ナタリー PowerPush - 鴉(からす)

秋田が生んだ激情スリーピースが全国進出 バンドの軌跡と1stミニアルバム制作秘話を語る

レコーディングで実感した自分たちの実力

——今回のミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」は初の全国流通作品になるんですよね。

近野 はい。生意気ながら「やっとか!」っていう感じです。自分ではいい曲を作ってると思ってたので、チャンスがめぐってきたなと。

一関 鴉を続けてきてよかったなと思いますね。ひとつの区切りになったし、いろんな人に聴いてもらえたらいいですね。

——楽曲はどんなふうに作っているんですか?

近野 普段は僕がMTR(多重録音機)を使ってメロディと歌詞、アレンジまで作って2人に渡してます。で、スタジオで実際に演奏しながらいろいろ詰めていく流れですね。

——1人で作詞作曲、アレンジまでできてしまうのに、バンドという形で音楽を続けている理由は何でしょうか?

近野 僕の中でバンドで音楽をやることが圧倒的にカッコイイし、バンドで音楽をやりたいっていう思いが抜けなくて。1人で音楽をやっても楽しいとは思えないんです。メンバーに音を渡して、3人で音を鳴らした瞬間に作ったものが全然違うものに生まれ変わるのが面白いんですよ。そこから新しい曲も浮かんだりするし。バンドじゃないとダメですね。

——本格的なレコーディングは今回が初めてだったんですか?

近野 はい。アレンジは秋田でやって、レコーディングのみ東京で集中してやりました。でもレコーディング中に技術面でつまづいて。作りたいものに対して、自分たちのクオリティが全然足りないことを痛感しました。

一関 だからレコーディング後は、全員が音に執着するようになりましたね。人に伝えるためにはもっと演奏スキルをあげなきゃと。

日常生活の中で感じたことが創作の源

——鴉の曲には喪失感や寂寥感など、決して明るくはないものを感じるんですが、歌詞は近野さんの心情がベースになっているんですか?

近野 あんまり関係ないですね。ポロっと浮かんだ言葉とかを使ってるだけで。

——楽曲を聴いたときに、孤独で暗い人なのかなと思ったんですが……。

渡邉 いやいや、彼は暗い人ではないですね。

一関 近野は根暗なポジティブだと思います(笑)。

近野 「最初は近づくなオーラがあった」って言われたり、よく怖い人に見られたりするんですよ。でもそういうキャラじゃないし、闇を抱えてるわけでもないし。曲をイメージしながら、その音を引き立たせるメロディや歌詞を考えて作っているだけなんです。

——曲を作るときに参考にしているものはありますか?

近野 小説も読まないし、映画も観ないし、具体的に何かに影響されて曲や歌詞が生まれるというはないですね。日常生活の中で感じたことが源になっていて、平凡な時間の中で曲が生まれることが多いです。

——3月17日までTSUTAYA限定でシングルが無料レンタルされているほか、iTunes Store「今週のシングル」で「時の面影」が配信されるなどアルバムの布石になるようなものがありましたよね。中でもiTunes Storeで配信されていた「時の面影」には、かなり反響があったと聞いています。

近野 曲に対して反応があるのはすごく嬉しいですね。ただアルバムについてはまだわからなくて。いい感じで受け止められるかもと思う一方、受け入れられなかったらどうしようという考えもよぎるし……。「こういうふうに聴いてほしい」とか具体的にイメージを指定できれば違うのかもしれないんですけど、鴉の場合は聴き手に任せている部分が多いので、正直なところ怖いです。

秋田という土地が鴉を作った

——鴉のサウンドには独特の重さと湿り気を感じたんですが、秋田を拠点に活動してることが影響してると思いますか?

近野 普段は自覚してないんですけど、あると思いますね。 やっぱり土地柄が重々しいんじゃないですかね(笑)。もし沖縄に住んでたら違ったと思うし。

一関 もっと色が黒かったとか?

近野 それ音楽と関係ないから(笑)。

——バンド活動を続ける中で、音楽に集中するために地元を離れようと考えたことはありませんでしたか?

一関 うーん……僕はないですね。

近野 他のバンドに「上京したら?」とか言われたり、自分たちでも拠点を変えることを考えなかったわけでもないですけど……。秋田にいることが鴉の楽曲を生んでると思うし、都会に出たら思うように曲が作れない気がして秋田を離れられずにいます。

——ということは今後も秋田を拠点に活動するんでしょうか。

近野 音楽活動が忙しくなったらわからないですね。都内にいるほうが集中できるなら引っ越すと思いますけど。あんまり考えてないです。

——もしも移動することになったらまた違う側面が出てきそうですね。最近は秋田以外でも積極的にライブをされていますが、地元と比べてお客さんの反応はいかがですか?

近野 東京は反応が素直だなぁと思います。僕らの音に興味ある人とない人がはっきりしていて、中途半端な人がいない。地元に比べると圧倒的に知らない人ばかりなのでシビアな面もあるけど、逆に気軽にやれるところもあります。

——アルバムリリース後にはツアーが始まります。準備はいかがですか?

一関 今はひたすら練習してますね。ただ気合いを入れすぎると空回りするんで、ニュートラルな気持ちで臨めるように訓練中です。

渡邉 どの会場でも鴉らしいステージを見せることができればと思っています。

ミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」 / 2009年3月4日発売 / 1500円(税込) / 激唱 / GKSW-0001

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CD収録曲
  1. 時の面影
  2. Am
  3. 茜空
  4. 優しい歌
  5. 爽鬱
  6. 帰る場所
鴉(からす)

近野淳一(Vo,G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなるスリーピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」をリリース。