楽しいだろうと思って。だいたいレコーディングの1週間前に音源と仮歌が送られてくるんですけど、「次は大江千里さんが作った曲です」と言われたときは、さすがに「先に言ってくださいよー」と思いましたね(笑)。
──2020年のインタビューでも藤井さんが川島さんのことを「雨のイメージ」とおっしゃっていました。川島さんご自身はこれについてどんな感想を持ちましたか?
自分でもそんな気がしていました。小学生の頃、書道教室に通っていたんですけど、昇段試験のときに書いた「雨降る夜」という文字が高く評価されて、全国の書道教室で使う教科書に掲載されたことがあるんです。その言葉がすごく好きで、ソロ単独ライブでもタイトルにしたりしていました。なので今回アルバムのタイトルを決めるとき、いろいろ考えて“雨”を入れたほうがいいな、となって。奇しくも大江さんの曲にも「雨」というワードが入っていたのでうれしかったです。
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「がんばれ」と思ってほしい