ボーカリスト川島明とプロデューサー藤井隆、それぞれのインタビューから紐解く“夜の顔” (2/4)

大江千里が描く川島明

──そして大江千里さんが作詞作曲した「夜明けの歌」も素晴らしかったです。イントロで流れる少し懐かしい、令和の時代には新鮮なエレピの音に始まり、大江さんならではのタイムレスなメロディがグッとくる。それがすごく川島さんの声にハマっていて。

3年くらい前に、ミッツ・マングローブさんと大江さんのライブを観に行かせてもらったんです。周囲は僕らよりもお兄さん、お姉さんの年代の方が多くて、「千里くん、千里くん」と親しみを込めて呼ぶ声が聞こえてきて。ライブが終盤に差しかかった頃に横の男性が泣いてはったんですよ。それを見て僕はハッとしたんです。大江さんは今ニューヨークを拠点にジャズピアニストとして活動しているので、このショーが終わったら向こうに帰っちゃうんです。あんなに身近な青春を歌っていた人が、今は遠く感じるという寂しさを、その方は感じたんじゃないかなって。そのとき大江さんが書かれる歌詞の普遍性を改めて感じたんです。たくさんの方にカバーされている「Rain」って、やっぱりすごい曲だなと。オリジナルのよさはもちろん、カバーにもそれぞれの表情があるってすごいことで。川島くんにも「Rain」みたいな曲が欲しくて思い切ってご相談したら、「いいですよ」と言ってくださいました。

──「川島明という人を大江千里が描くとこうなるんだ」と思いました。大江さんの文体で、素顔の川島さんが描かれているような。

「仕事をがんばっている川島くんのことを歌にしていただきたいんです」ということをストレートに伝えました。その結果、「子供達のすやすや眠ってる顔」とか「夜寝て朝仕事に向かいその繰り返しを月金」とか、具体的な描写を入れていただいて。それで言うと沙也加ちゃんに「where are you」を歌詞を書いてもらったときも、「せっかくなので川島さんに『自分の歌』だと喜んでもらえるように書きました」と言って「ゲーム一度始めたら没頭」や、「運動はからっきし」みたいな共感できるワードを入れてくれたんです。その“共感”は今作でも大きなテーマにしています。

イメージはアン・ルイスと葉月里緒奈

──「欠けた月の夜」の作編曲は中崎英也さんですが、藤井さんプロデュース作品では初タッグですよね。中崎さんは原田知世さんの「早春物語」や小柳ゆきさんの「あなたのキスを数えましょう ~You were mine~」、さらにはトミーズ雅さんの「キスしてキスして」などを手がけたベテランの作家さんですが、川島さんの楽曲でオファーした理由はなんだったんでしょう?

僕は中崎さんが作曲したアン・ルイスさんの「夜に傷ついて」という曲が大好きなんです。今回“夜”の曲を作っていただこうと思ったときに、この曲で描かれているドラマチックな東京や、弱音を吐かないタフな女性のイメージが思い浮かびました。それと、僕が中崎さんの曲の中で一番聴いたのが葉月里緒奈さんの「DOIN' THE DOING~彼は無我夢中~」という歌なんです。「チオビタ・ドリンク」のCMソングだったんですけど、音を立てて進んでいく雰囲気というか、能動的な感じがカッコいいんですよ。

──中崎さんに頼むからには、きっと藤井さんの中で確固たるリファレンスがあるんだろうとは思いましたが、まさかアン・ルイスと葉月里緒奈だったとは!

結果的に「DOIN' THE DOING」寄りの曲に仕上げてもらえてすごくうれしかったです。僕も仮歌で歌わせてもらったんですけど、やっぱり川島くんが歌ったほうがよくて。中崎先生はすごいと思う反面、やきもちも半分ありましたね(笑)。

“Blue”をキャッチした堂島孝平

──SLENDERIE RECORD作品ではおなじみとなっている堂島孝平さんは、今回「Stay Blue」という曲を書き下ろしています。もはや藤井さんとはツーカーの仲だから、意思の疎通もきっと早いですよね。

ツーカーなんて滅相もないですが、言わずともわかってくださる部分は多分にありますね。僕は堂島さんが作ってくれた「where are you」という曲があったからがんばれた時期があったので、今回もオファーすること自体は最初に決めていました。でも実は、ほかの楽曲のテイストや、ライブで披露するためのイメージを踏まえてバランスをとってもらうために具体的な発注は最後にさせてほしいとお願いしていたんです。

──ほかの楽曲がある程度出そろうまで、曲の方向性を絞り込むのを待ってもらった?

はい。お忙しい中でムチャなお願いだったのですが、そんな中でバン!と上がってきた曲が「まさにこれです!」という感じで! すごくうれしかったです。青が印象に残るよう作ったジャケットをお見せする前に、堂島さんがすでに“Blue”をキャッチしてくださっていたのもすごいですよね。心から感謝しています。

いいものが撮れた!と確信

──ジャケットについてもぜひ聞いておきたいです。青に映える工業製品的なロゴもまたいい味を出していますが、アルバムタイトルや歌詞と直接結び付くものはなく……これはどういうテーマなんですか?

川島明「アメノヒ」ジャケット

川島明「アメノヒ」ジャケット

アルバムの中身を象徴するデザインじゃなくてもいいかなと思って、5年後のワープロのカタログをイメージしました。川島くんは“言葉”の人だと思っているのでパソコンではなくて、どこか温かみもある雰囲気というか。このテニスコートが見つかったときはもう「いいものが撮れた!」と確信しました。

──ワープロとテニスコート……作品テーマの「夜」でも「雨」でもないのに、不思議と説得力があるのがすごいですね。

川島くんって、撮り方によって顔が変わるんですよ。「弟さん?」と思うほど幼く見えたり、女の子みたいに見えるときもある。すごく不思議ですよね。

歌が好きな仲間がファミリー

──川島さんのアルバムリリースツアーは、SLENDERIE RECORDの設立10周年を記念した「ファミリーコンサート」の一環として行われますが、そもそも「ファミリーコンサート」とは……。

「ファミリーリサイタル」とすごく迷って「ファミリーコンサート」にしました。去年、後藤(輝基 / フットボールアワー)くんの作品でツアーを回らせていただいて、すごく楽しかったんですよ(参照:後藤輝基の歌ごころ爆発!「“ホイップ”ツアー」で藤井隆も楽しくなっちゃった)。僕は好きな人が歌っている姿を観るのがすごく好きだということを再認識しまして、本当に全力のプロデュースができて親の気持ちになったんです。“物販パパ”という呼び名で物販に立って、後藤くんのファンの方に直接お会いできたこともうれしくて。後藤くんもやっぱり歌うことが好きなんだということがわかったので、それで腹をくくったというか。SLENDERIE RECORDには歌が好きな仲間、ファミリーがこんなにいるじゃないか!と気付いたので「ファミリーコンサート」をやろうと決めました。

「後藤輝基“ホイップ”ツアー2024 plus 藤井隆!」最終公演の藤井隆。

「後藤輝基“ホイップ”ツアー2024 plus 藤井隆!」最終公演の藤井隆。

──そこにゲストとして、はいだしょうこさん、南野陽子さん、和久井映見さんが加わるという。これもまたすごい顔ぶれですよね。

南野さんは「スペシャルゲストを呼ぼう」と思いついたときに最初にオファーしました。どの世代も「うおー!」と盛り上がれるアーティストは誰だろうと考えたとき、真っ先に南野さんが頭に浮かんだんです。

──何より一番驚いたのは和久井さんですよ。2025年に歌手・和久井映見の歌声を聴くことができるとは。

僕、サブスクを使い始めたのが遅かったんですよ。でも新しい曲に出会いたくて最近始めたんですけど、結局年間で一番よく聴いた曲が和久井さんの曲で。もし叶うなら一度ステージでの歌声を聴いてみたいと思ってオファーしました。

──和久井さんは奈良と福岡の地方2公演のみということで、貴重な機会になりますね。

そして愛知公演ははいださんとKOJI 1200(今田耕司)という異常空間になりますんで、少しでも気になった方はぜひ観ていただきたいですね。