ナタリー PowerPush - 片桐舞子(from MAY'S)

初ソロアルバムで対峙した「もう1人の自分」

ハッピーなラブソングは絶対書かないって決めていた

──自分の深い部分を歌詞にしていく作業はいかがでした?

今回は全部で6曲の歌詞を書いたんですけど、ハッピーなラブソングは絶対書かないって決めていたので、途中で正直しんどくなった瞬間はありました。「ハッピーなワードが書きたい!」って気持ちがぐーっと大きくなってきたりして(笑)。でもそこは絶対貫かなきゃダメだと思っていたので、どんどん自分の中を掘っていって、もっとディープな自分はいないかなって探しましたね。そうするといるんですよ! “黒舞子”がたくさん(笑)。そういう作業を続けていくうちに、それがどんどん楽しくなってきちゃいました。

──そういうディープな部分って誰しもが持っているものだと思うんですよ。だからこそこの作品が刺さる人たちもきっと多いはずですよね。

なんかね、私自身こういうことをほかの誰かが曲として歌ってくれたら気持ちがラクになるだろうなって思いながら書いてた瞬間があったんですよ。例えば1曲目の「Deeper and Deeper」では誰かが不幸になってしまう恋愛の形を描いているんですけど、そういう恋をしている人のことって他人は誰も肯定してくれないものじゃないですか。私自身、こういう恋愛の経験があるので、それがすごくよくわかる。だからこそ、私がこの曲を歌うことで、「あ、同じ状況の人もいるんだな」って気付いてもらうことができるだろうし、そういう恋愛をしてる人の気持ちを少しでも救うことができるんじゃないかなって。

──なるほど。ご自身のディープな感情を吐き出すことが、同じ感情を持った人への代弁にもなれば、ということですね。

うん。今回の歌詞を書く上ではそういう部分も大きなキーになっていたように思いますね。

ソロの方向性を決定付けた「Deeper and Deeper」

──「Deeper and Deeper」はピアノ1本でエモーショナルな歌声を響かせているバラードですが、オープニングのこの曲を聴いた瞬間に、MAY'Sとは異なる片桐さんの魅力を鮮烈に感じることができたんですよね。

ありがとうございます! 私の声はロー(低音)の成分がかなり多いんですけど、そこが自分ではすごく気に入っているところなんですね。なので、そういう部分をしっかりアピールできる曲を作りたいなって思ったんです。出だしのところなんかは、普通の女の子じゃ出ないくらいキーが鬼低いですからね(笑)。

──ディープな詞世界も含め、ソロアルバム全体の内容をいい形で象徴している楽曲だと思います。

そうですね。実はアルバムの中でこれが最初にできた曲だったりするので、私の中でも方向性を決定付けてくれた感じがありました。この曲を聴いてもらえたら、私がソロとしてやりたかったことがわかってもらえるんじゃないかなって。

──ちなみにこの曲の作曲クレジットには、片桐さんに加え、SHIKATAさん、坂詰美紗子さんの名前が併記されていますが。

これは3人それぞれがフルでメロディを作って、そのいい部分だけをくっつけて作ったんですよ。だからけっこう展開が激しくなってたりするんですけど。そういう面白みもこの制作の中ではありましたね。

自分のことをすごく普通だと思ってる

──先ほどお話に出たJin Nakamuraさんとは、本作のリードトラックとなっている「TOKYO BLUE」を作られてますね。

作文を書いたりとか(笑)、打ち合わせにかなり時間をかけたので、この曲のレコーディングは最後にやったんですよ。歌詞も1回、ほとんど書き換えたりしましたしね。今回のアルバムの中ではわりと普通というか、誰もが共感しやすい失恋ソングになってます。

──Jinさんにディープな部分を引き出すきっかけを与えてもらったにもかかわらず、この曲の歌詞が比較的ベーシックな内容になったのはどうしてだったんでしょう?

私って実は自分のことをすごく普通だと思ってるんですよ。で、そういう話をJinさんにしたら、「変わってるね」って(笑)。「人前に出る人間で自分のことを普通と思ってる人はあんまりいないんだよ」「だからそれは逆にあなたの強みですよ」っていうことで、「それをそのまんま素直に出してみたらどうですか」って言われたんです。だからこういう歌詞の内容になったと思うんですけど。

──すごくリアルな内容になってるのはそういう理由だったんですね。印象的なメロディラインと相まって、曲に落とし込まれた切ない感情がグッと胸に迫ってきます。

これぞJinさんっていうメロディラインですよね。切ないだけじゃなくて、ちょっと力強い感じもあるっていうニュアンスは私としても新しい雰囲気があったし、Jinさんも「僕が作った曲の中でも今までにないタイプですね」っておっしゃってくれてました。ただけっこう難易度の高い曲だったので、いい歌が歌えるようにかなり気合いを入れてレコーディングには臨みましたね。どの曲でもそうなんですけど、今回はその曲が最大限に生きる歌い方をしたので、そういう声色の変化をそれぞれで楽しんでもらえたらいいなって思います。

ミニアルバム「Solo」 / 2013年12月4日発売 / 1800円 / KING RECORDS / KICS-1996
ミニアルバム「Solo」
収録曲
  1. Deeper and Deeper
  2. Anytime, Anywhere ~恋焦がれてたあの頃~
  3. TOKYO BLUE
  4. V.I.P
  5. Ex-Boyfriend
  6. Beautiful
  7. True Love Story ~Luv behind the melody remix~
片桐舞子(from MAY'S)
(かたぎりまいこ ふろむめいず)

1982年5月31日生まれの女性シンガー。音楽ユニットMAY'Sのボーカリストとして、2008年7月にシングル「My Everything」でメジャーデビューを果たす。本格的R&Bと極上のポップスの要素を兼ね備えた楽曲が、幅広い層からの支持を獲得。2012年に公開された映画「今日、恋をはじめます」のテーマソングに新曲「ダイヤモンド」を提供し、話題を集めた。2013年2月には同曲を含むベストアルバム「BEST 2005-2013」を発表。同年12月に初のソロ作品となるミニアルバム「Solo」をリリースした。