ナタリー PowerPush - 鴉
近野淳一と山崎賢人の初対談
鴉が2ndミニアルバム「感傷形成気分はいかが」をリリースした。今作のリード曲は、バンド史上最もポップに響き渡る「列車」。ビデオクリップも従来とは趣向を変え、ストーリー仕立ての映像に仕上がっている。
ナタリーでは今回、鴉のフロントマン・近野淳一(Vo, G)と、「列車」PVで主人公を演じた俳優・山崎賢人の対談を実施。2人に、「列車」を軸に語り合ってもらった。なお、山崎は元々鴉の音楽が好きで、俳優としてデビューする以前からライブにも足を運んでいた経歴を持つ。対談は、山崎が口にする言葉の端々からファンとしての喜びが感じられる、和やかな空気の中進行した。
取材・文 / 野口理香 撮影 / 藤井拓
鴉の音楽とは「夢」で出会った
──お2人はこれが初対面なんでしょうか?
近野淳一 そうなんです。はじめまして。
山崎賢人 でも僕は、鴉のライブを観たことがあるんで、はじめましてって感じがしないです。
──山崎さんは元々鴉の音楽をご存じだったそうですが、初めて触れたのはいつ頃なんですか?
山崎 テレビ東京系 ドラマ24「怨み屋本舗REBOOT」の主題歌の「夢」で知って、ヤバいな、すげえカッコいいなと思って。それをきっかけにいろいろ調べたら、ほかにもいい曲があって。で、ライブがちょうど近いうちにあったので、足を運んでみたら、ライブもすごくカッコよくて。それで夢中になりました。
──PVで山崎さんが出られるシーンの撮影には、メンバーは立ち会われなかったんですね。
近野 はい。すごく行きたかったんですけど、今回は残念ながら撮影が別々の場所だったので。
──いつ頃撮影されたものなんでしょう?
山崎 5月の下旬ぐらいですね。
──ちなみに山野内監督とお仕事されたのは?
山崎 初めてでした。山野内監督もカッコいい人でした。さわやかな感じの。
近野 さわやかかなあ……(笑)。僕らが組むのは「待っていてください」に続いて2回目だったんですけど、アーティスティックな監督だとは思いましたね。
男の子がいるイメージが強かった
──PVで山崎さんは、「列車」という楽曲からイメージされた物語を演じていますが、鴉にとってストーリー仕立てのPVって初めてですよね?
近野 そうですね、うん。「列車」っていう曲自体が結構ストレートな感じの内容なので、まあ列車は出てこないとなあって単純に思って。このPVを作る上で山野内監督と打ち合わせしたときには、そういうことを話し合って。それと、今まで女性に出てもらったことはたくさんあったんですけど、今回は男の子がいるイメージが僕の中で強かったんですね。それを先に伝えて。
──男の子がいる?
近野 いる、までですね。そこから先はちょっとどうなるか見えてなかったんですけど、山野内監督がそこからいろいろアイデアを広げてくれて。
──山崎さんは、出演のお話をもらったときにどう思いました?
山崎 もう……「ホントですか!?」って何回も聞き直して(笑)。すごくうれしかったです。
──役者さんが音楽に思い入れがあると、演じるときの気持ちもまた変わるのかなと思いました。
山崎 そうですね。PVの撮影をしてるときは、曲を流してるわけじゃなかったんですけど、自分の頭の中で曲がずっと流れてました。ずっと聴いて覚えてたんで。それから、ロケ地がすごく自然が豊かなところだったんで、それも手伝ってか、自分の中で役の想像がどんどんできたように思います。
主人公の人物像は「葛藤を抱えた人」
──役柄についてもう少し訊かせてください。主人公の男の子は、どんな境遇に置かれている人なんでしょう?
山崎 監督に言われたのは、上京しなくちゃいけない状況なんだけど、自分はまだそれに納得してなくてモヤモヤした気持ちを持ってる。でも一応、列車に乗ろうとして駅に向かってるところだ、と。そんなイメージで、って説明していただいて。
近野 へえー。初めて聞いた。いやあ、俺はなんか学校ですげえ嫌なことがあったのかな、とか思ってた。「あいつマジムカつくわー」とかって思ってるところから始まったのかなって。
──演じてみていかがでしたか?
山崎 撮影期間は1日と短かったんです。パッと撮った感じで。でも撮られてるうちに、だんだん役になりきれたかな、と思いました。
──PVはどこで撮影されたんですか?
山崎 秩父鉄道のとある駅を借りて撮ったんです。普通に電車が通ってる昼間の時間帯だったんですけど、田舎のほうの駅だったんで、そんなには人がいなかったんですよ。
──映像を観ると、一見どこだかわからない、不思議な非日常感があるなあと思ったんですね。山崎さんが演じてる男の子の迷いが、映像の明るさ、光が強い感じに出ているのかなと。短編映画のようにも思えました。
山崎 そうですね。ちょっと映画みたいだな、とは思いました。
──ところで、最後のほうにシャボン玉を吹くシーンで小さな男の子が出てきますよね。あれはどういった意味で?
山崎 あれは、昔の自分を思い浮かべる、ってシーンなんです。あの男の子は中村祐翔くんという子で、撮影のときに仲良くなれて。さっき言ったとおり撮影は1日だけだったんですけど、面白かったですよ。あの子がスタッフさんにずっとイタズラしてるのを見て笑ったり。最後は「帰りたくないよー」って言うぐらい、楽しんでくれたみたいです。
──近野さんは、山崎さんの出ているシーンを観てどう思われました?
近野 最初は、勝手な先入観で、さわやかな感じになりすぎるんじゃないかなって不安もあったんですよ。でもちゃんと細やかな表情を演じてくれてたんで、主人公が抱えているもどかしい気持ちとか苛立ちとかが伝わるな、と。憂鬱な気分をわかりやすく演じてくれてたので、すごくありがたいなと思いました。
山崎 いや、ありがとうございます。うれしいです。
近野 すいません、素人なのに生意気なこと言って(笑)。
鴉(からす)
近野淳一(Vo, G)、一関卓(B)、榎本征広(Dr)からなるスリーピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。
2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」を発売。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。また「夢」がテレビ東京系 ドラマ24「怨み屋本舗REBOOT」の主題歌に、4thシングル「巣立ち」がMBS・TBS系列 10月ドラマ「闇金ウシジマくん」の主題歌に起用され、話題を集める。2010年12月、1stフルアルバム「未知標」をリリース。その後2011年3月に榎本が加入し、現体制に。8月には2ndミニアルバム「感傷形成気分はいかが」を発表した。
山崎賢人(やまざきけんと)
1994年生まれの俳優。2010年よりテレビドラマ、CMなどに出演し、2011年公開の三木孝浩監督映画「管制塔」で主人公の中学生・藤田駈役を演じて頭角を現す。2012年には東宝系映画「麒麟の翼~劇場版・新参者~(仮題)」「Another」と2作に出演。「Another」では主演を務める。