ナタリー PowerPush - 鴉

バンドの歴史と変化を詰め込んだ 1stフルアルバム「未知標」

鴉の1stフルアルバム「未知標」がついにリリースされた。2009年春に初めての全国流通盤「影なる道背に光あればこそ」をリリースしてから1年9カ月、バンドが歩んだ道は決して平坦なものではなかった。迷いくじけそうになった時期を、ライブを重ねることで乗り越えてきた彼ら。今作は、多くのライブで得たテクニックの向上とメンバーそれぞれへの信頼を力に作り上げられたアルバムとなった。

インタビューでは、メンバー3人がそれぞれの思いを吐露。特に全楽曲の作詞作曲を手がける近野淳一(Vo, G)の心境の変化が、鴉というバンドに転機をもたらしたことが明かされている。このテキストを、彼らの“今”が感じられる作品を楽しむお供にしてほしい。

取材・文/野口理香

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「これが鴉です」って言えるものが作れた

──まずは、1stアルバムが完成した率直な感想を聞かせていただけますか?

近野淳一(Vo, G) もう一度、原点に戻ってきたかなって。僕は、アルバムって本来いろんな楽曲を入れてバラエティを楽しむものだと考えてるんですよ。でも、鴉には世に出せてない大好きな曲がたくさんあったので、今回はバラエティ性はあまり意識せず、改めて鴉を人に知ってもらう作品にしようと。そういう意味で、初めての場所に戻った気分です。

一関卓(B) このアルバムには昔からやってた曲も新しい曲も、両方入ってるんですよ。だから思い入れの強い作品になったし、制作期間とは違う意味で長い時間が感じられるものになりました。

──バンドの歴史が濃縮されていると。

一関 そうですね。昔から応援してくれてる人にも、シングルをずっと聴いてくれてる人にも、アルバムから知ってくれる人にも「これが鴉です」って言えるものが作れたんじゃないかなと。

渡邉光彦(Dr) 確かに。ここ何年かの集大成的な作品になったし。14曲、良い曲ばかり入れられて、うれしい限りです。

レコーディングでは良くも悪くも正直になってきた

──以前のインタビューで「レコーディングを楽しめるようになりました」と話されていました。あれから1年ちょっと経って、制作面で変わった部分はありますか?

近野 今ももちろん楽しんでます。でもそれ以上に、本当に表現したい音を出していこうという気持ちが強くなりました。たぶんあの頃は、楽しむだけで限界だったと思うんですけど、ようやく音を選べるようになってきた。あれのほうがいいのかな、これのほうがいいのかなって素直に悩めるようになったんです。

──スタジオで試行錯誤する余裕が出てきたということ?

近野 そうですね。腕を磨いてきた成果か、ようやく表現したい音を出せるようになったんです。あと、ライブではできない音源ならではの工夫を凝らしたり。例えばピアノを入れることひとつとっても、前は周りの意見に流されてた部分も正直あって。でも最近は、本当に必要だという判断ができるようになりましたね。

──なるほど。制作時に「これでいいだろう」と妥協しなくなったと。こだわりが強くなったということでしょうか。

近野 そうですね。良くも悪くも(笑)。強いというか、正直になってきた。

アルバムだからこそ入れられた曲もある

──今回のアルバムには、鴉の軸である激しい楽曲もありつつ、スウィングジャズの要素が感じられる「雨上がりのジルバ」「黒髪ストレンジャー」や、あたたかみのある「小さな手」「安物の私達」といったナンバーも収められています。先程、近野さんはバラエティ性はあまり意識せず、とおっしゃってましたが、結果的にさまざまなタイプの楽曲が収められたということですか?

近野 そうですね。収録曲には、今までリリースしてきた作品に入れられなかったものが多いんですよ。例えばシングルだったら入れられるのはせいぜい3曲ぐらいですよね。そこで鴉の音楽を勘違いされたくないなっていう気持ちから収録を見送った曲も、アルバムだからこそ入れられたんです。僕、バラード曲も結構作るんですよ。

──なるほど。ちなみに収録曲中、一番古いのが「今日モ旅路ハ雨模様」とのことですが、最近作られたのはどれですか?

近野 一番新しいのはどれだろうな……「ジルバ」「安物」「未知標」あたりが同じデモ音源ですね。

──選曲はどんな感じで進めたんでしょう。

渡邉 とりあえず僕らとディレクターで、入れたい曲をみつくろって(笑)。

──膨大なデモや既存曲の中からこの14曲が選ばれたのはなぜですか?

近野 全部、俺が「これ1曲で売りたい」って考えた曲なんですよ。全曲シングルにしてもいいと思ってるぐらい。

──では、この1stアルバムは今までの鴉の総括、といっていいんですかね。

近野 はい。入れたい曲はほかにもあったけど、これが鴉です。

1stアルバム「未知標」 / 2010年12月8日発売 / 2800円(税込) / TOY'S FACTORY / TFCC-86340

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CD収録曲
  1. 半身創痍
  2. 夢(アルバムミックス)
  3. 雨上がりのジルバ
  4. 待っていてください
  5. 巣立ち(アルバムミックス)
  6. 小さな手
  7. 今日モ旅路ハ雨模様
  8. 向かい風(アルバムミックス)
  9. 安物の私達
  10. 風のメロディ(アルバムミックス)
  11. 黒髪ストレンジャー(アルバムミックス)
  12. かわず
  13. 時の面影(再録)
  14. 未知標
(からす)

近野淳一(Vo, G)、一関卓(B)、渡邉光彦(Dr)からなる3ピースバンド。2001年に近野を中心に秋田で結成。エモーショナルかつ重厚なサウンドと叙情的な歌詞世界で、地元で絶大な支持を集める。2008年頃より関東地区でのライブ活動を開始。2009年1月にTSUTAYA限定シングル「時の面影」を発表、同年2月に「時の面影」がiTunes Store「今週のシングル」に選ばれ各方面で反響を呼ぶ。2009年3月、初の全国流通作品となるミニアルバム「影なる道背に光あればこそ」を発売。2009年8月には1stシングル「夢」でメジャー進出を果たす。また「夢」がドラマ「怨み屋本舗REBOOT」の主題歌に、4thシングル「巣立ち」がドラマ「闇金ウシジマくん」の主題歌に起用され、話題を集める。2010年12月、1stフルアルバム「未知標」をリリース。